40:思いやり
一日遅れて申し訳ありません。
遅れただけでなく、少し短めという暴挙をお許しください。
努力、友情、勝利……素晴らしい言葉である。その全てのピースが揃ってこそ王道だ。ダオスは、無意識下で行っている。相手に勝利するため、使える物は何でも使う。
敵の敵は味方という理論も元、アレンサーの被害者達が、集結した。集められた方も体よく使われてる認識はあった。
だが、そんなことなど些細な問題なのだ。
ある者は仲間を、ある者は恋人を、ある者は家族を失っている。重傷者は、ダオスの計らいで義弟が院長を務める病院で手厚い治療を受けている。被害者達は、返しきれない程の恩をダオスから与えられたのだ。
しかし、ダオスとの取引が無くとも被害者達の意気込みは、差し違えてでも殺すという覚悟が完了している。その覚悟を貫くための準備時間も十分あった。アレンサーがエスカロリオとの面会にこぎ着けるまでに要した時間を被害者達は、復讐の牙を研ぐ時間に使っていた。
「相手は、武装解除こそされているが魔法が使えないというわけでは無い。更に言えば、実力は格上だ。初手で、半殺し。後は、数に物を言わせて嬲り殺しにするのがベストだ」
寄せ集めの20を超える者達。連携など考える事はせず、各々が最大火力で目標を攻撃する事が理想だと全員が理解していた。本来なら、ダオスの指示に反発も出そうなのだが、恩人に反論を言う礼儀知らずはいない。
「貴方も参加して貰えるなら、もっと楽になるのですが」
「私もそうしたいのだが、生憎とソレが許されない状況でな。だが、できうる限りの支援をしているつもりだ」
ある男性が、ダオスの支援を求めた。ダオスが状態異常魔法を行使すれば、より簡単に捕縛できる。その上で、対象をジワジワと嬲り殺しにする事も簡単だ。だが、契約魔法により命の危険が無い限り、ダオスは対象に危害を加えられないのだ。
よって、最大限の支援として、アレンサーの被害者達に殺し合いをする機会を提供した。しかも、治外法権が適用されると言っても過言でない第八研究所のシェルターだ。何が起こっても事故で処理する事が出来る。アレンサーなど来なかったと各所のログを改竄するなどエスカロリオにとっては朝飯前なのだ。
「そんな事はどうでもいいわ。それより、いつになったらアレンサーとかいうガキはくるのかしら?」
彼女は、恋人が片目を失明する程の重傷を負わされた者だ。優しいダオスは、彼女に誘いを持ち掛けた際にこう言った……「目の移植手術を行えるほどの医師と設備がある病院にツテがある」と。そして、彼女はダオスの手を取った。僅かな会話で友情を築くのは、ダオスの人徳のおかげであろう。
「安心しろ。すでに、ココに移動中と情報が入っている。今更言うまでも無いが、正義は我らにある。最後に……死んでいった者への手向けではないが、ここの所長のエスカロリオは、死霊魔法の使い手だ。生きていた本人ではないが、希望すれば別れの挨拶程度は、させて貰えるように計らおう」
ダオスの最後の言葉で、俄然やる気をだした者達がいた。死者への冒涜だと嫌う者もいるが、どのような形であれ、ちゃんとした形で別れを言いたいと思う者は多い。。
この時に、死霊魔法の新しいビジネスモデルが完成した。ダオスは、死霊魔法を使った革新的なビジネスモデルを法王庁に提出する予定だ。これにより風評被害が酷い死霊魔法の使い手の立場が飛躍的に向上する事は間違いない。
◇◇◇
ダオスは、シェルターを出てこれから行われる殺し合いを特等席から眺める準備をしていた。グラスを二つ用意し、持ってきたブドウジュースを注ぐ。アルコールが嫌いなダオスは、見た目が似ているジュースで雰囲気を味わう。
グラスの一つをエスカロリオが手にする。
「ダオスが、アレほど殺したいと思った理由が理解できた。契約魔法で行動が制約されているのに、既に一人は殺しているとはよくやるな」
「……当然だ。と言いたいが、あの契約魔法は元から抜け道が用意されていた。あのような特性の依頼で抜け道があるなど、不手際だ。ならば、考えれば答えは出てくる。私自身が試されていたと取る方が自然だ」
ダオスは、改めて今までの状況や契約魔法の条件などを整理した。そこから、ほぼ正解を導き出したのだ。
「悪いが、上からの依頼でね。私も多くは語れないが……おおよそ、推察の通りだよ。個人的には、状態異常魔法を駆使して契約魔法を無効化するなど類を見ない芸当を期待していた」
「無茶を言う。ソレを警戒されて、契約する際、"沈黙"が掛けられていた。発動した後に無効化するなど私でも出来ない事だ」
それもそうかと、エスカロリオも納得し、特等席についた。そして、安全地帯から眺める最高のショータイムが始まる。
アレンサーが入場する扉が開いた瞬間、被害者達の初手にして最高の一撃が放たれる。ペース配分など考慮されていないその威力は、シェルターの壁を歪める程だ。
爆風により埃が舞いアレンサーの状態がダオス達からも確認できていない。
「さて、ダオス……これで死んだと思うかい?」
「この程度で死ぬならば、わざわざ私が試験をする必要は無かっただろう」
エスカロリオとダオスの意見が一致した。アレンサーは死んでいない。勇者適性を持つ者が見せ場も無く死ぬ事はどない。ダオスはマイクを使いシェルター内に連絡する。
『索敵魔法に関しては、非常に高度な技術を有している。攻撃魔法の適性は高くは無い。代わりに、防御魔法はそれなりに出来る。今の攻撃でも死んでいないはずだ。……それによりも!! はやく、お前達も索敵魔法を使うなり、あの埃を水で散らすなり行動を起こさないと死ぬぞ』
ダオスは、アレンサーが索敵魔法を目視した。これにより生存が確定したのだ。
被害者達が行動により、アレンサーの姿が目視された。その様子は、押せずにも健在とは言えない。少々の火傷に加え、手足の指が所々に吹き飛んでいる。まさに、理想的な初手とまでは行かないが、十分なダメージを与えている。
アレンサーは、装備が剥奪されている状態に加え、鋼鉄の床であるこの場では得意の"土壁"などで身を守れなかったのだ。無詠唱による魔法で多少なりとも威力を減衰させる事に成功し、生きながらえたのだ。被害者達の魔法同士がぶつかり合い、本来の威力が発揮できていなかった事もアレンサーが無事な要因だ。
「勇者倒すのはいつだって、普通の人間だ。それが、彼らであるかは分からんがな」
「その通りだエスカロリオ。だが、私としては、彼らに死なれると各所に手間を取らせた費用が回収出来なくなるので困るのだよ」
ダオスは、確実に勝利を収めるために更なる手を打った。
『アレンサー君。無駄な抵抗は、シャーリーに会えなくなるぞ』
ダオスは、如何にも大事な仲間兼恋人あるシャーリーを人質にしている風に聞こえるように情報を伝えた。決して間違っていない、無駄な抵抗をすれば死ぬのが遅くなりあの世でシャーリーに会う時間が遅くなるのだ。
恋人に早く会わせてやりたいというダオスの思いやりの心は、アレンサーに響いた。
真の紳士たるダオスは、敵対する者に対しても思いやりを忘れることは無い。
ダオス「嘘は、言っていない。相手が勝手に勘違いしただけだ」
来週は、私用で投稿ができません。
この場を借りてごめんなさいをさせてください。
その分、再来週はがんばります。




