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ディナー

すっかり忘れてしまっていたが今は真冬の夜。

外で話していた二人は寒さで身震いし初めてそれを思い出した。

ある程度誤解は解けたということでぎこちなく揃って京香の部屋に帰り、お互い雪に濡れた服と体を拭いた。

エアコンの暖房を入れ温かいお茶で一息つく。


「寒かったああああああ……」


マグカップに両手を添えて温まりながら圭介が溜め息をつくように言った。


「すみません…」


「いやいや寒さは白洲さんのせいじゃないでしょ。今日何回謝ってるの?」


確かに謝りすぎて誠実さが薄れるレベルだ。

自分でも何に対して謝っているのかわからなくなる。


「だって…」


「よし、わかった。じゃあ整理しよう」


人差し指を立てて圭介が提案する。

圭介に自分の前に座るよう促されおずおずと正座をし背筋を伸ばした。


「白洲さんは俺に何を謝りたいの?」


また京香の気持ちを察したかのように圭介から尋ねられ動揺してしまう。


「え?えっと…先輩の顔も見たくないと言ってしまいました」


まずはあの一言を挙げた。

思い出す度胸が痛み、あの時に戻ってやり直したいと後悔する。


「あれは…ビックリしたわ」


「ですよね…ゴメンなさい」


言い放った本人も驚いたくらいなので圭介の衝撃はさらに大きかったに違いない。


「でも理由分かったから大丈夫。はい、次」


「え?」


もっとちゃんと話して謝罪したかったのにあっさり流されてしまった。

戸惑っていると圭介の目が早く次に行けと訴えてきて、京香はそれに従わざるを得なかった。


「つ、次…あの、そのことちゃんと謝れなくて、避けてました…」


「1週間めっちゃ寂しかった…」


圭介がガクッと項垂れしょんぼりしてしまった。


「あうう…ゴメンなさい…」


「白洲さんも寂しかった?」


チラリと京香を上目遣いで見やる。


「はい…」


「じゃあOK!はい、次!」


京香の肯定に満足したのか笑顔で次を催促してきた。

こんな軽い感じの謝罪でいいのだろうか。


「…クリスマスの約束も…」


「ううぅ…すげー楽しみにしてたのに…絶対嫌われたんだと思った…」


また圭介の顔が辛そうな表情に戻る。


「ご、ゴメンなさい…!!!」


「しかも別の男に誘われてるし」


ギクリ。

じとりと圭介に軽く睨まれる。

駅前で牧野に食事を誘われたことがしっかりバレていた。

どこから聞かれていたんだろう。


「あ、あれは…私もビックリして…多分励まそうとしてくれただけで…ちゃんと断るつもりでした」


「てかあの人…牧野さんだっけ?一昨日も一緒に帰ってたよね…」


「え!?見てたんですか??」


あの日はほぼ同時に帰宅していたが実は知らないうちに帰り道で遭遇していたようだ。

き、気まずい…。


「コンビニ寄って帰ろうとしたら二人で楽しそうに話してるのが見えて…正直泣きそうになった」


「ち、違うんです!あれはたまたま方向が同じで!別々に帰るのが変な感じだから仕方なく帰っただけで!」


両手で手を振り必死に否定する。

頑なに断り続けると同じシフトで働きにくくなると思ってのことだったのだが、言い訳がまた圭介を煽るようで上手く伝えられない。


「まぁ…夜遅かったし危ないから送ってもらった方が良かったんだろうけど…出来れば俺を頼ってほしかったな」


迎えに来るなと言っておきながら別の誰かと帰っていたのだ。

それはそれは感じが悪かっただろう。

自分を納得させようとしている圭介にどう説明しようかと思っていると


「それにあんな可愛く笑うから誘われちゃうんだよ!ダメ!他の男の前で笑っちゃダメ!」


「ええ!?」


駄々をこねるように言われた。

むぅ…と圭介が拗ねたように口を尖らせる。

