圭介side-6
「そんなに嫌なら断れば良かったのに」
1年からの友人である滝川祐樹に話しかけられた。
圭介よりも背が高くバレー部に所属しており、頭脳派のセッターなのだと別の部員に聞いたことがある。
「この顔が役に立つならいいよもう。どら焼き旨いし」
「それは間違いない。高松プロデュース正解だったな」
クラスメイトの高松は家が和菓子メーカーの会社を経営しており、どら焼きの材料調達や味の管理で全面協力してくれていた。
お陰で高校文化祭の模擬店ながら本格的などら焼きを作ることが出来た。
今日も自ら鉄板に向かいどら焼きを量産してくれている。
分厚いメガネを掛けていてインテリちっくな話し方をするが体重100キロ近い体型で恰幅が良い。
あだ名は『ドラえもん』だ。
本人もそのあだ名が気に入っているのか、今日は学校指定の水色のジャージを着て鼻を赤く塗り頬に髭を描いている。
ノリノリである。
「それより俺はさっきのお前の言葉を聞き逃さなかったぞ」
「何か言ったっけ?」
「お前、立花に好きなタイプの女子って言われて誰か思い浮かべただろ」
「は!?」
祐樹がニヤニヤ意地悪そうな笑みを浮かべている。
マズい。
下手に言い訳をするとこの頭のキレる友人に追いつめられるだけだ。
何も言わず微妙な表情を作ってみる。
「ふーん。まぁこれから大変であろう友を動揺させるのは俺の本意ではない。とりあえず今度詳しく聞かせろ」
祐樹に肩を抱かれ耳元で言われた。
また微妙な表情で返す。
何と言って逃げようかと考えていると文化祭開始のアナウンスが流れた。
開店のため立花がドアを開いた途端女子が雪崩れ込んできた。
今度は顔が引き攣る。
「キャーー!!琴吹君クオリティ高いー!!」
「写真写真!ヤバいヤバい!」
「琴吹先輩指名で接客してもらえますかー?」
「はいはい、写真はいいけどSNSアップはやめてくださいねー
お触りも禁止ですよーあと琴吹は接客しませーん」
祐樹が壁になって女子を抑えてくれる。
他の男子も庇ってくれた。
圭介の女子嫌いを知っているからだ。
だったらこんな企画立ててくれるなと思うが、頭が良いのにアホなこのクラスの仲間が嫌いではないので
集客のためにもう少し我慢しようと思った。
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そろそろ休憩に入らせて欲しいと申し出ようとしたところで総一郎の妹の梓が誰かを伴って入ってきた。
梓に手を振り返しよく見るとその誰かが京香であることがわかりピクリと反応してしまった。
お互いの関係を知られてはいけないので京香とは何も喋らないでおく。
自分の執事姿を見に来たのかな?と勝手に自惚れたが京香は梓の後ろで俯いたままでこちらを見ない。
少し残念な気分になる。
京香と梓の関係が気になったが周りの目もあるので梓に早く帰れと促す。
きっとこの後総一郎のクラスに行くのだろう。
どら焼きを買って2人は出て行った。
この日は終了時間前にどら焼きが売り切れたが、圭介は最後まで客寄せパンダを演じ切り帰路についた。
疲労MAXだったもののこの日はいつもより遠回りをして帰っていた。
文化祭でテンションの上がった女子に後を付けられる可能性が高いからだ。
京香には19時に帰ると伝えてあったが、家に着くのがもう少しかかりそうなので19時過ぎになると連絡を入れた。
しかしいつもは既読がすぐ付くのにこの時はなかなか付かない。
ご飯でも作っているのかと思いつつ再度メッセージを送る。
それでも既読が付かない。
電話を掛けてみる。
繋がらない。
(何かあったのか…?)
遠回りをしている場合ではない。
周りにストーカーがいないか注意を払いながらダッシュで家に向かう。
もっと早く帰れば良かった。
自責の念と後悔に囚われる。
さらに走るスピードを上げた。
アパートの階段を駆け上がり京香の部屋のインターホンを鳴らす。
出ない。
もう一度鳴らす。
するとようやく京香が出てきた。
「何かあった!?連絡したんだけど返事がなかったからどうしたのかと思って!」
走ってきた勢いそのままに尋ねた。
「あ、あの…疲れて寝てしまっただけで…ケータイ気づかなくてごめんなさい」
(寝てただけ…?)
確かに京香に変わった様子はない。
少し疲れているだけのようだ。
安堵で力が抜けてしゃがみ込んでしまった。
良かった。
この子に何かあったら冷静ではいられる自信がない。
安心したのも束の間、京香が落ち込んでいくのがわかった。
めんどくさがりだと言う割に自分に厳しい京香は完璧主義なところがある。
やはり何かがあったのだろうか。
たかだか寝てしまってご飯を作り損ねただけなのに、己を責めるように黙ってしまった。
そんな京香を目の前に抱き締めてしまいそうになるのをギリギリのところで踏みとどまり、代わりに頭を撫でることで我慢する。
嫌がられるかと思ったがそんなことはなく御礼を言われた。
慰めたいというか、とにかく自分が傍にいるのだということを伝えたかった。
京香は元気を取り戻したようですぐに切り替えて炒飯を作ってくれた。
「やっぱり一日の終わりは白洲さんのご飯で締めたいんだよね」
さり気なくずっと京香のご飯を食べたいアピールをしてみたが伝わっているか微妙だ。
嬉しそうにしているから悪くは受け取ってないはずだと前向きに捉える。
そういえば、と昼間梓と一緒に来ていたことが気になり話を振ってみた。
「神崎さんと仲良いんですね。名前で呼んでるし」
と京香に言われ違和感を覚えた。
『名前で呼んでる』という言葉に何か意味が含まれている気がしたのだ。
梓とは小学校からの仲なので呼び捨てにするのは普通のことだが。
もしかして梓との仲を気にしてくれているのだろうか。
いや、そんなわけが…ただの幼馴染だし…
でも変に誤解されるのは絶対に嫌だ。
まして相手は梓だ。
申し訳ないが梓だけはない。
(総ちゃんゴメン…!)
その場にいない総一郎に謝罪しつつ梓のブラコンっぷりを暴露する。
そのことに京香はとても驚いていた。
と、同時にホッとしたようにも見えた。
いかんいかん。
ポジティブに考え過ぎだ。
調子に乗ってしまいそうな自分を戒める。
しかし
「ホントですか!?ありがとうございます!やったー!」
自分の執事姿の写真を送ると言うと京香が満面の笑みで喜んでくれた。
その笑顔がまた無邪気で可愛い。
(いや、これ調子に乗るわ…)
先ほどの決意が揺るぎまくっていた。
目標としていた100ptを超えることが出来ました。
いつも読んでいただきありがとうございます。
これからも完結に向けて頑張ります。




