表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/81

エピローグ

クリスマスイブ以降、二人はこれまで通り食事を共にするようになった。

避け続けてあんなに気まずかったことが嘘のように楽しい時間だった。


クリスマスイブと言えば、あの日牧野に食事に誘われたにも関わらず京香は返事をすることもなく圭介に連れ去られてしまったのだった。

混乱していて挨拶すらも出来なかったのだが、それにしてもあまりに失礼な態度だ。

ただでさえ牧野は京香を元気づけようとしてくれていたのに。

圭介にそのことを話すと悪びれる素振りもなく

『俺の白洲さんを誘う方が悪い』

とむしろ不機嫌になってしまった。

いや、人として…。

メッセージアプリで謝罪しようかと思ったのだが、さすがに誠実さに欠けるのではないかとシフトが同じになった日に全力で謝った。

お詫びと傘の御礼にと、マフィンを渡したら


「こういうとこやん…」


とため息をついて呟かれた。

京香がマフィンが気に入らなかったのだろうかと焦っているとニッコリ笑顔で御礼を言われたのでホッとした。

笑顔に何か含みがあるよう感じられたのは気のせいだろうか。



年末年始の帰省は12月31日から1月2日までの期間にした。

年明け3日以降は雪の予報が出ており、新幹線の運行に支障が出る可能性があったからだ。

帰省先で両親と一緒に過ごしていたとき、京香の中の何かが変わったことを察知したのか母の市香が終始ニヤニヤしていたが、乗ったら負けだと思い何も言わないでおいた。

しかしなぜか知らないうちに圭介と市香が繋がっており、とっくの昔に圭介との関係がバレていたことが発覚した。

いつの間に。

それでも市香はグイグイ聞いてくることもなかったので必要最小限のことだけを話しておいた。

絶対後から圭介に色々聞くんだろうなと京香は諦めてもいた。



2日夕方は雪はまだ降っていなかったが空はどんよりとしていた。

京香は両手にバッグとお土産の袋を持って自宅アパートの最寄り駅で電車を降りた。

お土産は圭介と葵と梓と大家さん用に買った。

圭介は食べ物NGなのでたこ焼きの食品サンプルのマグネットを選んだ。

圭介なら笑って喜んでくれそうだ。

家族以外の誰かにお土産を買うのは久しぶりだった。


駅の改札を出ようとしたところで見たことのあるシルエットを見つけた。

圭介だ。

京香がクリスマスに贈ったマフラーを巻きスーパーの袋を手に提げていた。

到着時刻は伝えてあったが迎えに来るとは言っていなかったので京香はかなり驚いた。

周りを気にしつつ駆け寄りどうしたのかと尋ねる。


「スーパーの帰りだよ。俺が待ってるならありかなって」


スーパーの買い物袋を持ち上げて圭介が言った。

食事提供を継続することになったものの、やっぱり食費はもらえないと断ったところ圭介から『じゃあ買い出しを任せてほしい』と言われ、それからは京香が行けないときに買い出しをしてもらっていた。

今日も自宅に帰ってからの買い出しでは遅くなると思い、材料を連絡してお願いしておいたのだ。


「待ってるならって…?」


“あり”とはどういうことだろう。

京香は意味が理解出来ず首を傾げる。


「うん。お迎えに来られるのはまだ嫌かもしれないけど、先に来て待ってるならいけるかもと思って。」


京香には迎えに来てくれた父を死なせてしまったという今も癒えない心の傷がある。

しかし京香より先に来てその場で待っているのであれば、同じお迎えでも状況が変わりそれを思い起こすことはないのではないかと圭介は考えたのだった。

京香は逆転の発想を持ち出されて呆気にとられた。

ダメ?という圭介の上目遣いの破壊力に負けてトラウマも吹っ飛んだ。

京香のことを気遣いながらもしっかり自分の希望を叶えてしまう圭介は本当に侮れない。


じゃあ帰ろうかと圭介が京香のお土産の袋を持ち、その空いた手を繋いで歩き始めた。

誰かに見られないか心配だったが、三が日ということもあり駅の周りは閑散としていた。

帰省中の大学生が集まって飲みに行くのを見たくらいだ。


普通にしていてもオーラが半端ない圭介と一緒なので、目立たないよう静かな裏通りを歩いた。


「ところで先輩、母に言ったんですか?私たちのこと…」


帰省中のことを色々話そうと思っていたのに、手を繋いでいることが恥ずかしくて真っ先に苦言を呈してしまう。


「え?うん。ダメだった?そこは言っておかないとでしょ?だって俺白洲さんのこと真剣だし」


言い訳をしてきたら説教してやろうと思っていたのにあっけらかんと言われ絶句する。

真剣とは…そういうことなのだろうか。

いや、どういうこと!?


