葵視点
京香の友人葵視点のお話です。
本田葵には気になるクラスメイトの女子がいた。
白洲京香。
見た目は普通。積極的に発言するタイプではない。かと言って根暗なわけでもない。
同中の子ともあまり喋らず気付いたら一人でいる。
話しかければキョドることもなく会話してくれる。
一見して目立つキャラではないのだがなぜか目で追ってしまう。
(あの子もっと話したら絶対面白いと思うんだけどなー…)
しかしなかなかチャンスがない。
話しかけても必要最低限の内容で終わってしまう。
嫌われているわけでも避けられているわけでもないようだが手ごたえがないのがまた気になる。
いじめられてた過去があるとか?
いや、あれは面倒な相手を上手くかわすタイプだ。
…などと勝手に分析しては葵はますます京香への興味を膨らませていった。
ある日さらに気になる出来事があった。
文化祭の模擬店決めの時、クラスの中心的存在である和泉とコソコソ話したかと思うと、その後トントン拍子に模擬店内容が映像制作に決まり最後に京香が満足そうな顔を浮かべていたのだ。
ああいう子は黙って面倒な役割が回ってこないように気配を消しているだけだと思っていた。
映像制作を狙っていたかのようだった。
(実は策士?)
ますます興味が湧いた。
文化祭2日目。
葵は応援団のトラブルでクラスの模擬店の午前中のシフトに入ることが出来なかった。
なんとか応援団の問題が解決し急いで教室に向かうと、途中会ったクラスメイトから京香が代わりに入ってくれたことを聞いた。
意外だった。
特別仲が良いわけでも恩を売った覚えもない。
何か理由があってのことなのだろうか。
教室前の受付に京香が座っていたので駆け寄って御礼を言った。
すると京香からも応援団をやってくれてありがとうと御礼を言われた。
別に京香のためにやったわけではない。部活の決まりだからだ。
それなのに密かに感謝されていたことに驚き嬉しかった。
少し話しただけだが思いのほか楽しい。
思い切って友達になろうと誘った。
京香はビックリしていたが快諾してくれた。
(やっぱり良い子じゃん)
京香と友達になれたところで廊下の向こうからイケメンで有名な2年の琴吹圭介が現れた。
しかも執事のコスプレで。
纏わり着く女子にブチギレながら。
あんな恰好で歩いてたらそりゃ女子が集まって来るでしょうに。
それにしても眼福。
(ホントにあんな漫画みたいな人いるんだな…)
女子嫌いという噂なのにあんなに囲まれちゃってご愁傷様、と思っていたら隣に座っている京香の目が座っている。
見たことがないくらい不穏な空気を纏っていて引いた。
どうしたのかと尋ねるとお腹が痛いと言い残して保健室に行ってしまった。
さっきまで普通だったのにこんな急に体調が悪くなるわけがない。
どう考えてもあの琴吹圭介が原因だろう。
タイミングが怪し過ぎる。
何かあるのだろうと確信したが仲良くなればそのうち話してくれるだろうと放置していた。
実力テスト終了日に京香をランチに誘い色んな話をした。
初めて食事をしながらゆっくり会話をした京香は表情豊かでツッコミも絶妙。
みんなの進路の話を興味深く聞いていた。
最近可愛くなったのは恋しているせいなのかとズバリ聞いたらバレバレの反応を示した。
隠す気あるのか…?
しかもしれっと琴吹の話を混ぜ込んでくるし。
どうも本人にあまり自覚がないようなのでこのネタはもう少し寝かせることにした。
12月のある日。
京香がうんうん唸りながら教室でスマホをいじっていた。
盗み見るつもりはなかったのだが男性用のクリスマスプレゼントを検索しているようだった。
京香は見られたと焦っていたものの、ようやく恋愛相談?をする気になったらしく話を聞いてほしいとお願いされた。
休日にショッピングモールへ出掛けて相談に乗った。
イニシャルトークと言いながら『K』は明らかに『琴吹』のKだった。
隠し事下手すぎかよ…。
そして話を聞いていると突っ込みどころが多く、どこから指摘したら良いかわからず頭の中で整理しなければならかなった。
しかし情報量が多い。
一人暮らししてるなら言えっつの!
