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お粥

朝が来た。

時刻は6時過ぎ。


寒さで目を覚まし匂いでここが自分の部屋でないことを思い出す。

圭介の様子を窺うとベッドの上で静かにぐっすり眠っていた。

息は荒くなく顔色も良くなっている。

寝ているところ申し訳ないと思いつつ圭介のわきに体温計を突っ込んだ。


ピピッ


体温は37.4度。

なんとか熱が下がっていたことに胸を撫で下ろす。

体温を測られていることに気付いた圭介も目を覚ましたようだ。


「おはよ…」


「おはようございます」


圭介が身体を起こす。

ふらつかないよう京香が背中を支える。


「大丈夫ですか?」


「うん、大分良くなった気がする。…ずっといてくれたの?」


「はい。ゴメンなさい勝手に」


「ううん。ありがとう。こちらこそゴメンね。寒くなかった?」


「ふふ。はい、大丈夫です」


自分の方が大変だろうに京香の心配もしてくれている。

良かった。いつもの圭介だ。

額と首に汗が滲んでいるのが目に入り京香がタオルで拭う。

圭介がくすぐったそうな表情をするのでなんだか照れくさい。


「水飲んでください。あと食欲はありますか?」


「そんなにないんだけど…」


「けど?」


「お粥食べたい」


「お粥ですか?いいですけど気持ち悪くなりませんか?」


「大丈夫。食べたい」


「わかりました。作って来るので横になっててください」



部屋に戻ってすぐにお粥作りに取りかかる。

冷凍ご飯をチンして一人用の土鍋に入れ水を加える。

火にかけて煮詰まるのを待っている間に朝の支度をする。

今日は金曜日なので京香は学校に行かなくてはならない。

土鍋が噴き出す音がして慌てて駆け寄りミニ泡立て器でご飯粒を潰しながら混ぜる。

とろとろのお粥感が出てきたら溶き卵を入れる。

あまり食欲がなさそうな感じだったので味付けはシンプルに塩だけにして

最後に冷凍刻みネギを散らし完成。



熱いのでお盆に乗せそーっとそーっと圭介の部屋に運ぶ。

部屋に入ると圭介がベッドで寝そべっていた。

熱が下がったとはいえまだ体がだるいのだろう。


「先輩、お粥持ってきましたよ」


「あ、ありがとう」


圭介が起き上がる。


「大丈夫ですか?熱いので気を付けてくださいね」


「卵入ってるー…うまそー…」


弱っているときの圭介は気が抜けて随分可愛くなる。


(ホント子どもみたいだなー)


枕元の床にお盆を置いてレンゲでお粥をすくいふーふーする。

冷ましたお粥をあーんと圭介の口に運ぼうとしたところでようやく京香が気づく。

今の圭介があまりに幼く見えて無意識に子どもにご飯を食べさせるようなことをしてしまっていたのだ。


「あ…し、失礼しました。どうぞ」


とレンゲを渡そうとするが圭介がレンゲを見つめたまま動こうとしない。

さらに口を開け、入れろと催促するような視線を送って来た。


(くっ…!!!)


確かに自分の失態ではあるのだがどうしてこうなった。

渋々圭介の口にお粥を運ぶ。

圭介があむっと口に含んで嬉しそうにニコニコしている。

そしてゆっくりと噛んで飲み込んだ。


「美味しい。嬉しい。ありがとう」


(かぁわあああああああああああ……!!!)


圭介のはにかんだ笑みがあまりに可愛くて眩しくて一瞬で赤面し、ついでに目もチカチカしてきた。

なんでこんなに喜んでくれるのだろう。

総一郎が言っていたようにこれまでずっと一人で治してきたのなら看病されたことがないのかもしれない。


火照った顔の熱を冷ますため手をぱたぱたさせて風を送りつつ続けてお粥をすくおうとすると


「白洲さん顔赤いよ。うつっちゃった?」


圭介がベッドから身を乗り出し京香の額に自分の額をくっつけてきた。

ほぼゼロ距離に圭介の顔がある。

あまりの突然のことに固まり何も考えられなくなる。

目を閉じてしまいたいが圭介の瞳があまりに綺麗で瞬きも出来ない。

圭介が熱はなさそうだね、と顔を引く。


(おでこ合わせる必要ある!?これドッキリ?ドッキリなの??)


思わずカメラを探す。

こんないたずらが出来るくらいなら相当回復しているのだろう。

うん、良いことだきっと。

ということで


「先輩もう自分で食べられますか?」


と逃げようと試みる。


「食べさせてくれないの…?」


(もう!なんなん!??)


結局子犬のようなうるんだ目に負け、その後も圭介にお粥を食べさせた。

圭介は終始嬉しそうで京香は諦めの境地だった。

今日も京香の完全敗北で終わった。



圭介もなんとか完食し、お腹がいっぱいになったとのことでお昼の用意は必要ないと言われた。


「検査しに行きますか?熱がこんなに早く下がったので大丈夫だとは思いますけど」


「うん。今日も様子見るよ。寝てる」


「そうですね。無理に外出ることもないですしね。私は学校行くので何かあったら連絡ください」


「ありがとう。昨日もだけど白洲さんが頼もし過ぎて申し訳なくなるわ」


「何言ってるんですか。停電の時の先輩の方がカッコ良かったですよ」


京香は本心が自然と口に出てしまっており自分が何を言ったのか気づいていなかったのだが、圭介がポカンとしていたのでそちらの方に気が向いた。


「先輩?」


「あ、ゴメン。いや、はい、どうも…」


「? じゃあ鍵掛けておいてくださいね」


京香は土鍋を戻しに家に帰り、その後学校へ向かった。

夜圭介の食欲が戻っていたら昨日の残りの肉団子スープでおじやを作ろうと決めた。


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