「ちょ…!そういうの狡いですよ!」


混乱しながらも嬉しくて恥ずかしくて圭介を糾弾する。


「? 何が?あと俺お母さんに白洲さんが好きだって言ってあったから」


「は!??」


「白洲さんに言うより先に言っちゃった」


圭介がペロッと舌を出しウインクしてきた。

美形がやると男でも可愛い。

クッソ。


「じゃあ…私も友達に先輩のこと言ってもいいですか?相談に乗ってもらっていたので。もちろん内緒にしてもらいますけど」


「え?いいけど…相談してたんだ俺のこと」


意外そうに圭介が京香の顔を覗き込む。

ずっと葵に相談に乗ってもらった御礼をしなければと考えていたのだが、まずは報告することが誠意なのではないかと思ったのだ。

京香はこれまで何かをしてもらったらすぐに返さなければと常に焦燥感に駆られていた。

しかしお互いに支え合うとはきっとそういうことではないのだろう。

自分が圭介や葵に何かを返してもらいたいとは思わない。

そのことに気付けたのはやはり圭介のお陰だ。


「はい。私人を好きになったの先輩が初めてでどうしたらいいかわからなくて…」


恥ずかしくて少し頬を染めながら言った。


「………」


一時の沈黙が訪れどうしたのだろうかと圭介を見上げると顔を真っ赤にして天を仰いでいた。


「それは反則でしょ!」


「は、反則???」


圭介がまた訳の分からないことを言う。


「そういう顔を他の男の前でしないこと!」


「どういう顔!?」


圭介が京香に顔を向けたのと同時に口付けが落とされた。

唇をゆっくり離し


「そういう顔」


と圭介が愛おしそうに微笑む。


予想もしない事態に京香の精神は数秒間身体と分離していた。

なんでこの人はこんなにも意地悪なのだろうか。

不意打ちキスばかりで京香の心臓が持たない。

まぁ普通のキスもよくわかっていないのだが。

それにしても圭介も自分を初めての彼女だと言っていたはずなのに経験値が違い過ぎやしないか。

イケメンは最初から恋愛経験値がMAXで生まれてくるとか?

こんな圭介に一泡吹かせるのは一筋縄ではいかないのだろうが挑戦する前から諦めてはダメだ。

やってやろうじゃないか。


「あ、先輩」


京香は口に手を添えて耳打ちするような仕草をした。


「ん?」


それに合わせ圭介が耳を京香に傾ける。

一呼吸置き、


「圭介さん、好きです」


と囁いて京香は圭介の頬にキスをした。

圭介ほど大胆なことは出来ないが京香の限界ギリギリの反撃を食らわせた。

すると圭介が身体を京香側に曲げたまま固まり動かなくなってしまった。


「先輩?」


「俺の負けだぁーーーーーー」


圭介が両手で顔を隠しうずくまってしまった。

イケメンが台無しの情けない姿だった。

よくわからないが今回は逆転することに成功したようだ。

京香の最大の武器は無自覚だ。

もちろん本人は気付いていないが。

圭介はこれからも京香のこの武器に振り回され続けるのだろう。


さて帰ったらご飯の準備だ。

今晩は冷えるので鍋焼きうどんにして温まろう。


今日も食卓で楽しい掛け合いが待っている。

いつも読んでいただきありがとうございます。

初めての投稿で至らない部分が多くあったかと思いますが、それでもお付き合いいただき感謝しております。

本編はこれで一旦完結ですが、他のキャラ視点の話を書くつもりなのでもう少し続きます。

書いていくうちにサブキャラにも愛着が出て掘り下げたくなってしまいました。

よろしければこの先もお付き合いいただけると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