琴吹先輩女子の部屋に簡単に上がるなよ!
京香自信なさすぎ!
どう考えても両想いだろ!
付き合え!はよ!
という意見をオブラートに包んで物申した。
確かに琴吹は超絶ハイスペック男子ではあるが、文化祭でのキレっぷりからも明らかなように女嫌いで有名だ。
そんな彼が客観的に聞いても京香にベタ惚れなのに当の本人には伝わってないらしい。
京香が琴吹と釣り合わないと思い込んでいるのが原因の一つだろう。
彼女自身は自信がないようだが京香は普通に可愛い。
性格も良いし話も上手いしもし仮に目立つキャラだったら今頃既にモテているだろう。
琴吹先輩お気の毒に…。
とりあえず一緒にショッピングモール内のお店でKさん用のプレゼントを探した。
京香は選んでいるときも真剣であーでもないこーでもないと相手のことを一生懸命考えていた。
(こりゃかわええわ)
オッサンみたいな感想が浮かんだ。
どうもこれは京香の初恋っぽい。この歳にして。
初恋の相手がアレとはなかなか難儀だろうが全力で応援しよう。
冬休み前の1週間。
ある時を境に京香が明らかに塞ぎ込んでいた。
(え、振られたの…?クリスマスは?)
あんなに楽しみにしていたのに。
振られる要素なんてあっただろうか。
京香に大丈夫かと声を掛けても曖昧な返事を返された。
おいおい琴吹先輩よぉ…
京香のことは心配だが今は深く追及しない方がよさそうなのでそっとしておくことにした。
年が明ける頃には落ち着いているだろう。
…と思っていたらお正月3日に京香から帰省土産を渡したいと連絡があった。
剣道部の練習は4日からだったので今日しか空いていないと言ったら大丈夫だということで、高校近くの小さな神社に初詣に行くことになった。
昨日から雪が降りそうな雲が空を覆っている。
夜にはさすがに雪が振り出しそうだ。
葵の自宅は市内でも山に近い田舎で、高校にはバスで通っている。
定期を運転手に差し出し高校最寄りのバス停でバスを降りると京香が既に待っていた。
2人で神社に向かう。
地元の有名などでかい神社は今日も激混みだろうが、さすがにこの小ぢんまりとした神社は人もまばらだった。
大晦日の夜は出店も出て賑やからしいが。
お詣りをして学校や冬休み中のこと等を話した。
「これお土産。どうぞ」
「おーありがとう!たこ焼きのお菓子?関西っぽい!」
「個包装になってるから家族で食べてね」
「1個食べたいからあのベンチ座っていい?」
「うん。いいよ。行こう」
神社の隣にある公園のベンチに座りたこ焼きクッキーを食べた。
公園では近所の小学生らしき子どもが自転車で集まってゲームをしていた。
その声が響くだけで辺りは静かな空気が流れていた。
「ん!これたこ焼き味かと思いきや普通に甘くて美味しいんですけど」
「良かった。お土産いっぱいあって迷っちゃったよ」
「うん、ありがとう。んで?何か話したいことあるんじゃないの?」
「さ、さすが…お見通しですね…」
いきなり核心を突かれ京香が狼狽える。
というか前置きが長い。決心するのに時間がかかり過ぎだ。
「顔にガッツリ書いてあるけど…クリスマスの報告かな?」
「え!?どこ?どこから読み取るの??」
顔を両手で押さえ本気でビビっている。
焦り過ぎて冗談が通じてないらしい。
「ぷっ!嘘嘘。で?どうだった?冬休み前元気なかったから心配してたんだけど…」
「あ、その節はご心配をおかけしまして…」
京香が順を追って話してくれるのを黙って聞いた。
黙って、というか何も言えなかった。
(お父さん亡くなってた??てかどんだけ重い過去持ってんの!?なんて声掛けたらいいかさすがにわからん!)
