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肉団子スープ

牧野と本屋で別れた後スーパーで買い物をして帰った。

今晩は冷えるので温まる生姜入りの肉団子スープにすることにした。


鶏ひき肉にチューブの生姜、片栗粉と鶏ガラスープの素を入れて粘りけが出るまでスプーンで混ぜる。

キャベツは角切りに、玉葱・人参は細切り、椎茸は石づきを切り落としてから薄切りにしておく。

鍋に水と鶏ガラスープの素を入れ沸騰したら肉団子のタネをスプーンで一口大にすくって落とし入れる。

肉団子の色が変わったら切った野菜と春雨を入れアクを取り除く。

最後に水溶き片栗粉を入れてとろみをつけて完成。



帰って来た圭介と食卓を囲む。

外はさらに冷え込みが増していたようで圭介が寒そうにしていた。

メニューはご飯と温かいスープで正解だったようだ。


「「いただきます」」


スープを一口飲みホッと息をつく。

身体の芯から温まるようだ。


「旨い…外寒かったから染みるわ…」


「それは良かったです」


圭介は味を噛みしめているようだが心なしか眠そうだ。

いつものような大袈裟なお褒めの言葉がない。

バイトでお疲れなのだろうか。

圭介の様子を観察しながら京香は本屋でのことを思い出し圭介に報告した。


「今日バイト先の先輩と本屋で会ったんですよ」


「へー」


「この前先輩が来てたときに一緒にシフトに入っていた人なんですけど。牧野さんていって、経済学部に所属されているので色々教えてもらいました」


「…へー」


さっきよりも『へー』の声が低く重い。

どうしたのだろうと疑問に思いつつ、牧野に聞かせてもらったことを話した。


「…というわけで文理選択の参考にさせてもらいたいので今度色々聞こうかと思いまして」


「ふーん」


反応が鈍い。

やっぱり眠いのかな、と圭介の顔を覗くと見たこともないくらいに目が座っていた。

ギョッとして京香が声を掛けようとすると


「俺は理系に進んでおいた方がいいと思うけど」


とこちらを見ることもなく言われた。

声に非難の色が込められているようでドキリとした。


「その人白洲さんを慰めようとそんなことを言ったんだろうけど後から後悔するのは白洲さんなんだからちゃんと自分で考えた方がいいよ」


「え…あの、もちろん自分で決断しますけど牧野さんはただ自分の経験から文理どちらでも大丈夫だと思うって言ってくれただけで…」


「そうかな。俺はどちらでもなんて無責任だと思うけど」


いつも優しい圭介がそんなことを言うとは思わず驚きと衝撃で声が出なかった。

それと同時に親身になってくれた牧野を非難されたような気がして腹が立った。

出来るだけ声を抑えて反論を試みる。


「そんなこと…ないと思います。後悔してもそれは私が選んだことですから。牧野さんを悪く言わないでください」


「…妙に肩持つんだね」


「え…?」


なんでそんなことを言うのだろう。

圭介の言葉全てから出る棘に突き刺されたような気分だ。

訳が分からず京香は何も言い返すことが出来なかった。

気まずい空気が流れ息が詰まりそうだ。


何か言おうと圭介に向くと圭介がどこを見るでもなくぼんやりとしていた。

今日は絶対に様子がおかしい。


「先輩…?」


「…うん?」


京香はすぐさま立ち上がり圭介の隣に跪いた。

承諾も得ず自分の掌を圭介の額に当てる。


「あっつ!先輩熱あるじゃないですか!!」


「え…?」


棚から体温計を取り出し体温を測ると38.9度。


「いつからですか?」


「いつから…?」


ダメだ。頭がちゃんと働いていない。

鼻水も出ている。これはスープのせいだけではないかもしれない。

病院に直行しなければ。


「先輩病院に行きましょう」


「いや、多分風邪だから寝てたら大丈夫…」


「もう冬間近ですよ!?インフルエンザだったらどうするんですか!」


「あ、すみません…」


すぐに出られる準備をする。

京香は食事を片付けることもせず自分のコートをハンガーから取り財布とスマホとハンドタオルと鍵をポケットに突っ込んだ。

圭介の保険証は今持っている財布に入っているとのことだったので部屋に防寒着を取りに行ってもらった。

玄関近くに掛けてあったようですぐに戻ってきてホッとする。

自分も圭介もマスクを着け急いで外に出た。


フラフラする圭介の腕を引っ張り県道まで出てタクシーを止める。


「先輩のかかりつけの病院はありますか?なければ市民病院の救急に行きますよ?」


「神崎医院…」


「あ…そうか。運転手さん、神崎医院までお願いします」


タクシーに乗り込み早口で行き先を告げる。

神崎医院は圭介がバイトで行っている家庭教師先であり、京香の友人神崎梓の家だ。

圭介も安心して受診できるに違いない。

良かった。すぐに診てもらえるかもしれない。

なんとかなりそうだと後部座席で息をついた。

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