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槁木死灰の私から  作者: 案山子 劣四
流れ出る血潮

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120/212

第120話 飛花落葉の私から④

カチャカチャと、水を溜めた桶の中で食器が擦れる音がする。


「いつもありがとうね、つっきー。」


「こちらこそ、だよ。いつもご飯作ってくれてありがとうね。」



私のその言葉に、一果(いちか)は少しだけ照れたように笑う。



いつからか、食事を作るのは一果と二葉(ふたば)で、食器を洗うのは私、というふうに役割分担をするようになった。というより、家事の全てを2人に任せるのは流石に申し訳なくなった私が申し出た。


最初は不安そうに隣で色々と教えてくれた2人だったが、今はもう私に任せてくれている。それでも包丁やフライパンなどの調理器具は彼女達が洗ってくれているけれど。



別に怪我をしては行けないわけじゃないんだけれど、それはもちろんしない方がいいけれど。とにかくどこか2人は私に過保護すぎるような気がする。


(りょう)と言い、私を大好きな人が多くて困るな、なんて自意識過剰な事を考えて、勝手に1人で恥ずかしくなる。


最後に食器を水ですすぎ、桶を洗って水切りラックに並べる。手慣れてきたなと、少しだけ自分が誇らしい。もう少しで死ぬとしても、出来ることが増えて嬉しくない人間はいないと思う。少なくとも私は嬉しい。


そんな事を考えて1人誇らしくなっていると、チャイムが正面玄関から聞こえる。



ここに訪れる人で、わざわざチャイムを鳴らす人のは彼女くらいだ。



手を洗い、先に玄関に向かった2人の後を小走りで追いかける。二葉がドアを開けると、案の定彼女、小春(こはる)がいた。水色のオーバーサイズのTシャツに、細身の白のパンツを着ていて、小春のチャームポイントでもある短めのポニーテールも相まって溌剌に見える。



「おはようございます!遊びに来ました!」


印象通りの溌剌としたあいさつで、勢いよく彼女は頭を下げた。


「おはようなのです!」


元気よく挨拶をする小春と同じ調子で二葉は返す。大声を出す二葉が珍しくて、私と一果は思わず顔を見合わせて笑う。



私達は会話をしながら、リビングに移動し、そのまま数十分他愛ないのない話をした。


「それでさ、今日どこに行く?」


しばらくして、思い出したかのように一果がそう切り出した。


「運動しないところならどこでもいいかな。」



私は常套句を口にする。今更初めての友達が出来た私は、彼女達と過ごせるのならばどこでもいい。このままダラダラと喋っているのもいいかもしれないな、なんて思ってもいた。



「そしたら、私は服を買いに行きたいのです。そろそろ買い替え時なので。」


「あー私も。いい加減ちょっと飽きてきたし、変えようかなって思ってたんだよね。」



そういう2人の服装はいつもと変わらないシスター服で、私は思わずまじまじと足先から頭を何度も見返す。


「2人の服装、シスター服しか見たことないですけど、普段着はちゃんと持ってるんですね!」



私が聞きたかったことを、小春はずばりと聞いてくれた。見たことはないけれど、もしかしてそうなのかもしれない。一度も見たことがないし、寝巻すらシスター服だけれど。



「いや、ないけど。」


「修道服が一番かわいいのです。他の服など不要です。」



私と小春は二人で顔を見合わせて、首を傾げた。二葉の、『買い替え時』はまだわかる。生地がへたるだろうし、買い替えることも当然あると思う。


けれど、一果の『飽きたから変える』は理解が難しい。別の服を買うという意味なら分かるが、別のシスター服を買ったところで同じだと思う。



そんな私達の疑問を察したのか、一果は、


「2人共、修道服が全部同じだと思っているでしょ?」


と少し呆れたように言った。


「え、違うの?」


少なくとも、これまで過ごしてきた期間着ていた彼女達の服装は全て同じに見えた。


深くため息をついて、一果は語り出した。



「全然違うから、いい?まずこの服はーーーー」



その後、長々と説明をされたが、結論としては、『ほとんど同じ』という事が分かった。けれど、それを言うともう1周始まるような気がして、



「分かった、違うんだね。じゃあ、皆で服を買いに行こう。」という結論に帰結させた。



「分かってくれたみたいでよかったー。どこ行く?」


「そしたら『KBタワー』はどうですか?ここから1kmくらいのとこにありますよ。」



先程の長話の影響で少しだけ目が虚ろな小春はそう提した。


『KBタワー』、この近くの高層型のショッピングセンターだ。確か『カナガワブリリアントタワー』の略称だった気がする。


1階1階はそこまで広くないから、一度に歩く量がそこまで多くないから私としてはありがたい施設だ。屋上にはプールがあるらしい。行ったことは無いけれど。



「この前のガス爆発の影響で屋上が吹っ飛んだままなのです。」


「結構経ったけれどまだ直ってなかったんだ。」


出不精な私は既に修理が終わったものだと思っていたけれど、そういう訳ではないらしい。


「結構大規模に壊れたしねー。6月には復旧するみたいだけど。」



「という事で、『GingAモール』が一番いいと思うのです。」



いつ聞いてもお世辞にも素敵と思えないネーミングセンスをしたそのショッピンモールも、ここから10km程離れたところにあるから、車があれば問題なく行く事ができる距離だ。



ただ、3階建てでかなり1フロアが大きいので、私の体力からすると少し辛い時もある。けれど、最近は少し体力もついたし恐らく大丈夫だろう。



「じゃあそうしよっか。つっきーどうする?車椅子持ってく?」



一果は気を使ってそう確認してくれた。



「ううん、多分、大丈夫。たまには運動しないとだし。」



そうして、私達はあまり名前の素敵では無い『GingAモール』に行くこととなった。



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