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槁木死灰の私から  作者: 案山子 劣四
飛花落葉の私と父

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第27話 飛花落葉の私と蓮花

「初めまして。色々と涼からお話は聞いてます。今日は神父さんの格好じゃないんですか?」


吸血鬼を恨むヴァンパイアハンター。今は、色々あって休戦中と聞いている。


「ええ。病院で神父服ですと、誰か天に召されたみたいでしょう?」そう言って、彼は微笑む。


神父さんもブラックジョークを言うんだな、と思いながら、私も愛想笑いをした。


「こちらも、月下さんのご事情は、岸根涼と、お父様の浅黄院長からお伺いしております。」


にこやかに、彼は続けた。


浅黄の名前が出て、少しどきりとする。


「やっぱり、浅黄さんとも話したんですね。」


どうやって私と浅黄の関係を知ったのだとか、色々と気になる点はあるが、世界一信者の多い宗教団体であるし、調べる手段はいくらでもあるのだろう、と納得することにした。



「ええ。教団から病院の方に神父を派遣する事もあるらしく、その縁で少し。……不躾かと思いましたが、ご両親の事と、ご病気の事を、お伺いしました。」



「……私の中では、もう割り切った事ですから。」


そう。今更考えても、どうしようもない事だ。




私は、両親が大好きだった。


優しくて、体の弱い私を心配してくれて、私の為に一生懸命頑張ってくれてるのに、いつも笑顔で。


本当に、大好きだった。





その両親が、15歳の時に殺された。




私は、まだ両親と私の家があった時は、体調の安定している時は家で過ごしていて、発作が起きた時や安定しない時に入院をしていた。


たまたまその日は、病院に入院していた。雨の強い、夏の日の事だった。



自暴自棄の末の犯行だったらしい。誰でもよかった、それだけの理由で、私の愛する両親は殺された。


犯人は、その後自殺したらしい。私の両親を殺した、その家で。



両親を殺した理由は、遺書に書いてあったそうだ。



あまりに唐突な出来事に、私は、泣くことすら出来なかった。


その後、浅黄が引き取ってくれて、実家はその際に売り払った。私は、家のことを思い出したくもなかった。




その時から私は病院を家として過ごす事になった。


家族もいない、帰るべき家もない。復讐する相手もいなくて、何かをなせるほどの時間も私に残されていない。




ただ、花が飛んでいくのを待つように、葉が落ちるのを待つように、死を待つのが、私。飛花落葉の私だった。




「月下槿さん。これは、あくまで選択肢の1つとして考えて欲しいのですが。」


連花は、そう畏まって話を続ける。


「ここの病院から徒歩10分程の場所に、私達教団の教会があります。そこに住居棟で、残りのお時間を過ごしませんか?」



あまりに唐突な提案に、少し困惑する。


「戸惑われるのも無理はありません。急な提案だと、こちらとしても自覚しております。」


その通りだ。どうしてそうなったのか、何か涼が関係しているのだろうか、と思うが、どう彼が関係するのかもよく分からない。


「まず、先に言わせて頂きますが、岸根涼は今回の件には直接的な関係ありません。」


私の疑問を察したかのように、連花さんは否定した。


「ご提案させて頂いた経緯としては、ご病気と、月下さんの置かれている状況が主な理由です。」彼は続けた。


「専門外なのであまり詳しくは分かりませんが、月下さんの心臓の形が人と異なっており、そのせいで心臓と血液に強い負担がかかっている、と聞きました。」


私もそう聞いている。そのせいで、もってあと一年だろうと。


「ですが、激しい運動や、強い興奮などをしなければ、基本的には日常生活を送れるとお伺いしております。それでも突発的に発作が起こる可能性がありますので、誰かと暮らす必要があるそうですが。」


彼の言いたいことがおおよそわかってきた。


「だから教会に住むといいのではないか、という事ですか?」


他に人がいて、落ち着いて過ごす事が出来る。確かに、私にとっては理想的かもしれない。


「いいのでは、というよりあくまで如何でしょう?という提案です。もちろん、選択肢は当然月下さんにありますし、何度も言うように、岸根涼は直接的な関係ありませんので、この回答次第で彼がどうこう、という話もありません。」




言いたいことはわかった。だが、1つ、気になる点があった。


「何故、このお話を私に?」


涼が関係ないのなら、いまいち理由が分からない。


「岸根涼の話に、あなたが退屈に飽いている、とありました。」


穏やかな口調で、連花は続ける。


「教会には人の出入りもありますし、周りは比較的自然も多い。季節の移ろいも体感しやすいでしょう。もちろん、ご体調もありますし、教会の職務や習慣に従え、とは言いません。お食事も出ますし、体調が優れないようでしたらお部屋に運ぶようにしましょう。」


更に、彼は続けた。


「ちなみに、そこの教会の司祭は、何度かお話した事がありますが、人格者でしたよ。身の回りのお世話には私の昔からの知り合い2人にお手伝いするようにお願いしています。」


