第13話 彼が会いに行く理由
槿と過ごした次の日、夜中の2時50分に目が覚める。
3時から彼と話す為だけに起きたが、普段3日近く寝ているだけに、あまりに短い睡眠時間に、身体がまだ眠っているような気がする。
重い身体を動かしながら、パソコンを立ち上げて通話アプリに接続する。3時丁度に彼に通話をかけると、相変わらずすぐに彼が出た。
「やあ、今日も時間丁度だったね。」
「当たり前だろ。」いつものやり取りを彼とする。
「今日はクリスマスだけど、君の愛しの人間になにかしたのかい?」
「一応言っておくが、クリスマスデートは普通クリスマスイブの夜にするものだからな。」
「え、そうなの?」そうらしい。私のこの前知った。
「そしたら昨日の夜はなにかしたのかい?」
「まあな。」説明をしたくなくて、それだけ言って終わらそうとする。
「催眠を何回も使っていたが、何をしたんだい?」
「別に、大したことはしてない。」
「困ったな、教えてくれなきゃつまらないじゃないか。」にやにやと、悪意のある下衆じみた好奇心を感じる。どれだけ黙っていても、結局命令を使われたら喋らざるを得ない。諦めて、私は槿に何をしたかを話した。
「へえ、花畑に連れていったのか。いいじゃないか、ロマンチックで。」
「そうか。お褒めに預かり光栄だ。」お互い本心なのか、そうでないのか分からないことを言い合う。
「だが、意外とちゃんと喜ばせようとしているじゃないか。」
「まあ、そうだな。私が死ぬ為だ。」自分から煽っておいて、何を言っているのか。相変わらず、彼の事はよく分からない。
「死ぬ為だけかい?」
「は?」いまいち、彼が何を言いたいかが分からなかった。「まあ、契約を結んでいたのもあるな。」私がそう言うと、小馬鹿にしたように、「そうかい。それはそうだね。」と彼は言った。
「にしても、まさか君が催眠を使うとは。私の忠告を聞いていなかったのかい?」
「数百年も姿を見せていない化物を追っているなんて異常な執着をする人間なんて居るわけないだろう。右腕も、1000年も経っていれば塵になっているはずだ。」これは、私の本心だった。もしかしたら伝承では残っているかもしれないが、未だに本職としている人間がいるとは思えない。
「へえ……。」そう言って、彼は何か考えた後、口を開いた。「少し、興味が湧いてきたな。」
「何にだ?」
「君の愛しの人間にだよ。」文脈が繋がらず、頭が追いつかない。
「何故そうなったんだ?」彼への不快感が飛ぶ程、純粋に疑問だった。
「今度の日曜日、私も会いに行っていいかい?」私の疑問を無視して、彼は続ける。
「絶対に嫌だ。」彼が槿に会って何をするか分からないし、そもそも私が彼に会いたくない。
「わかった。じゃあこうしよう。『岸根 涼に命じる。お前は私が君の愛しの人間に会う事を認めろ。』」
「なっ…………!……はい。」今までほとんど命令を使わなかった彼が、何故槿に会うためにわざわざ命令したのか。本気で彼の目的が分からなかった。
「大丈夫。本当に会うだけさ。一度見てみたくてね。」本当か嘘か分からないトーンで、彼は言う。
「おや、信じてないね。」
「当たり前だ。お前を信じれる訳が無いだろ。」私は怒気を込めて言うが、彼は軽く笑って流した。
「まあ信じなくてもいいよ。どっちにしろ、私は会いに行くから。場所も君の能力を使った場所で分かるしね。12時頃に行くよ。君は好きな時間に行くといい。」彼に命令された時点で、私は止める事は出来ない。彼の提案を受け入れることしか出来なかった。
「わかった。代わりに、病室内には入らないでくれ。」せめてそれならば、直接危害を加える心配はない。
「本当に信用がないね。いいよ。構わない。日曜日会いに行った時は絶対に入らないようにしよう。」そもそも、許可されないと入れないけどね、と彼は続けたが、私が病院に入った時のように催眠を使って侵入する事はできる。「日曜日」という注釈が着くのが少し気になるが、とりあえずの安全は保証された。
「それじゃあ、そろそろ夜も明ける。また日曜日に会おう。お休み。」彼はそう言って、通話を切った。
全く意味が分からなかったが、彼が日曜日槿に会いにいく。必ず彼が槿の元に着く前に、私は病室に行く必要がある。
日曜日はいつもより早い時間に出ようと心に決め、私はベッドに横になった。




