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豚肉ほうれん草丼

保護者面談は特に問題もなく終わり、母は学校から直接帰って行った。

結局圭介と何を話したのか聞けず仕舞いだった。

帰省時に母を酔わせて聞き出すつもりだ。



この日の晩御飯は豚肉ほうれん草丼を作ることにした。

母が高校時代学校の近くの中華料理店で食べていたという料理だ。

その中華屋は随分前に閉店してしまったそうで、母はお店の人にレシピを訊いたわけではなく自分で試行錯誤して再現したと言っていた。

どんだけ食べたかったんだ。

京香もお気に入りの料理だったので母から作り方を教わった。


材料は豚肉とほうれん草と卵だけ。

豚肉の薄切り肉とほうれん草を炒め、水、鶏がらスープの素、オイスターソース、醤油、多めの砂糖を入れて煮詰める。

溶き卵を回し入れ、卵が固まってきたら水溶き片栗粉を入れとろとろになったら完成。

京香は初めて食べた時想像以上に甘くて驚いたがこれがクセになってしまった。

もやしとわかめと豆腐の中華スープも添えて圭介の帰りを待つ。



圭介がバイト先から直接京香の部屋を訪ねてきた。


「「いただきます」」


「これ初めて見たけど見た目に反して甘い匂いがするんだね」


「さすが鼻が利きますね。かなり甘めにしてあります」


「じゃあ早速…」


「あ、『あまーーい!!』禁止で」


「先回りしないで!!」


忘れないうちに父の七回忌の予定を話した。

母から事前に聞いていたのか圭介は既に知っている様子だった。

圭介にはそこまでしなくていいと言われたがご飯はちゃんと用意すると譲らないでおいた。

倒れるに決まってる。


「ところで年末年始はお母さんのところに帰るの?」


「はい。遅めに行って早く帰ってこようと思ってます」


「学校は22日までだったよね」


22日が金曜日で土日を挟んで25日の月曜日から冬休みに入る。

年明けは成人の日の翌日9日から学校再開だ。


関西方面の下りの新幹線は年末ギリギリが、上りは年始早々の列車が意外と空いている。

30日か31日に関西の母の住む家に帰って三が日中には戻って来るつもりだ。

大家さんの帰宅は正月だったと思うが圭介のご飯はどうしようか。

家を空けるのは長くても4日間くらいだ。

そんな心配をしていることが伝わったのか圭介にご飯はなんとかすると言われた。

なんとかってなんだ。

圭介がこう言う時は大体なんとかできずぶっ倒れるのだ。

冷凍したものを無理やりにでも渡そうと思った。

京香は圭介の「ご飯は大丈夫」を全く信用していない。


冬休みの話になってふとクリスマスのことが頭をよぎった。

24日は日曜日だ。

バイトは夕方まで入っているがディナーを作る時間はありそうだ。

しかし恋人でもないのにクリスマスを二人で過ごすというのはどうなんだろうか。

丼と箸を持ったまま考えていたら


「24日まだ帰ってないなら休みだしクリスマスしようよ」


圭介から予期せぬお誘いを受けた。


「え!!!???」


自分の心の中を覗き込まれていたのかと驚いて声が裏返った。

しかもあまりにそれが自然な誘い方で一瞬何を言われたのかわからなかったくらいだ。

クリスマスってこんな気軽に誘うものなのか。


「あ…嫌なら別に…」


圭介が京香の反応を拒絶と受け止め凹んでしまった。


「いえ!嫌ではないです!何を作ろうかなって!」


「え?いいの?良かったー…」


肩を落としていた圭介が心からホッとしたように言った。

思わず承諾してしまったが心臓がドキドキして息が苦しい。

クリスマスを家族以外の人と過ごすなんて初めてのことだ。


「えと、何が食べたいですか?」


「クリスマスっぽいの」


「抽象的!」


「いや、俺したことないし。総ちゃんやおばちゃんに誘われたことあるけど断ってたから。クリスマスって家族で過ごすものって印象あるし邪魔するのもなって」


「邪魔ってことはないと思いますけど…」


また圭介の初めてに立ち会えるのは嬉しいのだが圭介の過去のことを考えると複雑な気持ちになる。

目一杯クリスマスっぽいものを作ろう。

なんなら飾りつけもしちゃおう。


「とりあえずケーキはどんなのがいいですか?ブッシュドノエル?普通のデコレーションケーキ?」


「ゴメン。日本語で」


「ほぼ日本語ですって。切り株みたいなのとか、苺乗ったやつとか。チーズケーキやミルクレープでもいいですけど」


「ホントにマジで1個もわからんけど切り株?のやつがいい」


ケーキの種類もよくわからないらしい。

確かにケーキは大抵買って食べるものだ。

圭介は市販のものを食べないのであまり店にも入らないのだろう。


「じゃあブッシュドノエル作りますね」


「うん。ブッシュで」


「大統領になっちゃったよ…」


「苺のは誕生日に食べるものなんでしょ?」


「そうとは限らないですけど…って先輩誕生日いつでしたっけ」


そういえば話題に上がったことがなかった。


「5月6日。誕生日はそれがいいなー…チラッ」


「チラッって。いいですけど」


(もう一緒にお祝いすることになってるし)


今日の圭介はいつもより積極的な気がする。

ご飯に関していつもはもっと遠慮がちだ。


「白洲さんの誕生日はいつ?」


「私は4月9日です」


「俺より先なのか。1ヶ月くらい同い年になっちゃうね。先にお祝いさせてね」


「はい。ありがとうございます」


自分の誕生日も祝ってもらえることになった。

どうせご飯は京香が作ることになるのだろうが実のところかなり嬉しい。

いや、顔がにやける程には。相当。

大家さんが帰って来てからも一緒にご飯を食べられるように

わざわざ先の約束をしてくれたのだろうか。

否が応でも期待してしまう。


圭介の様子を伺うと嬉しそうにガツガツ丼のご飯を掻き込んでいた。


(読めない…ケーキが食べたいだけのような…)


圭介の気持ちは測れないが素直に喜んでおこう。

プレゼントは用意した方がいいのだろうか。

圭介もそこまでは求めていない気がするが。

でももし貰っておいてこちらはない、になってしまっては気まず過ぎる。

うーむ…


「あ、クリスマスプレゼントってどんなものがいいの?」


「エスパーか!」


「え!?」


「あ、すみません。思わず突っ込んでしまいました…」


また脳内を見透かされたのかと焦り、つい普通に突っ込んでしまった。

そんなに顔に出ていたのかと鏡を見たくなる。


「何でもいいですよ。先輩が選んでくれることに意味があるんですよ」


多分。

これまた家族以外からプレゼントをもらったことがないので正直わからない。

物欲も特にない。


「うーん。そうか。確かにクラスの奴も彼女へのプレゼントは

 サプライズで用意するって言ってたしな」


(か、かの…じょ…!)


自分のことではないのになぜか恥ずかしくなる。


「じゃあお互い当日まで内緒で!」


「はい…」


圭介はワクワクニコニコという擬音語が聞こえてきそうな程ご機嫌だ。


京香は自分も圭介へのプレゼントを考えなければならないことに気付き頭を抱えた。

男子にプレゼントをした経験がないので何をあげればいいのか見当も付かない。

一先ず寝る前に『男子高生 先輩 クリスマスプレゼント』で検索してみたが

答えは見つからずなかなか寝付くことができなかった。

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