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正道こそ王道  作者: マスター
05.来訪者
54/66

53:責任

先週は投稿出来なくてごめんなさい。


来訪者の雇い主とミーミルの妹のアイシャ側のお話……短くてごめんなさい。


 『ハイトロン法国』の権力者の一人であるシェリーム女伯爵。女性の権利向上を訴える団体の一人であり、来訪者達のスポンサーである。シェリーム伯爵は、5代続く名家であり、国内でも発言力を有している。


 そんな女伯爵の家にある一室でシェリーム女伯爵は、頭を抱えていた。30代後半の彼女ではあるが、20代後半と言っても十分通用する美貌、美しい青髪は艶やかであり、社交の場では誰もが褒めるほどだ。


 だが、今の彼女は年相応に老け込んでいた。


「何をどうすれば、ここまで事態を大きくできるの」


 彼女の悩みの種であるのは、来訪者の行動だ。こんな事態になるならば、拾わなければ良かったと後悔の念にかられていた。


 彼女と来訪者との出会いは、旅の帰路で反対派貴族に襲撃された所を助けられた事に始まる。その際に、類いまれな才能を見せ付けられ、私兵として雇ったのだ。来訪者側としても、現地の権力者と繋がりができるだけでなく、給金も貰えるとなれば渡りに船であったので、両者の関係は雇用主と傭兵といった感じだ。


「多少の自由行動は認めていましたが、奴隷商襲撃して奴隷を連れて帰ってくるとか、理解できない」


 女性の権利向上を訴える者の一人だとは言え、全ての女性の権利向上を訴えているわけではない。女性貴族や社会進出して働く、女性の権利向上を訴えているのだ。その中に、奴隷である女性は当然対象とされていない。


 そもそも、奴隷を力で強奪してくる愚行などまともな神経ではできない。金さえ用意すれば、何の憂いも無く手に入るのに、ソレを野盗の如く強奪するなど犯罪者の手口だ。それを悪い事だと思っていないあたり、無自覚な犯罪者と言うべき存在だ。


 よって、今のシェリーム女伯爵は全力で来訪者の存在を隠し通さなければならなかった。どのような経緯であれ、来訪者の雇用主である事には変わらない。それに、既に奴隷を連れ帰ってきており、見つかれば冗談では済まない。


 可及的速やかに奴隷を纏めて国外に放出するか、来訪者もろとも闇に葬るしか生き残る道がないという手詰まりの状況であった。


 だが、そんな状況でも来訪者達を見捨てるという選択肢が取れないのは、ある種のジレンマである。これから金を産む卵になる可能性を秘めた来訪者を手放しては、彼女には損害しか残らない。それならば、含み損である来訪者が金を産むガチョウになるまで確保しておくべきでは無いかという思考に陥っているのだ。


「おまけに、民主主義って……早すぎるわ」


 彼女が、来訪者達から聞いた知識で役に立つと感じた物であった。現状、『ハイトロン法国』において、国家の運営に関われる女性は非常に少ない。ポスト的な問題もあるが、やはり男性社会であるという強い思想がある。


 ソレを打開する一つの案として民意による政治介入は有用だと判断できたのだ。だから、彼女は、「素晴らしい考えね」と来訪者を賞賛した。それが原因で、来訪者は勢いづいた。理想と現実を履き違えて、来訪者達は彼らなりに平和な世界を目指すため努力する事を決意したのだ。


 その平和を得るためにどれほどの犠牲がでるかも考えないまま、人が沢山集まる場所で民主主義を説き、広めていった。


………

……


 山ほどの懸案を抱えている彼女に、更なる試練が舞い込んだ。来訪者であるナグモ・セイジ、サトウ・サユリがシェリーム女伯爵の私室を訪れていた。


「ごめんなさい。もう一度、言って貰えるかしら?」


「シェリームさん、あの~、カタクラが……朝出かけてから帰ってきていません。それも、奴隷商から救い出した子を一人連れて」


 嘘であって欲しいとシェリームは、本当に神へ祈った。


 だが、現実は非情である。既に事実は覆らない。しかも、出て行ってすぐでは無く、夕方になって「帰ってきていません」と伝えてくる当たり悪意を感じざるを得なかった。彼女は、奴隷商や法王庁が、奴隷商襲撃犯を本腰いれて探しているのを知っており、来訪者には再三外出は控えるように伝えていたのだ。


