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圭介side-7

文化祭2日目。


この日も京香がまた来てくれるのではないかとバッチリ執事コスプレを決め込んでそわそわしていたが昼過ぎになっても現れない。

そのうち終了時間よりもかなり前にどら焼きが完売し閉店してしまった。

京香にこそ見せたかったのに。

客寄せする必要がなくなったので京香のクラスに行ってみることにした。


この姿を見せたいというより京香の顔が見たかった。

圭介は自分の顔にドキドキしている京香を見るのが大好きだ。

自分でもかなり歪んでいるというのはわかっているが、中身ではなく顔に、という自覚があるのでそこは勘弁してほしい。


しかしこれが間違いだった。

フラッと教室を出ると歩くたびに女子がついてくる。

無視を決め込んでいるのにめげずに話しかけるわ写真を撮るわ触って来るわ。

さらに見たこともない女子に腕を絡められそうになってマジギレしてしまった。

自分でも女子にキレるなんて大人げないと思うが、それにしてもこの扱いは酷いだろうと誰にともなく言い訳する。

早く京香に会いたい。

京香の教室はこの辺だっただろうかと見回すと廊下の奥に京香が座っているのが見えた。


(え、めっちゃ睨んでる…?)


来てしまったことに怒っているのだろうか。

実はたまたま通りかかったと誤魔化すつもりだったのだがそんなものは効かなそうだ。


すると京香が椅子から立ち上がりフラフラと歩きながらどこかへ行ってしまった。

勘のいい圭介は自分との仲がバレないようにわざと消えたのだとわかった。

文化祭のサボり場として理科準備室を教えていたのでそこに向かっているような気がした。


そこから圭介はダッシュで階段を駆け上がり駆け下り

トイレに逃げ込みトイレの窓から抜け出し

あらゆる手を駆使して女子たちを撒いた。


人気のない理科棟1階の窓から侵入し理科準備室へと急いだ。



*************



理科準備室のドアを開けると予想通り京香がいた。

走りまくって疲れていたのですぐに京香の隣に座り机に突っ伏した。


京香が何も言ってこないな、と思っていたら髪を触られている気配がした。

顔を上げると京香があわあわしていてどうやら自分でも無意識のうちに圭介の髪を触ってしまっていたようだった。


「す、すみません、髪がキレイで思わず触っちゃいました」


自分の髪の何がキレイだったのかわからなかったが京香の髪を見ていると確かに触りたくなる。

承諾も得ず勝手に触ってみた。


ふわふわで柔らかい。

毛もこんなに細いんだなぁと思って京香を見ると顔を真っ赤にしてプルプル震えながら何かに耐えているようだった。


(可愛いなぁ…)


チワワみたいだ。

こんなに可愛いのになぜ自分に魅力がないなんて言うのだろうか。

圭介は心底不思議だった。

不思議ついでに先ほど何に怒っていたのか聞いてみた。

やはり自分がクラスに凸したことが原因なのだろうかと思っていたら


「ち、違います!先輩は何もしてないです!ただ、先輩にベタベタ触る子たちに腹が立って」


(そんなことで怒るのか?自分は関係ないのに?)


「なんで?」


期待して追及しすると


「なんでって…だって先輩あんなに嫌がってたのに……てゆーか!あんなのほぼ痴漢ですよ!写真も承諾もなくバシャバシャ撮って!肖像権の侵害だって言ってやったらいいんですよ!」


捲し立てるように一気に言われたのがあまりに可笑しくてまた爆笑してしまった。

しかし怒るポイントが面白い。

言い切った後冷静になってしまうところも面白い。

京香が怒ってくれたので疲れも怒りもどこかへ飛んで行った。


御礼に、というつもりではなかったのだが、立花から執事の勉強をしろと渡された漫画に出てくる執事の仕草を真似してみた。


「では何でお返ししましょうかお嬢様?」


すると途端に京香の全身が真っ赤に染まり恥ずかしさからか右手で顔を隠した。

それが可愛くて堪えきれず


「ふっ…可愛い…」


声に出してしまった。

しょうがない。可愛いのだから。


それがトドメとなってしまったのか京香がよくわからないことを言い出した上に脱兎のごとく逃げ出した。


急に出ると外に人がいるかもしれないということと、まだ2人でいたいという気持ちもあり京香の脱走を阻止した。

一応不可抗力ではあるのだが京香の手に自分の手を添えてしまった。

京香が固まるのが分かる。


声を掛けようとしたところで隣の理科室に人が入って来る音がした。

まずい。

これを見られたら勘違いをされて京香に迷惑が掛かってしまう。

しかし自分はガッツリ正体を晒しているかのような恰好をしている。

圭介は考えた末に思い切った行動に出た。


ドアを開けられても京香の顔が見られないように自分の身体で京香を包み込んだのだ。

好きでもない男にこんなことをされて嫌だろうなと申し訳なくなるもこれ以外の方法が思い付かなかった。

そしてこれまた申し訳ないが正直役得でもあった。


抱き締めると想像よりも華奢な肩が頼りなくて思わず京香に回した手に力が入ってしまう。

ふわふわの京香の髪が鼻をくすぐる度自分の冷静さが失われていくのがわかった。


(なんでこんなに良い匂いがするんだーーーーー!!!香水?コロン?そういうの付けるタイプじゃないようだけど…アカン。もう限界だ。頼む、早く出て行ってくれ!!)


これ以上京香と密着していると何をしでかしてしまうかわからない。

そして京香の顔を自分の胸に押し付けているので自分の心臓の高鳴りが聞こえてしまっているのではないかと心配になる。


ようやく化学部員達が出ていき京香を身体から離すと京香がダウンしていた。


(なんで!??)


自分の理性を保つのに必死で京香の異変に気付けなかった。

声を掛けるも返事がないのでいよいよヤバいと抱きかかえたところで京香が目を覚ました。

しかしまた京香が意識を手放し掛けるので急いで離れて土下座で許しを請う。

意識を失うほど自分に抱き締められたのが嫌だったのかと凹んだが、その前に悪戯心でしてしまったことも含め謝るしかなかった。


京香から今晩食事抜きとの罰を言い渡され自分がこんな罰を受けるほど酷いことをしていたのかと猛省する。

今京香の料理を取り上げられてしまったら生きていけない。

精神的にもリアルな意味でも。

例え一食分であろうとそれだけは避けたい。

顔にそれが出てしまっていた。


すると京香から


「それなら…もう食べ物に釣られてやりたくないことをしないでください」


と思いもよらないことを提案された。

どういうことだろうか。

さらに京香が続ける。


「どら焼きの誘惑に負けちゃったけど本当は執事やりたくなかったんですよね?食べたいものがあるなら私が作りますから食べ物のために自分が嫌なことはしないでください」


ますますわからない。

京香にとってのメリットが何も感じられない。

どう考えても圭介を気遣っているようにしか聞こえないのだ。

それは罰にはならないのではないかと尋ねると


「そうですか?私以外の人の作ったものを食べるチャンスが減ると思いますけど」


と返された。

本当にそれでいいのだろうかと思いつつその罰を受け入れることにする。

京香がしてやったりといった顔で笑った。

そんな顔も可愛い。


圭介は京香以外の人が作ったものなど全く興味がない。

そんなものを食べるくらいなら食事を抜いてもいいと思っているくらいだ。

空腹で京香のご飯がさらに美味しくなるだろう。



「他の人の作ったご飯なんてもういらないのに…」



こんなことを伝えたら京香が困るとわかっているので圭介は聞こえないように呟いた。

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