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槁木死灰の私から  作者: 案山子 劣四
虚実古樹の私

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198/212

第198話 虚実古樹の私と、死ぬ女、去る男

大砲の音が聞こえる。以前は虚仮威し程度の性能しかなかったが、最近はそこそこな命中精度と威力にはなっていて、城門が崩れ落ちるのが大広間から見えた。



「なんで夜に攻めてくるのかねえ。昼間に攻めればいいのに。」



窓の外からその景色を眺めながら、椅子に腰かけたまま私はそう呟いた。



私は再び戦いに飽きていた。最初は目新しいおもちゃに気持ちが昂ったが、今や目新しさのない戦場に、私は興味が持てなくなっていた。



「オエノラ。君もそう思わないかい?」


もげた四肢で、地に伏せながらも私を睨みつけるオエノラにそう訊ねる。彼女の持っていた銀の剣は今や私の手の中にある。その銀剣による不意打ちで付けられた頬の傷が激痛の中、ゆっくりと塞がっていくのを味わう私の顔には笑みが零れていた。



「攻め込まれているのに行動をしない王よりは理解できますわ。」


その激情とは裏腹に、オエノラは落ち着いていた。落ち着いて、もがれた四肢を取り戻す隙を伺っているのが見て取れた。



「それが、君が私を殺そうとした理由かい?」


「ええ。無気力で、怠惰。それでいて私達の邪魔ばかりする。貴方のような王はいるだけ邪魔ですわ。いっそ死んで頂いた方がましですもの。」



「酷いじゃないか。というか、そもそも私は王ではないよ。ただ真祖と言うだけで上に立たされているだけさ。前からそうだったじゃないか。」



「……情けない。」


オエノラは、吐き捨てるように言った。軽蔑するように言い放つ彼女を見て、私の心が高揚するのを感じる。



「貴方はずっと性格が終わってはいましたが、それでも真祖たる器はありました。ですが、今の貴方は何もない。マリアが死んでから、ヴラドが死んでから、ずっとその心の傷を引きずったまま。」


2人の名前を聞いて、私は身体が熱くなるのを感じる。が、それを必死に押し殺して冷静を装った。



「マリア……?ああ、いたね。そんな眷属。」


「貴方は、また……!」


「別にそいつらは関係ないよ。私はただ飽きただけさ。だってそうだろう?100年も同じことをして飽きない方がおかしいだろう?君は、随分楽しんでいるみたいだけれど。」


「……イライシャが、命を落としました。」



私は一瞬言葉を詰まる。けれど、すぐに何でもないように取り繕う。



「へえ?彼が殺されるなんて意外だね。何があったんだい?」


今まで第二眷属が人間に殺されたことは無かったはずだが、まさか彼が殺されるとは。


「数日前、貴方が興味を失くした戦場に化物のようなヴァンパイア・ハンターが姿を見せました。そいつを殺す為に、イライシャは………。」


そこまで言って、オエノラは悔しそうに目を伏せた。私は彼女の甘さに思わずため息が漏れた。



「君が好きな戦いは、一方的に殺す事だけなのかい?お互いに殺し合っているのだから、当然仲間が死ぬことだってあるだろう。そんなことにも気付いていなかったのならば、いくら何でも甘過ぎるよ。」



「エディンム様が出ていれば、イライシャは死ぬことは防げたはずですわ!!」



「……死ぬ時は死ぬさ。誰だってね。」


「そうですわね。エディンム様の親友だって、女だって死にましたものね。」


嘲笑うように言い放ったオエノラの喉に私は剣を突き刺した。悲鳴とも音ともつかないものが彼女の口から漏れた。



「……どうやら、早く死にたいらしい。その望みをかなえてあげるよ。裏切り者らしく、惨たらしく。君を殺してあげよう。」


見下ろす私を、オエノラは苦痛を堪えながら睨み返す。その無様が愉快だった。瞬間、オエノラが不敵に笑った。



窓ガラスが割れる音。振り向くと銀の剣を持ったオエノラが羽根を広げ、突き刺すような姿勢で私めがけて全速力で突撃する。



「隙を見せたわね!」



そのまま勢い任せに剣を突き立てようとするその切っ先を、私は叩き落す。啞然とするオエノラの首を返す刀で首を切り落とした。心臓を突き刺すと、目の前のオエノラは灰となって崩れた。



「狙いは悪くないけれど、君は真面目過ぎるよ。最初の奇襲も、今の攻撃も。」



足元のオエノラに目線を向けて、私は言った。歯を食いしばって私を睨みつけていたオエノラは、私の表情を見て、驚いたように目を見開いた後、小さく笑った。



「さようなら。オエノラ。」



彼女の心臓に剣を突き立てて、私は椅子に腰かける。剣は自分の後方に投げ捨てた。




再び窓の外に目を向けると、人間の軍は既に制圧されていた。前線に立ち、勝鬨を上げるフェスツカを見て、私は決意した。



後は、フェスツカに任せよう。私は、最早不要な存在だ。もう二度と、ここには戻らない。



私は、城を捨てることを決意した。

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