「いえ、流石にそこまでやってもらう訳には……」


病院で過ごすよりは退屈しなそうだが、流石にそこまで他人に迷惑をかけるのは申し訳のない気持ちになる。



「…………実は、教団側としても狙いはあるのです。」


「あ、あるんですか。よかった。」


逆にほっとした。


これで完全な善意だとしたら、丁重にお断りしようと考えていた。


「ええ。問題は、岸根涼と言うよりも、彼の主、真祖エディンムにあります。以前、お話されてましたよね?」


以前。12月28日の事だろう。連花が涼達と闘い、央が私の病室を訪れた日。




「確かに話しました。」


確かに、彼とは色々と話した。



「彼が、なにか……?」


だが、彼と私は何が関係あるのだろう。



「彼は異常です。悪意で人を貶めるのに、どこか妙に理性的で、交戦的な訳では無いのに、人の死をなんとも思っていない。だから、次に何をするかが予想がつかない。」


彼の評価は、少なくとも私には的確に聞こえた。


彼、『藍上央』は、何も分からない。分からないから、怖い。けれど、1つ分かることがある。




「1つ分かることは、彼が岸根涼に執着している、という事です。」


連花は、私が思っていた事と同じ事を口にする。


「ただ、それは好意、というよりも、お気に入りの玩具への執着に近い。壊そうとする者、奪おうとする者には容赦しない、と言った幼稚な執着です。」


不愉快そうに彼は続ける。


「そして、あなたは岸根涼の想い人です。」本筋と全く関係ないのに、想い人、という表現に顔が赤くなるのを感じる。


彼はそんな私を見て、ため息をついた。


「……なので、もしかするとエディンムの悪意があなたにむく可能性があります。であれば、出来れば教会の下で保護しておきたい。もちろん、病院がいい、というのであれば、そのうえで出来るだけの警備をさせて頂くつもりではありますが。」


私は少し考えた後、



「…………涼には、私が教会に移ってからも会えますか?」と訊ねた。


吸血鬼を憎んでいる人にそれを聞くのは、申し訳なさと恥ずかしさがあったが、大事なことなので聞かなければならない。


先程より大きなため息をついた連花は、


「わざわざ2人の関係を邪魔するつもりは無いですけどね、あれも立派な吸血鬼なんですからね?人の血を吸う化物です。本当は無理矢理でも引き剥がしたいんですからね?」と釘を刺してくる。


「わ、わかってますけど……。」


分かっているけど、惚れた弱味なのでしょうがない。消え入るような声になりながら、私は何とかそう返した。



「……会えますよ。教会の敷地内に入っても問題ない事は、彼との訓練で証明済みです。」


ハッとした。彼は、それを確認する為に教会の敷地内で特訓していたのか。


「一応言っておきますけど、私の為でもありますからね。あそこは人の目につきづらいので。」


そう言って、目を逸らす。以前涼は、


「多分、連花は吸血鬼が相手でなければ優しい青年なんだろう。」と言っていた。


確かに、彼は根は優しい人らしい。わざわざ、嫌いな吸血鬼に惚れた女の為に、吸血鬼が教会に入れるかをたしかめてくれたのだから。



「ちなみに、浅黄さんはなにか言ってましたか?」


「…………。浅黄院長は『彼女の好きな道を選んで欲しい。』と言っていました。勿論、吸血鬼云々の話は伏せて話はしましたが。」



「そうですか。そしたら、迷惑じゃなければ教会に移りたいです。」



確かに教会の生活はここより退屈しなそうだな、と思ったし、教団と吸血鬼の思惑に巻き込まれるのは楽しそうだ。なにより、涼と連花さんの特訓を見ることが出来そうだし。



「え、もう決めたんですか?こちらとしては急ぎませんし、もっとゆっくり考えて頂いても構いませんよ?」


今日返事が来ると思っていなかったのか、神父さんは慌てた様子を見せる。


「私には、あまり時間が無いですから。」


だから、迷う必要が無いなら、少しでも早く行動したい。


「…………分かりました。こちらとしても出来るだけ急ぎますが、恐らく2月の半ばにはなってしまうかと。」


「ええ、大丈夫です。」


あくまでこちらがお邪魔する立場だ。贅沢は言えない。


「承知致しました。話も纏まりましたし、長居をするのもご迷惑でしょう。私はそろそろ帰ります。浅黄院長にも改めてお話して、日程の調整を致します。もし、なにかご要望や聞きたいことがありましたら、いつでも申してください。本日は、ありがとうございました。」


そう言って、連花は席を立つ。


「あ、ありがとうございます。」


「いえ、こちらこそ。これからもよろしくお願い致します。」


そう言って、彼はにこやかにお辞儀をした後、ドアを開ける。




その瞬間、目の前には大量のお花が飛び込んできた。


「うわっ!」彼は驚いて後ろに避ける。


「ごめんなさい!怪我しなかったですか!?」


大量のお花を一旦脇に置くと、小柄な彼女、椿木小春が見えた。


小春は、涼と連花が戦った2日後、30日にも大量のお花を持ってきてくれた。


最初、『椿木 小春』と名乗られた時、涼と私より先に連絡先を交換した人として認識していたため、あまりいい印象は無かったけど、話すと裏表がない人なんだな、と気付き、すぐに仲良くなった。


そこから定期的にこうしてお花を持ってお見舞いに来てくれる。


なんでも、「この前涼さんにお見舞いのお花代を貰ったんで!!」


と言っているが、涼曰く1万円しか渡していないとの事で、恐らく1日だけでそのお花代は越えてそうだ。



そんなに大量のお花を貰っても、置く場所も無いから、看護師さんにお願いして病院の患者さん達に配ってもらっている。


黒髪ショートのポニーテールで、身長は150センチくらいだろう。表情がコロコロ変わるし、小型犬みたいな可愛さがある。年齢は私より1つ上だが、「小春って呼んでください!敬語も大丈夫です!!」と言われたので、今は敬語を使っていない。


「え、ええ……大丈夫です…………。」


連花を見ると、下から心配そうに覗く小春を見て、顔が赤くなっていた。


小春の目の前で、もう1つ大きな花が咲くのが見えた。



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