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槁木死灰の私から  作者: 案山子 劣四
虚実古樹の私

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197/212

第197話 虚実古樹の私

陽光は、容赦なく私を照らす。全身は火を放ち、足取りはふらつく。それでも、この程度では私が死ぬことはない。私は、難なく城にたどり着いた。



小屋で、夜を待っても良かった。けれど、私は城に戻った。焼ける痛みが、私の正気を保つと思った。一刻も早く、マリアを思い出す場所から離れたかった。城にも、マリアの面影はある。けれど、小屋よりはましだった。



早朝の城内には、人影一つなかった。光が一切差し込ましこまない石の城内で、響く私の足音が、自分が酷く浮いた存在だと言っていた。


ふらつく足取りで、自室に向かう。だが、猛烈な睡魔と、身体を蝕む火傷の痛みで、私は歩く事すらできなかった。床に項垂れるように座り込む。もう、このままここで次の夜を待つ方が良いように思えた。



目を瞑り、そのまま意識が遠くなるのを待つ。けれど、私は眠れなかった。顔を伏せ、火傷の痛みに意識を向けたところで、思い出すのは先程の景色だった。



私が、マリアを殺した。日に焼かれる、自ら杭を刺すマリアがあの赤い目が、私は忘れられない。私は許せなかった。勝手に死んだマリアにも、彼女が死んだのを、こんなにも悔いている自分自身にも。



マリアが死ぬかもしれない事は、私だって分かっていたじゃないか。彼女より、ギルを選んだのは私だ。

私に心酔していた彼女が、どんな行動を取るかなんて、分かっていたじゃないか。それなのに、あの醜態は何だ?みっともなく喚いて、『生きてくれ』と懇願までした。


情けなくて、自分勝手で、そんな自分に対する怒りでも誤魔化せない程に、マリアが死んだ事に心が痛む自分が、何よりも許せなかった。



眠気で今にも意識を失いそうなのに、頭は火花が散ったように覚醒していた。狂いそうだった。ただじっと夜を待つのは。いないはずのマリアが、私の隣にいるようだった。必死に他の事に意識を逸らそうとした。



このまま夜になっても眠れなかったら、何をしよう。彼を最近、人間が意味もなく攻めてくることも減った。だから、きっと今日攻めてくることもないだろう。そうなると、途端に暇だ。つい先日までは、そういう日はマリアの事をーーー。


今日は、確かイライシャが目を覚ますはずだ。彼をからかって遊ぼう。この前のオエノラと一緒の席で食事をさせた時は傑作だった。そういえば、あの日マリアが、エクソシスト達の死体をーーー。


そうだ、ヴラドの城に行こう。すぐに彼の所に行こうと思っていたけれど、結局この数週間、私はその機会を逃していた。彼も大分気落ちしていたようだし、私が話し相手になってあげる必要がある。そうだ。そうしよう!ああ、楽しみだ。早く、夜が来ないだろうか。


うずくまりながら、ずっとそんな事を考えていた。


眠ることは、出来なかった。




ーーーーーー




眠れなかった私は、先程考えていた通り、ヴラドの城に向かった。だが、着いてすぐに違和感を覚えた。彼の眷属が、ほとんど城内にいなかった。


いつもは神経質すぎるほどに規律正しく城内を警備する彼等がほとんど見えない。わずか数人いるのみだった。しかも、その数人も、何かを警戒しているでもなく、ただ彷徨っているように見えた。その証拠に、私に目をくれる様子がない。



一体何があったんだ、と疑問に思うと同時に、胸がざわめくのを感じた。私は急いでヴラドのいつも座っている玉座の間の扉を勢いよく開けた。



そこに、彼の姿はなかった。ざわめきが、大きくなるのを感じる。まさか、まさか!そんなわけはない!



急いで再び来た道を駆け戻り、城内を漂うヴラドの眷属の胸倉を掴む。一瞬驚いた顔を見せたが、彼は私の顔を見ると、すぐに理解したようにまた暗い顔に戻った。



「ヴラドはどうした!?」


浅い呼吸が、私の口から漏れる。既に心の均衡を失いかけていた私は、その時平常ではなかった。



「……亡くなりましたよ。数週間前。日の光に焼かれて。玉座の間のカーテンが何故か全て開かれていたので、恐らく自ら……。」



数週間前。私が彼と話してから、ほとんど時間が経っていないじゃないか。



『次の世を、我が理想を追える世界を待つ。』




私は、そこではっとする。彼は、そう言っていた。彼のその言葉は、『来世に期待する』という事だったのではないか。だからこそ、眷属を私に託そうとした。



「私達みたいな化物に、来世なんてある訳ないじゃないか……。」



掴んでいた胸倉を離し、私は膝から崩れ落ちる。


また、私だけが、止めることが出来た。私だけが、ヴラドの、マリアの死を防ぐことが出来た。



「……はは、ははははははははは!!!」



笑いが込み上げる。ああ、また、私は1人になってしまった。



ヴラドも、マリアもいない。


ギルだって、まだ会えていない。


私は一体、どこに行けばいいのだろう。



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