 だが、早々に裏切られる。


「ナグモ・セイジさん……私の立場は、貴方達の雇用主であったはずです。多少の自由行動は許しておりました。たった三人で奴隷商を襲撃して、多数の女性を連れてきた事や民主主義という思想を広めた事も目をつぶりましょう」


「「ごめんなさい」」


 来訪者達の善悪の基準で言えば、奴隷商から不遇な人を救う事や民主主義という思想を広める事は世直しであり、善であるという強い思い込みがあった。それをなすだけの力があり、そうする事が運命だと酔いしれていた。


 だが、ここは異世界だ。来訪者と同じ年齢で、社会人として働く者や結婚し子供がいる者達も多い。この世界を基準に考えるならば、来訪者達は立派な大人だ。よって、自分がしでかした事は自分で尻ぬぐいをすべきなのだ。


 雇い主であるシェリーム女伯爵は、当然来訪者の事情や信念など知らないし……そんな事情を汲み取る必要もない。


「この際だからハッキリ申し上げましょう。このままでは遠からず破綻します。それも、貴方達の身勝手な行動が原因で!! 再三、伝えていたはず……ドコに監視の目があるか分からないから不必要な外出は控えるようにと。それを、奴隷の子を連れて外出など、愚かとしか言えません。どのように責任を取るのですか?」


「せ、責任はカタクラが」


「貴方達の仲間でしょ。それに、夕方になって帰ってきていませんと報告してくるあたり、何を考えているのですか。話を聞くに、朝出かけた際に貴方はカタクラを目撃しているはず。なぜ、引き留めなかったのですか。なぜ、私に報告に来なかったのですか」


 大人として当たり前の事を指摘しているだけだが、学生である来訪者にしてみれば厳しいものであった。そもそも、学生とはいわばお客様みたいな立場である。お金を貰うという責任について、知っていても理解が追いついていない。


 確かに、社会という未知の世界に放り出されて、お金を得るために労働をするしか無かった事は来訪者達にとって不幸であっただろう。それも、異世界の社会ならば、尚更である。


 だからこそ、来訪者達はそんな境遇に救いの手を差し伸べてくれたシェリーム女伯爵を裏切るような行為はしてはならない。それは、どの世界でも言える常識である。


「俺の死霊魔法ですぐに人海戦術を……」


「ナグモ、貴方の死霊魔法が強力で便利なのは知っています。ですが、日が間もなく沈むこの時間で死霊魔法の遠隔操作でカタクラ達を探し出せるとは到底思えません」


 ナグモは、大国である『ハイトロン法国』でも片手で足りる程しかいない死霊魔法を行使できる。その為、切るに切れない存在なのだ。


◆◆◆


 ミーミルの妹であるアイシャは、シェリーム女伯爵の別宅地下で軟禁されていた。だが、ただ大人しく捕まっているようなタマでもなかった。


 助けが来なければ自力で脱出する為、着々と準備が整いつつあった。


「しかし……ここには馬鹿しか居ないのかしらね」


「アイシャ、馬鹿と一緒にしたら馬鹿が可哀想だろう」


 アイシャは、ここ数日、助け出された奴隷の子と話したい、入浴したいなど色々と注文し、叶えさせていた。来訪者側としても、ご機嫌をとる一環で許可していた。その際の移動や会話から、既に逃走経路まで検討していたのだ。


「あんなのが配下に居たんじゃ~、雇い主も直にお仕舞いね。それで、シュバイバル、彼等にはこの制御輪の破壊方法を教えて良かったの?」


「問題無い。破壊方法が分かったとしてもソレを実現出来る人がどれだけ居ると思う? それに、制御輪破壊など誰が好き好んで関わるものか」


 その通りである。『ゴスペラーズ』の一人であるエスカロリオが所長を務める第八研究所謹製の制御輪を破壊出来る人物となれば、犯罪に加担せずにとも、何不自由なく暮らせるだけの能力があるに等しい。


「となれば、彼等が頼み込む相手は……ダオスさんかな」


「十中八九そうなるだろう。立場や依頼のしやすさを考えれば、ほぼ一択だ」


 ダオス達が最善を尽くすと同時に、アイシャ達もまた最善を尽くしていた。

年度末で色々忙しいぞーー。


来訪者の雇い主は、馬鹿じゃ無いのよ><この人も巻き込まれたパターンなのよ……こんな無能だとは想定外だった的な。

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