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槁木死灰の私から  作者: 案山子 劣四
飛花落葉の私と父

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第37話 飛花落葉の私と桜

朝食を済ませた私は、着慣れた患者衣から、久しぶりに私服に着替える。



この前、一果達と買い物に行った時は彼女達の服を借りたし、クリスマスの時も、借り物だし、そもそも患者衣の上から着ていた。こうしてちゃんと自分の服を着るのは、本当に、いつぶりだろう。少し、感慨深い。


当然、以前着ていた服はとっくに処分していたので、初めて袖を通す服ではあるのだが、それでも自分の服には代わりがない。


荷物、とは言ってもドライヤー、歯ブラシ等の日用品や、衣服のみなので大した量ではないけれど、それらは事前に教会に送り、荷物は財布、通帳等の小さなポーチに入る程度の物量しかない。


スマホを見ると、時間は9時半で、確か10時に連花達が迎えに来てくれる予定だ。


あと30分間で、引越す。ここからほとんど距離は変わらないとはいえ、流石に少し緊張する。


その時、ドアをノックする音が聞こえた。振り向くと、ドアがガラッと開いた。



「久しぶりー。元気だった?」


「お久しぶりです。今日は可愛い服ですね。」


「………申し訳ございません。どうしても早く来たいと言って聞かなくて。」


楽しそうに笑顔で手を振る2人と、少しバツが悪そうな顔をした連花が、ドアの向こうにいた。前回と変わらず2人はシスター服で、連花は私服だった。



「いいじゃんれーくん。つっきーも早く会いたかったよね?」


「うん。今日のこと、楽しみにしてたから。」


正直、肯定以外の返事をしようがない質問だとは思うが、楽しみにしていたのは本当だ。



「ほらほらー。つっきーもそう言ってるし?」


「そういうことではなく……まあいいです。改めて浅黄院長に挨拶してくるので、2人は槿さんとここで待っていて下さい。」



「はーい。」


「了解です。」



そう言って雑に敬礼する2人を見て、ため息を吐きながら、連花は病室から出ていく。


「いいの?連花さんため息吐いてたけど。」


「大丈夫です。めーちゃんは慣れっこですから。」



普段の気苦労が見えて、少し同情する。


「そんなことよりさ、今日からよろしく。」



「そんなことよりって……。でも、よろしくね。」


思わず私は苦笑いで返す。だけど、2人は前会った時と変わらなくて、私は少し緊張が和らいだ。



少しすると、連花が浅黄を連れて戻ってきた。よく話すようになっても相変わらず浅黄は基本的には無愛想で、今日も変わらず無愛想だ。


「槿。もう荷物はまとめたのか。」


私を横目で見て、浅黄はそう声をかける。


「うん。元々そんなになかったから。」


「そうか。……前にも言ったが、辛いことがあったら、何時でも戻ってくるといい。その時は、今度こそ、ここが君の居場所になるように努力しよう。」


「え、私達がつっきーいじめるってこと?」


「一果。」連花が静止をかけると、一果は不服そうに黙った。その一果を見て、二葉はわざとらしく笑みを浮かべた口元を隠し、無言で煽る。



「ありがとう。でも、次会った時は、いっぱい楽しい報告出来ると思うから。楽しみにしててね、お父さん。」


私のその言葉を聞いて、浅黄は少しだけ微笑んで、3人を見る。


「皆さん。私の娘をお願いします。……私は、この子に大した事は出来なかったので、お願いする資格があるかはわかりませんが。」


浅黄が自虐的な事を言うので、そんなことはない、と否定しようとしたが、連花がその前に口を開く。




「ええ。お任せ下さい。責任を持って、いい暮らしが送れるよう、ご助力致します。……ですが、浅黄院長も変な事を仰いますね。娘さんの幸せを願う事に、資格など必要ありません。むしろ、幸せでいてほしいと願う事こそ、親としての第一歩なのではないですか?」



「まあ、私は子も親も今はいないのですが。」と、何とも言えない冗談を付け加えて、連花は肩をすくめた。


「そうか……そうだったんですね。」



以前、浅黄は言っていた。私を引き取った理由は、『心の拠り所を作りたかった』そして、『少しでも幸福で過ごしてほしかった』。




連花の理論で言えば、私は、5年前から浅黄の娘で、浅黄は5年前から私の父だった。ただ、そのことに今更お互い気付いたという、それだけの話だ。





お世話になった病院関係者への挨拶を済ませ、私は浅黄に見送られながら、病院を出た。あれだけ退屈だった病院が、今は少し名残惜しい。



「浅黄院長のことですが。」病院を出て、連花は急にそう口を開いた。



「関係が改善されたようで、何よりです。」そう言って、連花は微笑む。



「え、いつ気が付いたんですか?」


彼には話していないはずだ。思わず、同様してしまう。



「以前、槿さんと話したときに。まあ、家庭の問題ですし、私が口を出すことではないと思いましたので、特に何も言いませんでしたが。ですが」



そこで言葉を区切り、彼はまた話し出す。



「やはり、仲がいいに越したことはありませんね。」


「はい。仲がいいのはいい事ですから。」


「何話してるんですか?早く行きましょう。」


車の前で待っていた二葉に呼び掛けられる。


「ごめん、すぐ行くね。」


そう言って、私は小走りで駆け出した。
















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