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恋バナ

「ところで文化祭の時にも思ってたんだけど」


葵が京香の顔をじっと見つめ語り掛けてきた。


「ん?何?」



「…京香、急に可愛くなったよね」



「は!???ななななな何言ってんの?!」


突然のことに狼狽えいつものように取り繕う暇もなかった。

ついでに飲んでいたコーヒーを噴き出しかけた。

急に何を言い出すのだこの子は。


「夏休み前まではなんか地味に徹しているというか…わざと存在感消してる印象があったんだけど

 最近急に可愛くなって周りともよく話すようになったじゃん。私が推測するに…恋してる?」


「ちょ!?え?何?なんで???」


「ぷっ!バレバレなんだけど!」


葵がケラケラと笑い出す。

色々と言い当てられた上にトドメも刺され動揺が隠しきれない。

なんて鋭い子なんだ…。

そして『恋してる?』等と問われ圭介の顔が浮かび顔が真っ赤に染まる。


「いや、恋とかじゃないから…なんていうか…心を入れ替えるようなことがあったというか…」


「ほほー…京香がそう言うってことはまだ恋バナできる段階ではないって感じかな」


「恋バナ!?全然全然!」


京香にとっては最も縁遠いと思っていた言葉だ。


「うん、まぁ気が向いたら話してよ。相談乗れるほどの経験値ないけどさ」


「え…あ、ありがとう」


さらに追及されるのかと身構えていたが肩透かしを食らった。


小学校や中学では恋をしている女子が正義という風潮があった。

バレンタインは強制イベント化され、好きな男子はいないと言うのに無理やりにでも作れと言わんばかりだった。

「お前はお見合いおばさんか!」と思うくらいしつこく特定の男子を勧められたこともある。

紹介マージンでも発生していたのだろうか。

そんな空気にうんざりして友人関係を断っていたという側面もあったので無理強いしない葵に京香はまた親しみを覚える。


「そういう葵は恋バナ関係あるの?」


「前も言ったけど勉強と部活で忙しいから今はないなー」


「今は、ってことは前はあったの?」


「まぁね~ふっふっふ」


「え!?聞きたい聞きたい!」


秘めた想いではあるが恋を自覚し始めている京香は興味津々だった。

これまで恋バナなんて聞く耳も持っていなかったのに。


葵は中学時代の同級生だった元カレの話をしてくれた。

高校に進学してすぐに別れてしまったが今でも友人関係が続いていると言う。


「元々友達だったからかな。付き合ってたことがなくなるわけじゃないけどそれでも今も連絡取るし普通に友達だよ」


「そうなんだ…」


別れたというので悲しい話なのかと思いきや葵は平然とした顔で話してくれている。

彼氏はもちろんのこと、男友達もいたことがない京香は一先ずそういうこともあるのかと納得しておく。


そこで葵に聞いてみたかったことを思い出した。


「恋バナと言えば体育祭の後佐藤さんが琴吹先輩に鉢巻き貰いに行ってたの見たんだけど」


「あーそれ言ってた言ってた。貰いに行くって。もうないって断られたらしいね」


「佐藤さんて成瀬君狙いじゃなかったの?」


「うん、応援団入ったときはそうだったみたいだけど全く脈無しなのがわかって、でも鉢巻きイベントには参加したいってことでとりあえず相手を顔で選んだみたい」


「参加したいから??そんな理由で!?あ、でも前に琴吹先輩は冷たそうだから無理って言ってたんだよ」


「なんかドSっぽいのが逆によく見えてきたとか言ってたような」


「切り替え早いな!」


「そうそう。あの子たちは失恋してもただでは起きなそうだよね。恋愛中心に生きるってのは理解できないけどそれもありだとは思うよ。恋がエネルギーになることもあるし」


「葵ポジティブだね」


そして優しい。

自分は理解できないししようとも思わないのに。

むしろ脳内で全力でディスっていた。


「付き合ってた相手が東大目指してたからそれに引っ張られて絶対無理だって言われてた大学に入った先輩もいるしね。間違いなく恋パワーでしょ」


葵がニヤリと笑う。

そういう考え方もあるのか。

葵は何に対しても前向きで羨ましくなる。

人の好きなものを認められるところが周りの好感を得ているのだろう。


恐らく人を選んで兄自慢をしているであろう梓の話も楽しく聞いてくれそうだ。

今度3人でご飯を食べてみたいと思った。

梓の独壇場になりそうな気もするけれど。


「葵はホント話し上手だよね。めっちゃ楽しい」


「えーやだー照れるー」


葵が両頬に手を当て上目遣いで京香を見つめる。


「いや、可愛いけども!私を落としにかからないで!」


「あはは!てゆーか私が話し上手なんじゃなくて京香が聞き上手なんだよ?気付いてる?」


「え?そうなの?バイト先のカフェに来るおばあちゃんくらいにしか言われたことないけど」


「ちょ!素朴感!!ウケる!いや、ホントそうだよ。おばあちゃんに言われちゃうのは本物だよ」


葵が堪えきれずに大きな声で笑う。


(あ、でも先輩もそんなこと言ってくれてたような)


圭介と葵が同じことを思っていてくれているのであれば信じたくなる。


「あーおっかし…私部活で放課後はあんまり時間ないけどたまにはこうやってご飯とか行こうよ。休日でもいいし」


「ホント?私もそうしたい」


「あらやだ。相思相愛?じゃあこれからもヨロってことで」


「うん。また行こう」


圭介とのことでごちゃごちゃ悩んでいた京香だが葵とゆっくり話せたことで気分が晴れてきた。


何かを失っても新たに何かを手に入れればいいのかもしれない。

京香もようやくそれに気付きかけていた。


自分もいつか葵と恋バナが出来る日が来るだろうか。

それはそう遠くないことのような気がした。

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