第54話 飛花落葉の私と夜桜③
その後も話しながら料理をしていき、15時30分にはお弁当が完成した。一果は若者向けでなさそうな事を心配していたが、完成すると大きめの4段のお重に詰められたお弁当はちゃんと彩りもあるし、量も多く花見らしいお弁当になった。
「いやー疲れたわー。流石にこれだけの量作るの久しぶりだったし。」
煎餅をかじりながら、頬杖を付いて一果はぼやく。ひとしきり準備を終えると、時間は16時になっていて、小休止としてリビングで貰ったお菓子を食べていた。
「でも、2人とも凄い手際いいよね。料理したことないけれど、何となくそれはわかるくらい。」
どれを食べようかな、と迷いながら、私は言った。結局手前にあった小さめのマドレーヌを手に取る。
「エクソシスト本部にいた時散々やらされたですから。下っ端の仕事として。」
背もたれに寄りかかりながら、二葉は答えた。渦巻状のロリポップキャンディを咥えていて、そんなものを貰った覚えはないのに、どこから出したのかが気になる。
エクソシスト関連の事や、教団関連の事はタイミングを逃していてあまり聞けていなかったから、今ちょうどいいような気がして、切り出そうとした。
そのタイミングで、リビングの扉が開き、目をやると連花がいた。
「遅くなりました。準備に参加出来ず申し訳ございません。…………どうしたんですか?このお菓子?」
何やら手土産を持って来た連花は、エクソシストとしての仕事をしていたのか神父服を着ていた。申し訳なかそうな顔をしていたが、すぐに机のお菓子に目を奪われていた。
「お疲れ様です。何故か貰っちゃって。良ければ蓮花さんもどうぞ。」
「そうなんですか。それではお言葉に甘えてお一つ頂きます。」
空いている席に座ると連花はクッキーを手に取り、袋を開けるや否や一口で食べた。
「れーくん、何それ?」
一果は連花の手土産が気になるらしく、目線をやったまま、彼に訊ねる。口の中がクッキーでいっぱいの連花は、必死に咀嚼し、飲み込んだ後答えた。
「和菓子ですよ。途中の和菓子屋でいくつか買ってきました。皆さん喜ばれるかなと思いまして。」
ビニール袋越しではあるが、少し多めに買ってきたように見える。足りないよりは、という判断なのだろう。
「流石めーちゃん。おつまみを買ってくるのはナイス判断です。」
「あんこ系の菓子をつまみとみなすのは二葉だけだと思いますよ……。」
「ついでに日本酒買ってきてくれても良かったのにー。」
「え、日本酒ないんですか?」
「ワインかお茶しかないです。」
「そんな尖った花見だったんですか今日…………。後で買ってきますよそれでしたら。まだ何もお役に立てていませんから。」
「ありがとー!流石れーくん。」
3人の会話を微笑ましく眺めていると、そういえば先程教団について聞くつもりだった事を思い出す。何となく、2人には失礼だが連花の方が真面目に教えてくれそうなので、そういう意味でもちょうどいい気がする。
そう思って、切り出そうとした瞬間、また扉が開く。今度は常磐がいた。
「おや、連花司教。お久しぶりですな。」
「常磐司祭。お久しぶりです。」
連花は椅子から立ち上がり、常磐に頭を下げる。以前、エクソシストと教会では階級制度が異なると聞いた事があるが、連花が常磐に腰が低いのはそのあたりも関係しているのだろうか。ただ、彼が腰の低い人物であるという可能性も充分に考えられるけれど。
「只今、椿木さん達がいらっしゃいましたよ。」
もうそんな時間か、と思い時計を見ると16時40分だった。私達は急いでお菓子を片付けて、お弁当やお酒等をブルーシートまで運ぶ。
久々に、小春と会う。彼女は私と、またいつも通りに話してくれるだろうか。緊張と不安、少しの期待を抱きながら、私は準備を手伝う。
裏庭に向かうと、小春とその祖父母がいた。
「小春ちゃん、お久しぶり。」
私は、出来るだけ不自然のないように彼女に笑いかける。小春は、私を見て一瞬申し訳なさそうな顔をして目を逸らした後、
「お久しぶりです、槿ちゃん。」
とぎこちなく彼女は笑う。いつものような元気の無い彼女に、少し寂しい気持ちになる。
それでも私は、また彼女とまた以前のように話せるようになりたい。だって、初めて出来た友達だから。




