第91話 午後7時、3戦目どちらが勝つのか①
紙風船を膨らませ、テープでリボンにくっつけると、私はそれを頭に括り付ける。
「曲がっていたりはしないか?」
自身で確認が出来ないのでそう槿に訊ねた。
「うん。大丈夫。」
私の頭の上の紙風船を凝視してそう言った後、槿はため息を吐く。
「こういうのってさ、大体ネクタイで同じことして、『なんだか、新婚さんみたいだね』、みたいなのが定番なんだけれど。」
「そうなのか。だが、紙風船で同じことをしても雰囲気は味わえると思うが。」
「多分、そういう新婚さんはいないかな。」
「だろうな。私もそう思う。」
そう言って2人微妙な笑みを浮かべる。
「今更だけれど、ごめんね。私のせいで変なことになってしまって。」
そう言って申し訳なさそうな顔をする槿を見ながら、少しこれまでの流れを思い返す。
「…………君のせいでは全くないと思うが。誇張でも遠慮でもなく。」
「確かに、そうかも。」
顔を見合わせて、お互いに吹き出す。
「まあ構わない。それに、大本を辿れば私が君を巻き込んだのだから、何かあれば私が責任を取るのは自然なことだろう。」
そう言いながら、自分がアイリスと闘う理由はそう言うことにしよう、と3戦目にして自身を納得させることができた。
「へえ、かっこいいね。」
そう言って槿はにこにことからかうように笑う。その視線は明らかに頭上の紙風船を見ていた。
「そうだろう。今日はおめかしもしているしな。残念ながら被ってしまったが。」
そう言ってちらっとアイリスを見やる。アイリスは私と同じように一果に確認してもらっているようだ。
私の冗談に口元に手も当てながら楽しそうにクスクスと笑った。変わらず面倒だが、槿が楽しんでいるなら何よりだ。
「楽しそうなところ申し訳ございませんが、そろそろ開始してよろしいですか?」
気が付くと連花は私達のすぐ脇に立っていた。
「ああ。向こうも大丈夫なのか?」
「今それは二葉に確認してもらっています。」
もう一度向こうを見ると、二葉が向こうの2人となにやら楽しげに談笑しているのが見えた。
「今、二葉には時間を稼いでもらっています。」
「何のためにだ?」
「あなたにアイリスの情報を話すためですよ。」
少し小声で連花は言った。わざわざそんなことをしなくても問題ないような気がするが、無下にするのもどうかと思い私は黙って聞くことにした。
「ついでに、『これ』を渡します。本気を出すわけにはいかないでしょうから、きっと必要な場面があるでしょう。」
そう言って、連花はポケットから『それ』を手渡した。やたらと今日は彼のポケットから物が出てくるな、と変なところが気になってしまう。
「連花さん。それも奇跡とか、ですか?」
槿も同じことが気になったようで、純粋に目を輝かせながら訊ねる。
「………いえ、単に服がひらひらとしているので隠しやすいだけです。」
「あ、へえ…………。」
数秒間、気まずい沈黙が流れる。
「とりあえず、アイリスの情報をは話してもらえないか?」
「ああ、そうでしたね。まず、アイリスの使える奇跡は『結界』と『飛翔』でーーーー」
気まずい空気になっていたし、ただ話題を変えるために訊ねただけだった。だが、結果として、聞いてよかった。それは確かだ。
連花の話を聞いた後、私は一つだけ訊ねた。
「ちなみにだが、私はどの程度の手加減をすればいいんだ?」
少し考えるようにしたあと、連花は答えた。
「まあ、普段の私ぐらいの動きであれば問題ないと思いますよ。」
問題ない、と言うのは『負けない』という意味なのか、『吸血鬼だと怪しまれない』と言う意味なのかは分からないが、とにかくそうして3回戦はまもなく開始となった。