「…でも誤解が解けてクリスマスは一緒に過ごせたよ。プレゼントも喜んでもらえた。ありがとね」
法事があり、お父さんの事故を思い出し、自分のせいで圭介と気まずい空気になり、避け続け、クリスマスを迎えたというところまで来ていきなり仲直りしたことになっていた。
絶対色々端折っている。
それは今度温かいカフェにでも行ってじっくり聞くことにしよう。
「…急に話飛ぶね。まぁいいや。で?付き合うことになったの?」
「え!?あ、うん…はい…多分…」
「なんで多分」
「お互い好きだったら付き合ってるってことになるんじゃないの?」
「え。そこから…」
小学生か。
いや、今日日小学生でもちゃんと告白して付き合うくらいするだろう。
(てか琴吹先輩何やってんだよ。けじめつけろや。)
脳内で琴吹に悪態をつけながらふと思う。
「ん?もしかしてKさんは京香が初めての彼女だったりする?」
「うん、そう言ってた」
「あーーーー」
額に手をやり冬空を仰いでしまった。
女嫌いに拍車が掛かって女経験もなしってか。
しばらく葵が考え込んでいると京香がわたわたと動揺し始めた。
「なんかダメだった?何?私?」
「いや、京香が悪いわけじゃないんだけど…ちゃんとお互い付き合ってるって、恋人同士なんだって言葉にして約束した方がいいよ」
「え?そうなの?」
恋人というワードに照れたのか京香が少し恥ずかしそうに尋ねる。
「うん。私前の彼氏が友達から付き合うことになったって言ったじゃん。あの時最初線引きが曖昧だったんだよね。バレンタインに『本命だよ』ってチョコあげて受け取ってもらって、それから2人で帰るようになったりとかしたんだけど、『付き合おう』って言ったわけじゃないんだよ。だからデートしててもこれ付き合ってるのかな?って疑問が湧いてきちゃってね。そうすると段々不安になってきてさ。付き合ってるって思ってるの実は自分だけ?って」
京香の顔に不安の色が差し込む。
「結局私から『私彼女だよね?』って訊いて『当たり前じゃん!』って言われてようやく付き合ってるって確信が持てたんだよ。京香もそうなっちゃうかもしれないから、付き合いたての今のうちに訊いておきな。時間が経つにつれ言いづらくなるよ」
「そっか…そう言われると確かにそうかも。付き合ってること葵以外には隠すつもりだからデートとかもしないだろうし、この先好きなのにちゃんと付き合ってるって実感が湧かない気がする」
「うん。そういうこと。あと、もう1個、京香はあんまり隠すの得意じゃないからマジで気を付けた方がいいよ」
人差し指を立て葵が真剣な顔で忠告した。
「え!?」
「Kさんは琴吹先輩でしょ?」
「えええええ!!???」
京香が驚愕と混乱の表情を見せる。
本気でバレていると気付いていなかったようだ。
「大丈夫。誰にも言わないし。あんな人と付き合ってるってバレたらコトだもんね」
「う、うん…ありがとう。でも…なんでわかるの…」
「まぁそれはそのうち教えてあげるよ。女の勘を舐めたらアカンてこと」
「こわ…気を付けないと…」
ゴクリと息を飲み込みせめて琴吹が卒業するまでは隠し続けなればと京香が決心し、葵も折角実った友人の恋なので上手くいくように協力しなくてはと意気込んだ。
しかし学校の王子と友達の秘密の恋か…。
(おもろすぎる!そして私のポジションも美味しすぎ!)
「はい!というわけでこれからはゴリゴリ恋バナしようぜ!」
葵が笑顔で京香に迫る。
「ゴリゴリ!?そんな話すことないよ!?」
「もーまたまたーときめきを私にも分けてよ!」
「と、ときめき!?」
京香と琴吹のネタでときめき補充が出来そうなので当分彼氏はいらないなと、葵は不敵な笑みを浮かべるのだった。




