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槁木死灰の私から  作者: 案山子 劣四
咲く花と、散る桜

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181/212

第181話 咲く花と、落ちる葉

「そうやって、私達のデートを盗み聞きした挙句、それをだしにしてイチャついていた、というわけですか。」


連花(れんげ)は軽蔑するような目線を私に向ける。


「そこはいいだろう。結果として、一果がつけていたおかげではぐれた椿木(つばき)を見つける事ができたんだ。それに、結果として槿(むくげ)は死にかけたのだから、あれを『イチャつく』と表現していいのかは甚だ疑問だ。」


「それは、そうですが……。」


口を尖らせ、釈然としない様子だ。それも当然だろう。一世一代の大勝負を尾行されていたと知れば、不機嫌になるのも当然だ。それが『君の為になった』と言われたところで納得する事が出来ないのが人情だろう。そういう私は吸血鬼なのだが。



あれから数日経ち、模擬戦が終わった休憩中に『何故槿(むくげ)が寝込んだのか』、と訊ねてきた連花に、私が理由を説明したところ、彼は不満いっぱいに先程の言葉を口にした。だが、その文句はお門違いだ。彼等のデートをだしにイチャつこうとしていた訳では無い。結果として、そうなってしまっただけだ。




「それで、プロポーズの後は予約していたイタリアンに行ってきたのか?君のプロポーズ成功から私達は盗聴をしていないから、どうなったのか詳しくは知らないんだ。」


「そもそも、盗聴する事自体いかがかと思いますが。まあ、吸血鬼に倫理観を問うても無駄ですか。」


「仰る通りだ。その代わりに、聖職者2人程倫理観を教え込んでやってくれ。君の幼馴染だ。」


私の言葉に連花は顔を(しか)める。ここまで彼の嫌そうな顔を見るのは初めてだ。まあ、自分のプロポーズを尾行するような幼馴染がいたとしたらそんな顔にもなるか、とも少し気の毒になる。あの後3人は絞られたらしい。勿論、槿は体調に配慮したうえで、らしいが。



「……あの後、行きましたよ。時間も丁度くらいでしたから。その後は小春(こはる)さんの祖父母にプロポーズをした旨をお伝えして、そのまま解散しました。一果(いちか)二葉(ふたば)に説教するために。」


彼の目には明確な怒りがあった。あれから数日経つのに、怒りは収まらないらしい。



「今更かもしれないが、槿は半ば巻き込まれた形だ、というのは一応伝えておく。」


「まあ、そうでしょうね。ですから、槿さんには控えめにしましたよ。体調の分も差し引いて。」


「あと、知っていると思うが、一果は槿を中学時代虐めていた連中へのお灸となったはずだ。」


「ええ。あの2人は気の毒でしたね。よりにもよって……。いえ、これ以上はやめておきましょう。」



口ではそう言っているが、彼の顔には微塵も同情は見られなかった。ただ淡々と、『過去の罪を罰せられている』という事を語っているようにしか見えなかった。



桜桃(さくら)姉妹は教えてくれなかったのだが、あの2人は一体どうなったんだ?」


「罪に対しての罰を与えるのが法から主に変わっただけなので、きっと死んではないでしょう。罪を償う意思があれば、ですが。」



どうやら、連花も詳しくは知らないらしい。それか、知ったうえでしらばっくれているのかだろう。神の名のもとに罰を下すのが人間であるから危ういのではないか、と言おうと思ったが、余計な虎の尾を踏むのは避けたかったので、私はそれ以上追及しなかった。そもそも、彼女達の肩を持つ義理もない。



「まあいい。そんな事より、今更だがおめでとう。」


「な、何ですか、急に。」


急に私から感謝を言われ、彼は分かりやすく狼狽した。何か裏の意図でもあるのか、と言い出しかねない程に訝しげに私を見つめる。



「……何か企んでいるわけではないですよね?」


とはいえ、本当に言われるとも思っていなかった。


「君の幼馴染ではないんだ。そんなわけがないだろう。」


「幼馴染こそ、そんなわけがあって欲しくはなかったのですが……。」


「純粋な祝いの言葉だ。考えてみると、君達の出会いから恋の成就までの全てを私と槿は知っているわけだからな。感慨深いものすらある。」



連花は地面に座ったまま、思い返すように腕を組んで空を見上げる。


「…思い返すと、そうですね。小春さんとの出会いは槿さんの病室ですし、その後小春さんと頻繁に顔を合わせるようになったのも(りょう)から依頼された小春さんのご実家の手伝いだったわけですから。」


「友人代表の挨拶をした方がいいか?」


「吸血鬼には頼みませんよ。というか、よくそんな事を知っていますね?」


深くため息を吐いて、私は虚ろな目で地面を見つめる。


「君がプロポーズをすると知ってから、槿が2人の時に、結婚式と披露宴の話ばかりするようになってな。もううんざりだ……。『私達もしたいね』と目を輝かせて言うのだが、出来るわけがないだろう。吸血鬼だぞ?」



「それは……、ご愁傷様です。申し訳ないですし、友人代表スピーチくらいはしますよ。」


やるわけがない、と高を括って連花は適当な事を抜かす。本当にやってやろうか、とも思ったが、チャペルに不快感を示す新郎など前代未聞だろう。



「まあ、もしそう遠くない未来に結婚式をやるとなったら槿は呼んであげてほしい。」


「……もしやるとなったら、その前後数週間くらいはまた槿さんのマリッジハイが過熱しそうですね。」


「勘弁してくれ……。」



頭を抱える私に、連花は声を上げて笑った。少し腹が立ったが、あまりにも愉快そうに笑う彼に、私もつられて笑う。笑いながら、とある疑問が頭の片隅に過る。




彼等が結婚するその日まで、私と槿は生きているのだろうか。



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