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正道こそ王道  作者: マスター
04.勇者
43/66

42:戦い

本当に申し訳ない。

先週勝手にお休みするわ。今週も投稿時間が違うわ。

自らにサボるなと言い聞かせているのだが、色々とあってorz

 圧倒的な理不尽を振りまくアレンサーに対し、嫌悪の感情を抱くダオスと被害者達。


 積み上げた努力を一瞬で追い抜き嘲笑う所行。しかも、その糧となったのが長年苦労した被害者の仲間では笑えない。更に言えば、糧となた者達など記憶にも無いと明言している。


 もはや、どちらかが死ぬまで争いは止まらない。


「絶対に、ガキに手持ちの武器を取られるな。自信が無い者は、そこにあるダストボックスに放り込め」


 魔法が封じられているアレンサーにとって、相手が持つ武器は何としてでも手に入れたいと考えていた。素手で人を殺すより、刀剣の類いを使った方が楽だし確実である。


 冒険者として長年鍛えてきた者達と若くして将来有望の青年……マトモにやり合えば、後者が勝利する公算は高い。だが、前者の人数が二十人を超えていて、後者が一人の場合はどうだろうか。


 純粋な身体能力のみが物を言う土俵で戦えば、前者が遙かに有利である。加えて言えば、強化魔法で身体能力が向上している者もいる。ダオスの発言一つで、勝敗が決したと言っても過言では無い。


「あぁ、そういうことか。大人を舐めたガキがどうなるか、体に教えてやる」


「私は、支援に努めるわ。殴り合いは、男に任せる」


 ダオスは、被害者である男女……特に、女性の発言に物申したかったが、言葉を飲んだ。


 一般論で言えば、肉体能力に関して男性に分があると言われている。それに関してダオスも否定する気は無い。だが、アマゾネスみたいな女がソレを口にしたのだから、誰だって疑問に思う。


 だが、大人である者達は、TPOを弁えている。


「あぁ~、ダオス。話している所悪いんだが、五分で処理してくれ。現在進行形で、13使徒の【雷鳴】がココに向かっている。問題が解決していなければ研究所ごと、更地になる可能性も否定できない」


「分かっている。だが、五分は長いな。あんなガキ一人、十人を超える屈強な男が囲んで袋にすれば、三分あれば足りる……私は、言うまでもなく後衛だ。状態異常魔法をもって支援に努めよう」


 ダオスが自らを後衛と発言した瞬間、周囲の者達から先ほどのアマゾネス女性と同じ反応が返ってきた。誰の目から見てもダオスは筋骨隆々だ。片手でリンゴを粉砕するなど朝飯前の肉体を持っている。なのに、後衛だと言い張るのだ。


 得意魔法が状態異常魔法である為、後衛という一般論は正しいが……。


「よろしく頼むよ。さて、我々、職員は悪霊を引き離そう……火に弱いのだろう? ならば、爆破しても同じと考えて問題あるまい」


 エスカロリオが指をパチンとならすと、シェルターの別の入り口から幼女の姿をした化け物達が続々と入場してきた。化け物達は、失敗作として命を落とした所をエスカロリオの死霊魔法で再利用したものだ。第八研究所では、環境への配慮も忘れない。エコの施策をとっていう最先端な場所である。


 人には優しくないが、環境には優しい人達が多い。


 アレンサーは、エスカロリオが招いた存在を目にして、動きが止まる。悪霊も同様だ。アレンサーが多数の者を犠牲にして延命させるまでにこぎ着けた化け物と全く同じ容姿をしたモノが並んでいる。


「さ、さくらちゃん?」


 人の形をしただけの量産型化け物を妹の名で呼ばれたダオスの怒りは頂点に達した。相手を怒らせる事で隙を作る作戦を無意識下で行うアレンサーは、優秀である。


「その名で、あの肉塊を呼ぶな。よく見ていろ……血肉を喰らい蝕み、敵を滅ぼす力を与えたまえ――"猛毒(デットリー・ポイズン)"」


 ダオスは、エスカロリオが呼び寄せた化け物に向けて、全力の状態異常魔法を放った。憎しみ、怒り、恨みなど負の感情を存分につぎ込まれた魔法だ。


 化け物達の皮膚が崩れ落ち、肉が溶け、腐敗臭が漂い始める。


 モンスターの死体を見慣れている探索者であっても、人の形をした化け物が死ぬ様は心にくるものが有るらしく、幾人かが目を瞑ったり、嘔吐している。殺し合う相手を目の前にそのような行為など覚悟が足りない証拠である。


「き、きさまぁぁ!! 命を何だと思って」


「アッ―ァ―ァ――」


 アレンサーと悪霊がダオスが処分した化け物をみて頭に血が登る。見知った者や容姿が良い者には、優しいという実に勇者らしい。


「この化け者は、愛玩用として出荷される予定であった。その為、骨格から色々と違う。例えば、その股関節の部分を……」


 ダオスが親切に講義する。学の無い者達にも分かるように話すが、その行動が相手の神経を逆なでした。加えて言えば、その後ろで研究者達が「エコじゃありませんね」「血や肉は再利用出来る」など、アレンサーが数々のモノを犠牲にして救った存在を嘲笑うかのような行為が戦端を切る。


 ダオスは、即座に法天エンプレスを構える。


 既に、二発目の状態異常魔法を放つに十分な魔力を込め終えている。ダオスは無駄に話していたわけでは無い。最高の持てなしをするために、貴重な時間を割いていたのだ。そして、第八研究所の職員達も最高の準備を終えていた。


