第44話 君とする挽回
あの後の受け答えは、壊滅的だった。
お互いの話は食い違う、それを誤魔化そうとするがその嘘でも矛盾が生まれ、忘れた時に浅黄の脇に控える二対の槿の亡き両親に意識を持っていかれて話があまり入ってこないなど、とにかく散々だった。
特に私達の出会いに関しては最後まで疑った様子で、訝しげな目線を向けたまま浅黄は帰っていった。
「ごめんね、涼…………。」
リビングの机に突っ伏したまま、槿は謝罪した。槿はあの後遺アクスタと目が合ってまた心ここに在らずの状態になり、遺アクスタ達が片付けられてからようやく我に返ったようだった。
「気にするな。あれに関しては誰でもそうなる。」
私はそう言いながら槿の正面の席に腰掛ける。あれを他に経験した事がある人がいるかどうかははたまた謎ではあるが。
「おや、その様子ですとあまり話し合いは上手くいかなかったようで。」
浅黄が帰った気配を察したのか、ドアを開けて、常磐がリビングに来た。彼には吸血鬼関連の話を秘密にしている。連花曰く、「恐怖を煽る事を避けるため」らしい。なので、今日の事もただの浅黄との初顔合わせだと認識しているはずだ。
「ええ。いきなり遺アクスタが出てきまして、以降私も槿もあまり話に集中出来ず、失敗しました。」
「遺アクスタ?」
「アクリルで出来た全身像の遺影です……。私のお父さんとお母さんの。」
「ほお。今はそんな形の遺影があるんですな。すっかり今時の流行にに疎くて。」
そう言って、常磐は朗らかに笑う。そんな流行があってたまるか。前から思っていたが、この男も大分おかしい。
「しかし、遺アクスタだと故人が遺したアクスタの様な印象を受けますな。偲アクスタのが適切なのではないですか?」
「偲アクスタは死を連想させるので縁起が悪いとされました。」
槿が、突っ伏したままそう答えた。声からは投げやりさが伝わるが、いかにも日本人が好きそうな理由ではある。
「なるほど、それはご最もです。」
常磐は酷く納得した表情だったが、一度でいいから人を疑うという事と、遺アクスタの存在に疑問を持つということをして欲しい。
「しかし第一印象が悪いとこの後が大変ですな。人間は第一印象が9割と言いますし。」
そう言って、常磐は悩む様な表情を浮かべる。私は人間ではないのだが、そういうことでは無いだろう。
私と浅黄の仲はともかく、槿と浅黄の仲はまた元の関係にまでは戻したい気持ちはある。
彼女が勇気を出してようやく浅黄と親子の関係になれたのに、こんなによく分からない理由でまた距離が出来るのは流石に可哀想だ。まあそうなった原因は、完全に浅黄の奇行によるものなのだが。
どうしたものか、と思案していると、勢いよくリビングのドアが開いた。
その音に驚いて、槿を含めた私達3人は一斉にドアの方を向く。
「そんな時は、」
「花見しかないでしょ!」
双子特有のコンビネーションを見せて、桜桃姉妹はリビングに乗り込む。
浅黄が帰ってそんなに時間が経たずにこの案を持ってきた、ということは彼女達は私の浅黄への挨拶が失敗する事を先程までのやり取りで察していたのだろう。
そして、短い付き合いだがこれだけは分かる。間違いなく、彼女達は花見がしたいだけだ。




