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槁木死灰の私から  作者: 案山子 劣四
溢れ出す想い

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第97話 溢れ出す想いと、ポストスクリプト

連花(れんげ)も彼女達と教団本部に帰るらしく、私も送ろうか、と提案頂いたが丁重に断わった。流石に、向こうが私の正体を知らないとはいえ、エクソシスト3人と車に乗って帰るつもりは無い。




「なんだか、バタバタした1日だったね。」



いつものように、私は槿(むくげ)の部屋のソファに腰掛けながら一息ついた。


「全くだ。次からこういう宴会には(おう)を呼ぶ事にしよう。きっと誰も遅くまでやろうと言い出さなくなる。」


「彼が来るなら、私は参加もしないかなぁ。」



心底嫌そうに苦笑いをする槿に、1度だけの会話でこれだけ嫌われるとは大したものだ、と思わず感心してしまう。


「でも、アイリスちゃんには少し悪いこと、しちゃったかな?」


槿は顔に罪悪感を滲ませる。結局アイリスのわがままだったので彼女が気にすることでは無いと思うのだが、そんな所も彼女らしい、と思わず笑みがこぼれた。


「気にするな。むしろ、『来てもいい』と許可を出してやったんだ。彼女からしたら感謝こそすれ、憎む理由など無いはずだ。」



そうだといいけれど、と言いながらも彼女はどこか納得していないようだった。


こうなると、あとは自分で解決してもらうしかないな、と私は少し話題を変えた。



「それに、どちらかといえば恨まれるべきは私の方だ。かなり卑怯な手も使ったからな。」


「ふふっ。確かに、そうかも。涼って意外と、能力を使う事に抵抗無いよね。」


先程までとは違い、槿はからかうような笑顔を見せた。


「今回のに関しては、軽い手品のようなものだ。まあ、病院で看護師達にかけたのは、それで言えばイリュージョンだが。」



話題を逸らすことができたな、と私は内心安心しながらそんな冗談を混じえた。




「そうだね。じゃあ、小春(こはる)ちゃんに使ったのは手品、かな?」




「………は?」


いつ、一体、いつから彼女は……私はそれを話していないはずだ。と言うより、『話さない』と連花に約束していた。だから、話せるわけが無い。


急に振られた話題に、私はそれを即座に否定する事すらできなかった。




「小春ちゃん、今日来てくれたのって、涼の能力のおかげ、だよね?」



「ーーーいつ、から……?」


回らない脳から出た言葉は、否定ではなく、疑問だった。そしてそれは、認めたと同義だった。



「なんとなく、かな。涼の様子とか、連花さんの目とか。そういうの、わかる方だから。」



そう言って、達観したように笑う彼女の瞳には、私は映らなかった。彼女は、私をどう見ているのだろう。彼女は、何を考えているのか。


槿の色んな姿を見ているはずなのに、槿を愛しているはずなのに。


私は、君を何も知らないんじゃないか、そんなふうに思ってしまうほど、彼女は儚く笑った。



「ねえ、涼。」



「あなたが能力を使うのって、私の為だって事くらい、私には分かっているよ。あなたが私の為に、何かをしてくれている、それが、本当に嬉しい。」



「だから、約束するね。」



「もし、涼が涼の力で、誰かを、傷つけてしまった時。涼が罪を負った時。」



「その時は、私も一緒に罪を償うよ。」



「その方法が、隠し通す事なら、私も一緒に隠す。謝ればいいのならば、一緒に謝る。」




「命で償う必要があるならば、私も一緒に死んであげる。」




やめてくれ、なんでそんなことを言うんだ。


「君が、なんで、そんな………」



「涼のことを、愛しているから。貴方の為に、命を使うって、決めたから。」


窓から慈しむような月の光が射し込んで、彼女に降り注ぐ。私の影に、阻まれながら。


「駄目だ、絶対……」


言葉が、何も出てこない。私は、どうすれば良かった。能力を使わずに、椿を何とか説得するべきだったんだ、今さらそんな後悔が押し寄せる。


「今までの話じゃなくて、これからの話。今は、誰も傷ついていないから。これから、もし何かがあったら、だよ。」


彼女は、私の心を見透かすように微笑んだ。銀色の髪が月光を反射して、悟ったように笑う彼女は、本当に綺麗で、そんな場合ではないのに、私は目を奪われてしまう。綺麗で、儚くて。そんな彼女が、恐ろしかった。




「槿、君は、死ぬのが怖くないのか…………?」



私は無意識に、そう訊ねていた。



「なんか、出会った時も、同じことを聞かれた気がするね。」


そう言って笑う彼女は、いつもみたいに楽しそうに笑う槿の笑顔をしていた。



「あの時と変わってないよ。受け入れているから、怖い、っていう気持ちはないかな。でも、毎日が退屈じゃなくなった。これは、涼のおかげだよ。だから、貴方の為に私は死にたい。」


いつものように、皆といるようになってからよく見るようになった嬉しそうな笑顔のまま、彼女は答えた。その声に、震えも緊張もなかった。




「その顔で、そんな事を言わないでくれ。」


死を受け入れている、それは知っていた。けれど、こんなにも変わった彼女が、こんなにも変わらないことが、私には怖かった。怖くて、辛くて、悲しかった。



「お願いだ、生きていたいと言ってくれ。死ぬのが怖いと、もっと皆と過ごしていたいと、死にたくないって、言ってくれないか。」



私の言葉に、彼女は困ったような笑みを見せた。



「えっと…………どうして?」



「君が死ぬのが怖いんだ。だから、君にも抗ってほしいんだ。そうでなければ、君は、いつの間にか、私の前から消えてしまいそうで、…………怖いんだ。」



どうしようもなく、困らせてしまう。それは、分かっていた。


人殺しの化物が、何を都合のいいことを、と言うのも分かっていた。


けれど、私は、




「君が、槿が好きなんだ。少しでも、君と一緒にいたいんだ。」




縋るように、そう言っていた。



「…………そっか。両想いだ。」





そう言って、顔を赤くして、嬉しそうに笑う君を見つめる私は、どんな顔をしていたのか、今でもわからないんだ。





気が付くと家にいた。


私はあまりに沢山の事があり、感情を整理出来ないままの私はその日、泥のように眠った。



木曜日に目を覚まして、槿に会って、日曜日の事なんてなかったかのようにいつものように彼女と話した。


そしてその日に央にアイリスとの事を話した後、また眠った私は、数時間後の金曜日の夜に目を覚ました。




「…………は?」



不思議と、目は覚めていた。


改めて時間を確認しても、やはり一日しか経っていない。何故だ?


そして、その日を境に、私は一日毎に目を覚ますようになった。まるで、人間のように。


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