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圭介side-11

なんとか病院から帰って来れた。

京香が甲斐甲斐しく世話をしてくれている。

これまで甘えられる相手がいなかったので戸惑いながらも思い切り頼ってしまった。


夕食の時のことを謝らなければ。

必死に頭を働かせて言い訳と謝罪をする。


すると京香が謝罪を聴き入れ、さらに自分と同じ大学に行きたいと言ってくれた。


「俺も…!」


嬉しさの余り前のめりになってしまった。

京香と一緒の大学に行けたらきっと楽しいに違いない。

大学でも色々教えてあげたい。

自分以外の人を頼らないで欲しい。

特に男は勘弁してくれ。

眠りにつく直前そんな想いが口から溢れ出てしまったような気がした。


夜中に手を握られているような感触がして目を開ける。

京香が握った手を見つめていた。

ああ、そうか。今は独りじゃないのか。

風邪を引いたりして一人寝込んでいたときはしんどくて死にそうになろうがどうでもよかった。

眠ってそのまま死んでしまっていてもいいとすら思っていた。

でも看病してくれる人がいると頑張って治さなければという気持ちになる。

寝ぼけ半分で手を握っていて欲しいとお願いした。

京香が承諾してくれたことに安心して眠りに落ちた。



*********



次の日の朝。

脇に体温計を突っ込まれ目が覚めた。

京香は一晩中ついていてくれたようだ。

寒くなかっただろうか。

マスクはしていたが感染っていないか心配だ。

京香が汗を拭ってくれる。

くすぐったいが気持ちいい。


食欲があるかと問われ真っ先にお粥が頭に浮かんだ。

看病といえばお粥!

一度でいいから食べてみたかった。

お願いすると京香が作って来ると言って部屋に帰っていった。


まだ体がだるい圭介はベッドに倒れ込んだ。

半分夢の中へ入りそうになっていたところで制服に着替えた京香が戻って来た。

ぐつぐつのお粥を持っている。


(お粥!卵入り!)


期待していなかったが京香がお粥を食べさせようとしてくれた。

のに、なぜか途中で止めた。

してくれよ。

目で訴えると諦めた京香が食べさせてくれた。


(うんま!!!!)


優しい味だ。

熱で舌が馬鹿になっていると思ったが旨いものは旨い。

圭介の顔を見た京香が目をパチパチさせている。

顔も赤いようだ。

熱でもあるのかと自分の額と京香の額を合わせて確認してみた。

近くにある京香の瞳が揺れ自分のヤバい行動に我に返る。

あくまで意識してやったわけではないという風を装い顔を離した。

とりあえず熱はないようで良かった。


京香が自分で食べられますよねとレンゲの持ち手を向けてきたのでしょんぼりしながら我儘を言ってみた。

あっさり折れてくれた。

京香の扱いが段々わかってきた。


お粥を美味しくいただき、今日はこのまま様子を見る旨伝えた。

圭介に熱があるとわかってからの京香の行動を思い出し改めて御礼を言う。

おかんかというくらいに頼もしかった。

自分に頼って欲しいと言っておきながらこの体たらくはカッコ悪い。


しかし京香が


「何言ってるんですか。停電の時の先輩の方がカッコ良かったですよ」


と迷いなく言ってくれた。


どういう意図なのかはっきりとはわからないが、きっとこの『カッコ良かった』は顔のことではないのだろう。

京香に顔以外のことで言われたのは初めてだった。

そう思ってもらえていたことに感激して胸がギュッと締め付けられるような気分になる。

そして役に立てていたのだという嬉しさが徐々に全身に広がっていった。


(調子に乗ったらダメなのかな)


圭介は圭介で京香に対してわりとわかりやすいアピールをしているのだが京香の反応はいつもイマイチで、


「揶揄わないでください」

「そんなこと思ってないくせに」

「また私を困らせたいだけなんでしょ」


とむしろ怒らせてしまっている。

逆効果なのだ。

なぜだ。

この感じだとはっきり『好き』だと言っても、はいはい、と流されてしまいそうな予感がする。

お調子者っぽい性格がダメなのだろうか。

それともこの軽薄そうな顔のせいなのか。


圭介は一応健全な男子高生なので京香とあれやこれやをしたいのは勿論なのだが、それ以上に他の男に取られたくないという気持ちの方が大きい。

今のところ付き合っている男がいるわけでも圭介より仲の良い男がいるわけでもなさそうだが、いつ、誰が京香の可愛らしさに気付いてしまうかわからない。

その男が京香に手を出そうものなら全力で阻止するだろう。

想像しただけでぶん殴ってしまいそうだ。

牧野への嫉妬心が燃えた時にそれを確信した。



同じ大学を目指すと言ってくれるなど前進はしたが京香を自分のものだけにしておくにはただの先輩後輩、もしくは友達のままでは足りないのだろう。


おばちゃんが帰って来て以降も仲良く出来たとしても手作りのものしか食べられないという圭介の体質が足を引っ張る。

ゆっくり話をしようにも外でご飯を食べないかと誘えないのだ。

食事をするには京香に作ってもらう必要がある。


(『一緒にご飯でもどう?白洲さんの手作りで』って誘うのか…?)


不自然過ぎる。

何様なんだ。

今からでも外で食べられるように訓練をするか…。

ファーストフードやファミレスは絶対NGだがギリギリ定食屋なら行けるかもしれない。

しかし女子高生を定食屋に誘うのはどうなんだ。

もしくは飲み物だけとか。

よく考えたら近場では京香が関係がバレると嫌がりそうなので何をしようにも2、3駅はここから遠ざからなければならないのだった。

お茶をするためだけにそこまでするのか?

ここはもう思い切ってデートに誘うしかないのでは。

いや、それだととてもじゃないが気軽には誘えない。


考えれば考える程ドツボにはまっていく気がした。


(俺はなんてヘタレなんだ…)


深く考えず感情のままに動くことが出来たらこんなには悩まなかっただろう。

圭介はあらゆる事態を想定し選択肢を狭めてしまう。

頭の良さが仇となってしまっていた。


残された時間は1ヶ月。

じっくり距離を詰めている時間はない。

圭介の焦りは募る一方だった。

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