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圭介side-5

今回からまた圭介-sideが続きます。

後半振り返りです。

校祭初日の朝。


圭介がベッドから起きてスマホの画面を覗くと

大家のおばちゃんからメッセージが来ていた。

開くとようやく生まれたというメッセージと共に娘さんの赤ちゃんの写真が貼付されていた。


「かんわいっ…!」


思わず声が漏れる。

写真からでもふにゃふにゃで柔らかそうな赤ちゃんの可愛らしさが伝わってくる。

メッセージによるとおばちゃんは12月末にはこちらに戻ってくるとのことらしい。

戻ってきても娘さんの体調や生活が安定するまではしばらく定期的にあちらの家に手伝いに行くそうだ。

その時はまた圭介の食事をお願いしても大丈夫か京香に聞いておいて欲しいともあった。


そこで圭介は思い出した。

そうだった。

京香との食卓はおばちゃんが帰って来る時までという期限付きだったのだ。

何故かずっとこの生活が続くものだと思っていた。


おばちゃんが帰ってきても。

学年が上がっても。

圭介が高校を卒業しても。

京香が続いて卒業しても。


よく考えればそんなわけはないのに。

京香にはお互い“友達”だとは言ったが、ずっと一緒にいるわけではない。

自分でも気づいていなかった思い上がりに心の底から驚いた。


(俺はあの子と一緒にいたいのか…)


京香はどう思っているのだろう。

京香は優しくて思いやりのある子だ。

そうであるが故に勘違いしてしまいそうなことが多々ある。

きっと自分を悪くは思っていないとは感じてはいるがそれがどの程度のものか測れない。


そして自分の気持ちも。


ぼんやりしていると時間が過ぎていた。

慌てて支度をして京香の部屋に向かう。



***********



京香との朝食時に赤ちゃんの写真を見せた。

予想通り京香も可愛い可愛いと赤ちゃんに大興奮だった。

ついでにおばちゃんの帰宅の時期を伝えると


「あ……そうなんですね…」


京香の反応は少し寂しそうな残念そうな…

もしくはただ忘れていただけのような。


京香も自分と同じ気持ちでいてくれているのだろうか。

圭介はまだこの生活を続けていきたい。

しかしこの食事にメリットがあるのは自分だけだ。

勉強を教えてもらっている代わりなので平気です、と京香は言うが勉強くらいご飯を作ってもらわなくても教えるし、手間や時間を考えるとどう考えても京香がご飯を用意する方が大変だ。

実は既に面倒だなと思われているのかもしれない。


圭介が相手の想いにここまで心を砕くのは初めてだった。


おばちゃんが帰って来てからも一緒に食べたいとお願いしたらどうなるのだろうか。


『え?なんでですか?大家さん帰って来るならそんな必要ないですよね?』


等と言われたら立ち直れない。

でも優しい京香なら承諾してくれる可能性もある。

その可能性に賭けたいからなのか、

圭介はおばちゃんからの伝言を告げなかった。

今後も時々でいいのでご飯を作ってもらえないかと頼めばそれくらいなら、と京香はOKしてくれるだろう。

しかし圭介はそれだけでは物足りない、いや、嫌なのだ。

また期間限定になるのが。


京香の優しさに付け入るのではなく、お互いに希望した上で一緒に食べ続けたい。

どうしたらこの願いが叶うのだろうか。


こんなことを考えているのを悟られないよう圭介は努めて明るく会話と食事を進めた。



**********



「なぁ…ホントにこれ着るの?」


文化祭の開始直前の2-1教室にて。

ハンガーに掛かった執事服を眺めながら圭介が言った。


「当たり前だろ!レンタル料いくらだと思ってんだ!」


「知らんし。俺の承諾もなく勝手に借りて来たくせに…」


「圭介…いいか、お前はどら焼きが好きなだけ食える。女子は喜ぶ。どら焼きが売れる。俺達大儲け。お前の執事コスプレは皆が幸せになる素晴らしいものなんだぞ!」


学級委員の立花が圭介の両肩をガシッと掴み訴える。

どら焼き食べ放題に釣られたとはいえこれは選択を誤ったかもしれない。

ギリギリまで執事の姿になるとは聞いていなかったのだ。

しかし後悔しても遅い。

諦めて衣装に着替える。

こんな衣装どこで借りられるのだろうか。

着方もよくわからないままそれっぽく着てみると


「おおおおお!!!!圭介!すげえ!執事じゃん!」

「いけるいける!金の匂いがぷんぷんする!」

「女子入れ食いだぞこれは!」


とんでもなく失礼なことを言われている気がする。

でも悪い気はしない。



小中時代はこの顔のせいで男子から妬まれることがあった。

顔が良く頭も良い圭介は必要以上に目立っていた。

何もしていなくても生意気だと言いがかりを投げつけられた。

特に小学校では身体がガリガリで小さかったこともあり格好の餌食だった。


『顔が良いからって調子に乗るな』

『頭が良いからって調子に乗るな』

『貧乏のくせに』


調子に乗った覚えはないのに何度言われ何度殴られたかわからない。


中学ではおばちゃんのご飯のお陰で肉付きもよくなり遺伝なのか身長も伸びた。

さらに見た目が良くなると今度は女子から標的にされた。

告白してきた女子を片っ端から振っていたからだ。

母親の入院で忙しかったし好きでもない女子と付き合いたくなどなかった。

振った女子に何か言われるのはまだしもその友人からの圧力がしんどかった。

なんで女子は恋愛に対して無駄に結束力が強いのか。

同じ人を好きになったらどうするのか。


そんなわけで小中共に人間関係にうんざりしていた圭介は一人で過ごすことが多かった。

学校で唯一心を許していたのは梓の兄である総一郎だけだった。

この高校を受験したのも総一郎の勧めがあったからだ。

高校に入っても同じような境遇を覚悟していたが良い意味でその予想は裏切られた。


この学校の生徒をどう表現したらいいかわからないが“大人”という言葉が一番しっくりくるのかもしれない。


どうでもいいことに時間を割かない。

人を見た目で判断しない。

人のせいにしない。


皆自分が変わらなければ何も変わらないと理解している。


高校に入ってからも女子は相変わらず苦手だが2年では運良く男クラになり圭介は伸び伸び生活出来ていた。

クラスメイトは全く遠慮がなく、執事コスプレも恐る恐るお願いされるどころか

圭介の顔も全力で利用してやろうぜ!くらいな勢いでくるので笑ってしまう。

圭介にとってはむしろそれが心地よかった。


「こんなので喜ぶのか?女子はわからん…」


「わかってねえな圭介。考えてもみろ。好みの女子がメイド服を着ていたらどう思う?和服だったらどうする?…萌えるだろうが!!」


立花の熱弁の圧に引く。

しかし好みの女子が、と言われ京香のことを思った。


京香がメイド服を着ていたら…


いいな。


和服を着ていたら…


ヤバいな。


一瞬で理解した。


「なるほど」


声に出ていた。


「お!圭介もようやくわかってくれたか!じゃあそろそろ開店だぞ!」


「稼ぐぞー!」


「おおおおお!!!」


男クラの異常なテンションが教室に充満していた。

これからのことを考えただけで圭介は早くも疲れ切ってしまった。

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