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槁木死灰の私から  作者: 案山子 劣四
咲く花と、散る桜

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第168話 待つ幸福、待たせる幸福

「それで、連花(れんげ)にはどのようなデートプランを授けたんだ?」


槿(むくげ)と同じデザインのサングラスを掛けた私は二葉(ふたば)に訊ねた。室内で3人共サングラスを掛けているという異常性は一旦気にしないことにした。それを言いだしたらデートを尾行するという行為がそもそもおかしいし、何より教会の施設に吸血鬼が出入りしているという事自体が異常だ。


「ああ、言ってなかったですね。『KB(カナガワブリリアント)タワー』の最寄り駅の『KBタワー前駅』に10時集合、施設内の猫カフェに行った後、ハルの要望をに合わせてランチを取って近場の水族館に移動、その後は予約したイタリアンでディナーなのです。最後は海沿いを歩きながらプロポーズ予定です。」


「随分、色々と回るな。それに、『KBタワー』は、以前屋上が吹き飛んだビルではなかったか?」



「とりあえず沢山予定を詰めて、あとは臨機応変に、なのです。『KBタワー』は6月頭に修理が完了しました。」


大分派手に吹き飛んでいたと思うのだが、たった6か月で復旧するとは。人間の建築技術は凄まじいな、と今更ながら感心する。


「今回のデートのテーマは、『これからこの街を2人の街にしていこう』なんだって。素敵だよね……。」



うっとりと羨ましそうな表情を浮かべながら、両肘を机に乗せ、両手で顎を支える槿を見て、これは暗に今度デートに連れていけ、というメッセージなのではないだろうか、と邪推したが、恐らく色恋に強い憧れを頂いているだけだろう。正直、私からしたらどんなテーマが込められていたところでしゃらくさいようにしか思わないのだが。


それに、どうせ口から出まかせだろう。


「尾行をしやすいところを選んだわけか。」


「え?」


「その通りです!人が多くて、離れていれば嗅覚の鋭いめーちゃんでも気が付けない場所を選んだのです!!」



「ええ……。じゃ、じゃあこの前言ってたテーマって……。」


「完全に詭弁なのです!」


「そんな……。」



やはり、そんな事だったか。自慢げに胸を張る二葉とは対照的に、槿はがっくりと頭を項垂れた。



「だが、今回連花と椿木(つばき)が楽しめるデートプランにはなっているのだろう?」


何故か今回の企みに一切関与していない私が慌てて弁明をしながら二葉に鋭い視線を向ける。


「そ、それはそうなのです。テーマはめーちゃんを丸め込むためのおためごかしですが、その辺りはちゃんと考えたのです!」


「それなら、よかったけれど。」


まだ涙目だが、少しだけ持ち直した槿を見て私は胸を撫でおろす。


「でも、確かに小春(こはる)ちゃんの性格には合ってるかも。大体の動植物は好きだし、高級料理店とかより、リラックスできるところの方が好きそう。」


自分で言いながら、槿はまた目を輝かせだす。少し支えてあげれば自分で前を向くことが出来るのは、彼女の良いところだ。私は心中する手前まで立ち直れなかったというのに。とそんなことを自分で考えて勝手に落ち込む。これは私の悪いところだ。



「槿は、どういうお店がが好きなんだ?」


気持ちを切り替えるために、槿にそんな事を訊ねた。他意はなかったが、まるで『今度一緒に行こう。』ともとれる聞き方になったことに気が付いた。が、槿は、そんな意図に気付く様子もなく、首を傾げ、上を見上げるようにして真剣に考えているようだった。



「うーん。そもそも、味の濃いものがあまり好きじゃないから。一果(いちか)と二葉のご飯が一番かも。」


その言葉に、二葉の顔は赤みを帯びて、照れ隠しをするようにわざと冷めた目線を向ける。



「そう言われるのは嬉しいですけれど、彼氏への返事としては最悪だと思うのです。」


「え?……あ、そういう事!?ご、ごめん……。」


二葉の言葉に私が意図していなかった意味に気が付いたのか、槿は申し訳なさそうな目線を私に向ける。私はそれに笑って返した。


「気にするな。特にそういう意図はなかった。本当だ。」



むしろ、槿が今の生活を楽しんでいるのならば、その方が私は嬉しい。が、それを口に出すのは照れくさかった私はそれ以上は言わなかった。


「あ、ハルが来たみたいです。」


スマホに目を向けた二葉は、赤い顔を誤魔化すように声を張る。再び時計に目を向けると、時間は9時30分を指している。


「なあ、集合時間というのは、集合する時間という意味で合っているよな?」


「合っていないのです。」


「合っていないのか。」


「『ごめん、待った?』『ううん、今着いたところ。』が出来ないでしょ。それだと。」



信じられない、とでも言うような顔で私を見つめる槿に、『遅れればできるだろう。』と言い返そうとも思ったが、恐らくそういう事では無いのだろう。半端に開いた口を、私は閉じる事にした。



「ところで、9時半で施設は空いているのか?」


「空いてないのです。10時からなのです。」


だったら、集合時間通りに集まればいいだろう、と言い返そうとも思ったが、きっと先程と同じ事を言われるだけだと思った私は何も言わない事にした。


「でも、小春ちゃんも早く来るなら、集合時間をもう少し遅くすれば良かったね。」


「それは反省点ですね。」


「やはり、『集合する時間』という意味であってるじゃないか。」



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