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告白(圭介side)

躊躇いつつも京香はぽつりぽつりと当時のことを話し始めた。

自分を責める言葉ばかりを並べるので圭介はそれをいちいち否定したかったが、それでは話が進まないのでなんとか堪えて黙って聞いていた。


事故の状況については京香の母から聞いていたものと大差なかったものの、直接その場に居合わせた京香の話は生々しく圭介でも時折目を伏せてしまう程だった。


車がぶつかる衝撃音。

徐々に失われていく父親の体温。

無情に降り続ける冬の雨。


思い出しながら京香は言葉に詰まり口に手を当て涙を零した。

圭介はもう片方の手をそっと握りゆっくりでいいと目で合図する。


「轢いた車の運転手の人も運が悪かっただけなんです。雨の日の夜で視界が悪かったのに急に父が飛び出して…それなのにとても真摯に謝罪をしてくれて…私のくだらない我儘であの人の人生も狂わせてしまいました」


ここでも後悔と自責の念が滲む。


「周りはよくある子どもの我儘じゃないかと言いますが…怖いんです。また私の些細な行動で誰かの人生をめちゃくちゃにしてしまうことが。

 人間関係を絶っていたのはそもそも煩わしかったというのもありますが、それが一番大きな理由だったと思います。それに…誰かといることで楽しいとか嬉しいとか、そういう感情を抱く権利は自分にはないのだと思って一線を引くようにしていました。」


圭介の予想していた通りだった。

京香の母は『大切なものを失いたくないから得ようともしない』と言っていたが、それ以上に幸せを求めてはいけないと自分で思い込んでいたのだ。

こんなにも優しい子が幸せになってはいけないなんて理由はどこにもないのに。

圭介はもどかしくて眉間に皺を寄せた。


「でも…先輩と一緒に過ごすようになって、最初は純粋に隣の部屋で死なれたら困ると思ってのことだったんですが…」


あの時のことが頭に浮かんだのか京香の口が少し緩んだ。


「これまで経験したことがないくらい楽しくて幸せで大切な時間で…失いたくないと…大家さんが帰って来るまでの短期間ならば許されるのではないかと思ってしまいました。

 ただ一緒にいられることが終わってしまうと思ったら耐えられなくて。どうしても耐えられなくて。たとえ許されないとしても一緒にいたいという気持ちは伝えたかったんです。」


京香がここまで言い終え呼吸を整える。

震える手から京香がどれだけ勇気を出しているのかが伝わってくる。


「これまで私は色んなことが怖くて逃げていただけでした。でも先輩が私を変えてくれたんです。先輩は気づいていないかもしれませんが、先輩は私が諦めたことをいつも拾って優しく手渡してくれました。今回のことも…

 私は先輩を不幸にしてしまうかもしれません。でもそれ以上に幸せに出来るように頑張ります。だからお願いです。一緒に生きてください」


京香の決意が籠った燃えるような瞳に射抜かれ圭介は目を剥く。

過去幾度となく女子から告白を受けて来た圭介もこんなにも切なく情熱的な告白をされたのは初めてだった。


しかしこの子は先ほどまで謝りながら泣きじゃくっていた子と同一人物なのだろうか。

あんなにも不安そうに怯えて震えて肩を小さくしていたのに。

茶碗と共に『一緒にいたい』という気持ちを言葉にしたことで吹っ切れたかのようだ。

やっぱり女子はわからん。


自分が京香を幸せにしなければと思っていたがそういうことではないのだろう。

一緒に生きていくということは。

自らの傲慢な思い上がりに恥ずかしくなった。


でも答えは決まっている。


「もちろん。俺もそのつもりだよ。幸せにしてください」


過去のことは当分の間深い傷となって残り続けるだろう。

圭介だって同じだ。

これまではお互い1人で抱えてきた痛みを2人で支え合い乗り越えていきたい。

なんだか結婚の誓いのようでむず痒いが圭介はちゃんと言葉にして伝えた。

京香はまた枯れるほどの涙を流した。

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