ちょっと何を言っているのかよくわからないがこれは謝った方がいいのだろうか。


「謝りたいこともうない?」


迷っていると念を押された。


「え、えっと…」


「ないならもうこれでおしまいね!」


圭介が全力で話を終わらせようとするのでもうどうでもよくなってきた。


「ところで…クリスマスどうする?」


圭介がそわそわしながら尋ねる。

自分から切り出そうと思っていたのに圭介に先を越されてしまった。

こういうことをサラッと言えてしまう圭介はスゴいと思う。


「あ、実はご飯もケーキも作ってあって…」


「マジで!?いい匂いすると思った!やったー!!!」


用意していたビーフシチューとパンを温め、野菜サラダを冷蔵庫から出し並べる。

今日は元々圭介の帰宅前にドアの前に置いておくつもりだったので、皿が多くなっては困るだろうとクリスマスなのに品数を少なくしていた。

2人でやるのであればもっと豪華にすれば良かったと後悔する。

それをまた謝罪すると


「そうなの?いいよそんなの。じゃあ明日も一緒にクリスマスしようよ。今日はイブで明日が本番なんでしょ?」


「え?あ、はい」


まったく気にした素振りもなく言われた。

圭介はいつも失敗を前向きに捉えてくれるので救われる。

そして圭介の美味しそうに食べている姿を見れたことが嬉しくて自然と笑みが零れた。


「はー美味しかった。幸せだぁ」


「ケーキも出しますね」


「待ってました!」


冷蔵庫に入れておいたブッシュドノエルを取り出す。

ココア生地のロールケーキを切り株に見立て生クリームと粉砂糖で雪のイメージを演出してみた。

市販の砂糖菓子のサンタと柊の飾りも乗せてクリスマスっぽさも忘れない。

我ながら良い出来だと京香は満足していた。


「これがブッシュか!」


「だから大統領親子じゃないから」


ケーキを切り分けてお皿に乗せる。


「クリスマスのケーキはろうそくを立てないの?」


「それは誕生日のときだけじゃないですかね」


少なくとも京香はクリスマスケーキにろうそくを立てたことはない。

しかしこういう質問をするときの圭介は小学生に戻ったかのようだ。

興味津々といった感じで可愛い。


「そうなんだ。じゃあいただきます!」


ケーキを一口頬張り圭介がうちひしがれたように床に突っ伏した。


「うんま!ケーキヤバない?なにこれ!」


「良かった…あ、先輩クリーム付いてますよ」


顔を上げた圭介の右頬にクリームがついてしまっていたので京香はそれを左手の親指で拭った。

ティッシュを探そうとすると、何を思ったのか圭介が京香の左腕を掴み口づけるように親指に付いたクリームを舐めた。


(!!!!!!!!!!)


「ちょ…せんぱ…何を…」


紅潮した顔から火を噴きそうだった。


「遠慮しないって言ったよね?」


遠慮どころの騒ぎではない。

大人の階段を飛ばしすぎだ。


「わわわわわわ私には刺激がつつつつ強いのでお、お手柔らかにお願いします!」


「ふっ。いいの?やるなとは言わなかったけど」


言質取ったどー!と言わんばかりの意地悪な笑顔を向けられ狼狽える。

というかこれまでどの辺を遠慮していたのか。

今になって思い起こすと揶揄われていると思っていたあれやこれやは、自分への好意からのものだったのだとわかり羞恥で狂いそうになる。

それでもこんなハイスペック男子に好かれる要素が自分にあるとは思えないので、いまだに完全には信じ切れていないのが本音だ。

どうしたら圭介が本気だと判断出来るのだろう。

恋愛偏差値が低すぎてわからない。


「あ、先輩、私プレゼント用意したんですが」


とにかく話を変えたくて無理矢理プレゼントの話を持ち出す。


「俺も用意してるよ。早速交換しようか」


ケーキを食べ終えお互いいそいそとプレゼントを準備した。

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