29:虎の尾を踏む
定期更新こそ大事な事!! だというのに、かなりの難易度だよね。
今週も予定通り更新できました。
読者の皆様、いつも本当にありがとうございます。
読者の皆様が少しでも、日曜の0時?土曜の24時?を楽しみにして頂ければ幸いです。
獅子は兎を狩るときも全力を出す。『ゴスペラーズ』の者達は当然、相手が学生であっても最初から本気で挑む。"誓い"の制約により、致命的な弱点を持つ為、長期戦になるほど危険度が増すからだ。
「では、私が先に教室に入って生徒を呼びます。後のタイミングは、お任せします」
完全武装したサクラがテロリストが居る教室へと入った。ダオス達のような仮面の者が一緒では相手に要らぬ警戒を与えると思い教室の外で待機しているのだ。
ダオスが法天エンプレスに魔力を通わす。サクラの点呼に反応したテロリストに対して、全力で状態異常魔法を放つ準備が完了しているのだ。ほぼ、これだけで完封できるといえる。
他の者達も準備万全だ。
ミーミルも血盟戦で用いた全身国宝装備を身に纏っており、学生テロリストなんて片手間で葬れる程の準備が出来ているのだ。強化魔法をガチガチに掛けており、岩をドロ団子のように砕くほどだ。
ステラとエスカロリオも同じく準備万端だった。ダオスは、エスカロリオが手にする短筒の様な物が気になっていた。ダオスが祖父から教わった知識の中に、それに類する物があるからだ。
「エスカロリオ、その魔道具は……祖父が以前に口にしていた銃というものか?」
「そうだったね、ダオスは知っているのか。その通りだ。革新的な武器である為、完全に私用だ。世間に広まると、色々なパワーバランスが崩れるからね。ちなみに、私が持つコレしか作っていない」
「弓矢でいうならば、矢のような物が必要だったはずだ。簡単に調達できる物ではないだろう」
「タワーは壊れた部分が自動修復する。その原理を若干だが解析し、組み込んでいる。少々魔力を食うが、弾丸が自動生成される。私でも、日に100発程度しか弾丸を生成できないさ」
エスカロリオ謹製の魔道具の銃。この世界において、革新的な装備なのはいうまでもない。だが、自らも危険になるような魔道具である為、頭の良い馬鹿であるエスカロリオは十分な対策を講じていた。国宝装備と同じく使用者登録システムが搭載されている。
魔力さえあれば、誰でも簡単に人殺しができる道具。世の中が真っ赤に染まる時代の幕開けを感じさせるような魔道具だ。
「それ、いいじゃないエスカロリオ。『ゴスペラーズ』みんなの分を用意出来ないの?」
「無理を言うなステラ。コア部分の材料は、500年前に狩られた海王の素材を用いている。私が魔道具を色々と献上した褒美で法王様から頂いた物だ」
流石のステラも希少な素材を用いている事を理解し諦めた。法王から直接賜る程の希少な素材がおいそれと手に入ると思えないからだ。更に言えば、エスカロリオの頭脳を持ってしても劣化コピー品すら用意しなかったのには、理由があると察したのだ。
「えーっと、『リネックス』からの留学生のアインバッハ君。同じくっ!! "魔法防御"」
「「"嵐槍"」」
教室内でサクラが生徒を呼ぶ声と同時にサクラが叫ぶかのように防御魔法を発動した声が響き渡り事態が急変した。同時に、テロリストから殺傷性の高い攻撃魔法が発動された。
その瞬間、教室の窓ガラスが一斉に砕け散り鈍い衝撃音が響いた。
「サクラァァァァァ!!」
ダオスは、教室の扉を蹴破り飛び込んだ。第二波、第三波の攻撃が繰り出される前に妹を守るために、駆け寄った。そこで、ダオスは見てしまった。床に崩れ落ちて血を流すサクラの姿を。
怒りのボルテージを天元突破させられたダオスは、一週回って冷静になっていた。こういう事態に備えて医師免許を取っていたのだ。回復魔法こそ使えないが、外科的な技術で言えばダオスはかなりのものだ。即座に、サクラの状態を確認し始めた。
他の『ゴスペラーズ』の者達も教室に入り、各々が出来る最善の事を始めた。
教室にいた一般生徒達は、混乱の極みにいた。同級生の数名が突如魔法を発動し、実技講師として有名なサクラを攻撃したのだ。加えてその直後、仮面を付けた怪しい者達が続々と教室内に入ってきたのだ。
誰かに説明を求めたいと思うのは当然だ。