「君は馬鹿かね。この人数相手に勝てる存在など13使徒でもいるかわからんぞ」


 第八研究所の副所長が評価を下す。一騎当千の力をもつ13使徒ではあるが……一芸特化である『ゴスペラーズ』のダオスとエスカロリオ。それに加え、違法研究で追っ手を振り切り『ハイトロン法国』に亡命してきた頭のおかしい職員達が揃っている。正面から戦わなければ13使徒相手でも勝機はある。


「ヴェルマール……あれを引き剥がせるか?」


「無論だ。火に弱いという弱点と無駄話に付き合ってくれたおかげで解析する時間は十分にあった」


 ダオスは別にそのような意図はなかったのだが、副所長であるヴェルマールはダオスを高く評価した。魔法開発の権威でもあり、どのような魔法であれ禁術に指定される程の魔法が使える存在を評価しないなどありえない。


 ヴェルマールが手に持つ水晶ドクロが紫色の光を放つ。その禍々しい光は、味方であれば実に頼もしい限りだと誰もが思った。


「シャーーーリーーー!!」


「この程度で死なないでくれよ。"太陽の輝き(フレア)"」


 味方が居る事など配慮しない威力で放たれた魔法は、シェルター内を真っ赤に染める。炎に弱いからと言って限度というモノがあると言いたくなるほどだ。熱風で肌がちりちりする程で、その中心部とされたアレンサーと悪霊の被害は甚大であろう。


 敵につけいる隙を与えない為、味方を配慮しなかったと言えば、正しい判断とも言える。だが、それを涼しい顔で行うからこそ第八研究所の者達は悪い意味で有名になるのだ。


 第八研究所の職員達は、こうなることが分かっていたので自らの身の守りを固めていた。だが、部外者である者達はそうはいかず……ダオスが"沈黙(サイレンス)"を用いて被害が来ないように被害者を守ったのだ。


「み、味方ごと殺す気かぁ!!」


「大丈夫だ、ダオスが守っただろう。それに、今の攻撃で死ぬならば足手まといだ。大人しく下がっていた方が身のためだ」


 被害者の一人がエスカロリオ含む第八研究所の者達に文句を言う。だが、一笑されておわる。敵を攻撃した余波でダメージを負うならば確かに下がっていた方がよい。相手は勇者なのだ。そんな人物を相手取るのに、弱者など邪魔にしかならない。


「安心しろ、支援に徹すると言っただろう。出鼻をくじいた今が潰し時だ。必ず三人以上で攻めろ……全員が正面に立つような馬鹿じゃない事を祈る」


 ダオスが言葉を言い終わると同時に、アレンサーが無謀と勇敢をはき違えて突っ込んできた。手負いの獣ではなく、無傷だ。その代わり、アレンサーに纏わり付いていた悪霊のサイズが大幅に小さくなっている。


「ちっ!! どうやら、あのガキを守るために魔力を使うほど悪霊が消失していくのか。……ならば!! "重力(グラビティ)"」


 第八研究所の職員の一人が、攻撃魔法である"重力(グラビティ)"を使い強引にアレンサーだけを見事に引き寄せた。本来、この魔法は上から下へと加重を増す攻撃魔法である。しかし、魔法とは使い方一つで無限の可能性を秘めている。


 一部の者を除いて、その使い方は思いつかなかったと第八研究所の者達に尊敬の眼差しで見る。


「くっ!! だが、負けるわけにはいかない」


 アレンサーは引き寄せられた引力を利用し、被害者の一人を潰すべく襲いかかった。名すら売れていない普通の探索者如きに自らが負けるはずがないという根拠の無い自信があったのだ。この窮地を乗り越えられる……そう自らに言い聞かせていた。


 確かに、アレンサーと被害者だけならその可能性もあっただろう。寧ろ、アレンサーが勝っていた可能性の方が高い。誰であろうと敵対するなら、手段を選ばず殺す事を厭わない勇者ダオスと勇者エスカロリオがいるのだ。


「"暗闇(ブライン)"、"防御力低下(アーマー・ブレイク)"……一対一で戦えるなど夢物語だ。悪霊から引き離された今、貴様を回復させてくれる存在などいないぞ。さぁ、教育の時間だ」


 抗魔クリスタルなど持ち合わせていないアレンサー。ダオスの状態異常魔法をノーガードで浴びてしまい短時間での自然回復は不可能。"暗闇(ブライン)"で視力を奪われ、身に着けていた防具も最早、ボロぞうきんの様に成り果てている。


「後は俺等に任せておけ!! 糞ガキぃぃぃぃ!! これは死んだアニキの分だぁぁぁぁぁ」


「がはっ!!」


 被害者の一人が引き寄せられてきたアレンサーに対して、ドロップキックを決める。頭部に見事に直撃し、綺麗に一回転して地面にたたきつけられたアレンサーはまるで地を這うミミズのようになっていた。


「ミリーシャは、来月結婚予定だったんだ……式場も決まっていてメンバー全員で盛大に祝う予定で準備していた。なのに!! 貴様のせいで全てが水の泡だ」


 だが、そんな地を這うミミズとなっても誰も同情しない。被害者の一人が、アレンサーの手の甲を踏みつけた。大人一人分の体重が一点に掛けられている。骨が粉砕されるのも時間の問題だ。


「だから、知らないと言っている。勘違いだ」


 僅かでも時間が欲しい。起死回生のチャンスはきっとやってくると信じるアレンサー。今までも何度も奇跡を呼び寄せたのだ。だが、時間が経てば状況が改善する事などありえない。


 しかも、未だに知らないと言い張るアレンサーに被害者達の憎しみのボルテージが次のステージへとランクアップした。


 グシャリという折れた骨が肉を貫く音が響いた。アレンサーは知る事になる。起こらないから、奇跡というのだと。

 

来週で勇者編は終わらす予定です。

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