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正道こそ王道  作者: マスター
05.来訪者
51/66

50:メイド

いつもありがとうございます!!


気がつけば、本作品を投稿しはじめてほぼ一年が経過してたという事実。

50話までこれたのも読者様のおかげです。

ありがとうございます。



 ダオスは、ミハエルの仕事に絶対の信頼を置いていた。どうあがいても、本職殺し屋相手に、襲われて来訪者が生き残れるはずがない。よって、ダオスは、テラス席に残ったメイド服を着た奴隷を観察していた。


 メイド服は仕事着として確かに存在する。だが、それを着て外に出るなど通常あり得ない。メイドが雇える程の家ならば、基本的に食材などは専門の業者が配達してくるので、敷地内から出る事はない。


「頃合いか」 


 ダオスが席を立つ。来訪者であるカタクラ・マモルを追ってミハエルがトイレに入って既に一分が経過した。蘇生不可能なほどバラバラにして、肥だめに放り込み、現場を洗浄するには十分な時間が経過していたのだ。


 殺しがあった形跡すら抹消して一流である。


「ご主人様、遅いな~」


 彼女の発言に、ダオスは危機感の欠如が著しいなと感じていた。


 本来であれば、どこぞの金持ちに売り飛ばされて、慰み者にされていても不思議ではなかった。決して、奴隷という身分を脱却したわけでもない……それどころか、奴隷襲撃犯と一緒に外食という摩訶不思議な事をしているのだ。


 今すぐにでも自らの足で、売られた先の奴隷商に足を運んでいれば、相応の待遇が受けられただろう。なんせ、犯人の情報を持っているのだ。解放された上に、謝礼金をたんまりもらえて円満な人生を送れただろう。


 ピンチをチャンスに変えるという有り難い言葉がある。まさに、今がその時なのだ。彼女にとって、襲撃犯達といる事はピンチであり、カタクラ・マモルが便所でいないタイミングで逃げ出すべきだったのだ。


「あまり出歩かれては困りますよ。サトウ・ユリ様から注意を受けなかったのですか?」


 ダオスは、平然と来訪者の一人の名前を使って彼女に注意した。勿論、嘘である。この場に居ない女性の来訪者の名前を活用する。


 彼女は、いきなり話しかけられて動揺していた。当然だ……偶然、足を運んだお店のテラス席で、話しかけられたのだ。しかも、自らのご主人様と同じ恩人の一人の名前を使われて。


 だからこそ、彼女はダオスを無視できなかった。彼女にとって、ダオスは覚えのない男性であった……だが、それは自分が覚えていないだけかもしれないという思考に陥ったのだ。


「ごめんなさい。ご主人様がどうしてもと……今、トイレに行かれているので戻られたらすぐに戻ります」


 彼女は取り繕った。必死に、ダオスといつ会っただろうかと思い出そうとしているが、全くの無意味だ。そもそも、初対面である。だが、大人である彼女は、「誰ですか?」とは言えなかったのだ。


「ならば、私がこの場に残りましょう。悪いが、貴方は目立ちすぎる。少しは立場を考えて欲しいですね」


 ダオスは、自らの首を人差し指でトントンと叩いた。


 商品の証である制御輪を付けたまま、無闇に出歩くなと暗に示したのだ。万が一、それが第三者に見られでもしたら大惨事になること間違いない。


「っ!! わかりました。では、ご主人様には先に戻りますとお伝えください」


「戻られたら必ず」


 そして、彼女がお店を出ると同時にミハエルも仕事を得てトイレから出てきた。その様子は、トイレに入った時と同じであり、返り血一つすら浴びていない。ミハエルは、もう一人のターゲットが居ない事に気がついたが、焦りはしなかった。


「ミハエル、人気の無い場所に入ったら処理するぞ」


『殺していいの? 情報を聞き出す必要は?』


「知っているか? メイド服なんて作っている店は数が知れている。それに、メイド服は統一規格という物が存在しない。よって、身ぐるみ剥げば、身元が割れる」


 ダオスが知る豆知識である。事実、メイド服とは、当主の好みが反映されたオーダー品として製造される。言わば、家紋みたいな物なのだ。


『……そういえば、ミーミル嬢ってメイド服を着てた時があったよね。サクラちゃんと遊んでいる時とかにさ~』


「好きな女性からメイド服を強請られて買ったまでだ。何ら恥じることはない」


 恥じることなく言い切るダオスは、まさに男であった。



◇◇◇


 女の勘……案外馬鹿にできない物であった。


 メイド服を着た奴隷の彼女は、胸騒ぎがしたので普段の帰宅ルートでない場所を通っていた。裏道で人通りが少ない場所だ。しかし、念には念をいれて、索敵魔法まで行使して細心の注意を払っている。


 商品の付加価値を付けるために、奴隷商で学ばされた事が役に立っている。魔法により周囲に誰も居ない事を確認した。元のルートに戻るため歩みを始めたが、すぐに足を止めた。


 索敵魔法で誰も居なかった場所から一人の男性が出てきた。しかも、双方の手に杖と刀剣を持っており、一般人でないことは明白である。だが、その筋肉質な男性を彼女は覚えていた。


「索敵魔法を使えたのか、奴隷商も惜しい商品を逃がしてしまったな」


「貴方は、先ほどテラスに居た!!」


 彼女は、その瞬間理解して直ぐに人通りの多い場所に抜けるため走り出した。人目につく場所ならば、ダオス達も手が出せないと判断したのだ。正しい認識である。だが、それにはリスクが伴う……彼女は、奴隷商が血眼で探している商品の一つなのだ。


 だからこそ、裏道を歩いていたのだ。だが、命が危ないとなれば、そうも言ってられない状況である。


 しかし、彼女の考えは甘い。逃亡を図った方向には既にミハエルが構えており、一本道であるこの場所から彼女が逃げる方向は上か下しか残っていなかった。前門のダオス、後門のミハエルである。


「貴様等は、多方面に喧嘩を売りすぎた。どうなるか、分かっているな」


「は、話さないわよ!! 絶対に何も話さないわよ」


 その答えにダオスは何を勘違いしているかと思った。ミハエルも呆れている。当然だ。まさか、何かしゃべるまで生かしておいて貰えると思っているお花畑の脳みそに呆れているのだ。


「"麻痺(パラライズ)"……勿論、その必要は無い。貴様を生かしてく方がリスクがあるからな」


「……!!??」


 パリンと彼女が持つ抗魔クリスタルが砕け散った。


 彼女の身を案じた者が、万が一の場合にと持たせておいてくれた高価な品だ。だが、ダオスの状態異常魔法の前には純度も数も不足していた。何の守りにもならず、彼女は指一本動かせなくなった。


 ダオスの手にある刃物が光る。紳士であるダオスは女性をいたぶる趣味など持ち合わせていない。一瞬の痛みであの世に葬るのだ。


『準備できたよ、ダオス』


「あの世でご主人様に仲良くな」


 ミハエルが彼女の衣服を全て回収し、ダオスが一刀の下、彼女を屠った。あの世で、ご主人様と慕うカタクラ・マモルと達者でなと。

人知れず悪を葬る悪の組織……これって、もはや正義の組織ではと思ってしまう。

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