だが、騒ぎ立てようにも一般生徒は、極度の圧力により震えながら呼吸をするのが精一杯であった。完全武装したミーミルが、威圧をしているのだ。可愛い妹分が怪我をして、倒れているのだ。ダオス同様に、怒りは天元突破状態だ。
「教室にいるガキ共、動けば問答無用で殺す。大人しくしていろ」
「落ち着きなさいミーミル。サクラちゃんに魔法を使った者達は、既に逃げているわ。……で、サクラちゃんの状態は?」
「後頭強打による一時的な意識喪失。後は、切り傷からの出血。命に別状は無い。ステラには悪いが、サクラを嫁ぎ先の病院まで連れていってくれ」
「構わないわよ。回復魔法で治した後に、連れていってあげるわ」
ダオスは、回復魔法を得意とするステラがこの場にいたことを心底感謝した。仲間故に、彼女の能力の高さを知っているからだ。回復した後の事も考えて、嫁ぎ先である大病院で安静にして欲しいと思っているのだ。
「ね~ダオス。この国の法律的にテロリストの扱いってどうだったんだっけ?」
「何を言っているミーミル。存在しない人間に人権なんぞあるはずないだろう」
ダオスの中では、既に決まっている事があった。
「『リネックス』の前政権の王族を取り逃がして、行方不明になった」と不変の事実だ。当然、それに異論を挟む者など『ゴスペラーズ』には居なかった。
「そうよねダオス。で、サクラちゃんは病院で安静にして貰うとして……この状況どう見るエスカロリオ」
ミーミルは、周囲警戒をしつつ教室の惨状を確認しているエスカロリオに意見を求めた。
「不意打ちとは言え、サクラちゃんの防御魔法を貫く。それに加え、壁に残る深い傷痕。生徒として優秀だと聞いていたが、生徒レベルじゃないね。2級探索者以上の実力はあると見ておくべきだ」
「つまりは、生徒に紛れて優秀な者が王族の護衛に付いていたと。更には、手を抜いても学生レベルでは優秀な部類に入ってしまうほどの」
ダオスは、学内でも屈指の問題児達に対して教育的指導を行っていた事もあり、学内で優秀と言われる生徒達の実力を侮っていた。能ある鷹は爪を隠すという諺があるように、優秀な者は居たのだ。
学院側の情報を鵜呑みにしたツケがココに出たのだ。
世の中には、若いながら大の大人より優秀な者もいる。
「その通りだ。あり得ない事でもない。事実、サクラちゃんだってその1人だ。学生時代、実技担当の講師をコテンパにしていたじゃないか」
ダオスは、正直その通りだと思った。
「なるほど、理解した。ステラ、サクラを頼む。私達は、主犯格を狩りに行く」
「分かったわ。サクラちゃんの綺麗な肌をキズモノにした者だけど、コレクションには相応しくないから、処理しちゃって良いわよ」
ステラのその言葉にダオスは感謝すると笑顔で応える。
ステラは、大事そうにサクラを抱えて病院へと向かった。
ダオスは、義弟に対して後で詫びを入れに行かなければと考えていた。大の大人がコレだけいて、サクラに怪我をさせてしまったのだ。何をしていたと罵られて当然なのだ。
「私達に残された時間は少ない。学内でコレだけの魔法が行使され、講師が怪我までしている。テロリストが我々以外の手に落ちてしまうと、最悪手出しが出来なくなる可能性がある。だからこそ!! その前に、犯人を確保する」
法王庁から引き渡し要求されているテロリストが講師に手を上げて逃げたとなれば、テロ鎮圧の専門部隊まで出てくる。そこから法王庁に引き渡されれば、ダオスとてどうにもできない。
だからこそ、可及的速やかに犯人を確保し、手出しが出来ない場所へと送る必要があった。
「当然よね。犯人を捕まえた後は、『ゴスペラーズ』のホームじゃまずい。『ギャランドゥ』の領事館に連行しましょう」
ミーミルは、『ハイトロン法国』の法が適用されない自国の領事館を開放する提案をした。『ギャランドゥ』は、王政であり、王族にはかなりの特権がある。よって、万が一、行方不明になったテロリストに『ゴスペラーズ』が一枚絡んでいたとしても、法の下で適切に処理したと強引に押し通せる万全な体制を用意したのだ。
「感謝するミーミル。コレで憂いは無くなった。さぁ、狩りの時間だ」
ダオス達は、教室を飛び出した。
このとき、室内に取り残されていた生徒達は本当に理解が追いつかず、対応に明け暮れていた。
◇◇◇
サクラを攻撃したテロリスト達は、既に学外へと逃亡を果たしていた。そして、『ハイトロン法国』の地下にある用水路を急ぎ足で走っていた。とある、目的地を目指して。
この者達が取った行動は、浅はかでもなく最適解であった。自国で新政権が樹立され、学内の全講師に呼び出しが掛かった後に、完全武装した実技の講師が現れたのだ。逃げなければ、死ぬ運命が待っているのは見えていたのだ。
テロリストの主格であるアインバッハの従者達は優秀であり、サクラとの力量差を見極めていた。だからこそ、殺す気で攻撃していたのだ。反撃を許せば、間違いなく敗北すると分かっていたからだ。
しかし、テロリスト達の状況は決して好転しない。『ハイトロン法国』の名門学院の講師に対しての殺害未遂という罪状が追加されたに過ぎないのだ。捕まれば新政権に譲渡され死刑、逆らえば『ハイトロン法国』で追われる身。生きるためには、後者しか選択肢がなかった。だから、サクラを不意打ち紛いの攻撃で排除したのだ。
「アインバッハ様、急いでください。いつ、あの鬼教官が目覚めて追いかけてくるか分かりません」
「我々も手を出したくて出したわけではありません。あの状況、こうでもしないと逃げれませんでした」
「あぁ、分かっている。だが、手を上げてしまった以上、『ハイトロン法国』に支援を取り付けるのは出来ないぞ。何処に向かうんだ」
『ハイトロン法国』を含む各国が、新政権と外交の窓口を作り始めた。今や名実ともに、テロリストとなった者に素直に力を貸すような存在は表にはいない。そんな、ハイリスクローリターンな賭けにのるギャンブラーはいないのだ。
だが、ハイリスクハイリターンならば手を貸す存在もいる。テロリストに取ってしてみれば類友みたいな連中だ。流刑民や犯罪者達を纏める存在、そんな連中を頼るしか無いのだ。
国を治めている時は厄介者として扱い、いざ国を追われるとそんな厄介者達を頼るしか無いとはお笑い者だ。
「分かっております。だからこそ、『ハイトロン法国』でもタブーとされている『ジェネシス』という組織に支援を求めます。かなりの対価を要求されるでしょうが、背に腹は代えられません」
『ジェネシス』は、『ハイトロン法国』の裏を牛耳る組織だ。
世の中には必要悪という言葉がある。正義だけでは世界は回らないのだ。正義が失業しない為にも悪が必要なのだ。『ジェネシス』に様々な依頼を持ってくる存在の中には、『ハイトロン法国』の法王庁も含まれており、ずぶずぶの関係が出来上がっている。
事実、十年ほど前に『ハイトロン法国』によって一つの国が滅ぼされた。表は、敵対する国家を何とかしたい。裏は、孫娘にプレゼントする為の呪槍が欲しいと利害一致して、仲良く手を取り合ったのだ。
尤も、その事実を知る者は表のトップと裏のトップに近しい者達しか居ないだろう。
「そうだな。例え、王家に代々伝わる宝玉を手放すことになったとしても、私は『リネックス』に再び戻らねばならない!!」
アインバッハも馬鹿では無い為、状況を把握している。そして覚悟を決めた。
「お止まりください!! 誰かがコチラに歩いてきております」
アインバッハの護衛は、周囲警戒を怠ってはいない。それが人気がない地下用水路だとはいえ、索敵魔法を疎かにするような雑魚では無い。
コツコツと足音が近づき、次第にその者が姿を現した。白い仮面を付けた全身黒ずくめの男。アインバッハやその護衛の者達は、警戒心をあらわにしていた。仮面の男からは、全く隠そうともしない殺気。振りまかれるまがまがしい魔力は、常人なら気が狂ってしまう程のものだ。
「どうやら、私が当たりを引いたようだ。これは、僥倖」
「……『ゴスペラーズ』のダオス・ベルトゥーフ」
『ジェネシス』が根城にしていると言われる地下用水路で、昨今話題の人物に出会うとは思っていなかったのだ。だが、テロリスト達にしてみれば当然だ。サクラを攻撃して直ぐに逃亡を図ったため、ダオス達の存在を見ていないのだから。
国の手が回る前に、『ゴスペラーズ』の手で救って差し上げねばなりまい。
きっと、細く長く生かして貰えるぞ@@
表裏一体の関係@@良くあるよね。
警察と○クザだったりさ。
パチンコの換金の事実を知らない警察……でも、休日は警察官が何故か銀玉を換金してたりと。
政府と天下り先。
親会社と子会社。
世の中、そういう関係は往々にある!!




