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それぞれの進路

2日目の実力テストが午前中で終了し

京香は家でテストの見直しをするため教室で帰る準備をしていた。


「京香、この後帰るだけ?」


帰ろうと席を立ちあがったところで葵に話しかけられた。


「うん、そのつもり。帰って見直ししようかと思って」


「ん真面目っ!偉いなー私は答案返って来るまで忘れるーでさ、もしよければこれから一緒にお昼行かない?」


「外で食べるってこと?」


「そそ。気分転換に」


「…うん、たまにはいいかな」


放課後友達と寄り道をしたことがない上にすぐテストの見直しをしたかった京香は少し躊躇したが

葵と2人で、とのことだったので思い切って行ってみることにした。

3人以上のグループご飯は気を遣うので好きではない。



駅ビルのファミレスはランチタイムで混雑しており、少し待ってから席に通された。

座席は離れていたが京香の高校の生徒も何組か見られた。

実力テストの打ち上げをしているようだ。

2人揃ってパスタとドリンクバーを注文して一息つき、京香から話を振った。


「部活はいつから再開なの?」


「明日から。今日は自由参加で何人かは出てるんじゃないかな」


実力テスト期間中は部活動が禁止となり、どの部活の部員も例外なくテスト勉強に集中しなければならない。


「栗は今日から行ってると思うよ。剣道バカだから」


同じクラスの栗林のことだ。

細身で背が高く彫りが深い顔をしている。

葵の所属する剣道部は部員数が少なく男女混合で練習を行っているためか、他の体育系部活動より比較的男女の仲が良い。


「熱心なんだね。栗林君て強いの?」


「ううん。全然。多分私より弱い」


「え!?そうなの??」


身長180cmの栗林と身長153cmの葵の身長差は30センチ近くある。

大人と子どもくらいの違いがあっても葵が強いとは…

栗林が弱いのか葵が強いのか。

剣道どころかスポーツ全般未経験な京香にはよくわからなかった。


「でも本当に剣道好きだから教師になって部活の顧問したいんだって」


「へー!教師志望なんだ!」


なるほど。教師になるのにそういう志望動機もあるのか。

剣道を続けるために警察官や自衛官になる人もいるらしい。

葵も時々県警の道場で稽古をつけてもらっているとのことだった。


「葵は志望学部決めてるの?」


「私は医学部だよ。お母さんが薬剤師で医療関係者が身近にいるってのとおばあちゃんが身体弱いから老人医療に興味があるんだよね」


医学部に現役で入るには学年50番以内の順位に入っておくのが最低条件だと聞いたことがある。

相当な勉強時間が必要なのに部活もあり応援団もやり、大変ではないのだろうか。

剣道部は量より質で練習に打ち込んでいるため遅くはならないそうだが、

それでも疲れた体で帰宅後に勉強をするのは酷なはずだ。

どうやって時間を確保しているのか聞くと


「部活で疲れて帰って来るとかなりしんどいよーでも毎日最低これだけはやるって決めてると無理なく続けられるよ」


と返って来た。

学校の宿題の他に曜日ごとに教科を決めて深掘りしているのだそうだ。

それを続けるのが普通は難しいのだと思うが。

それでも葵は2浪も覚悟していると言う。

やはり狭き門なのだ。


「京香は?」


葵の話を聞いた後に言うには自分のはショボい夢な気がしたが一応訊かれたので色々端折って端的に答える。


「今のところ経済進んで金融関係入ってその後公認会計士受けようと思ってる」


「へー在学中でも公認会計士って受けられるんじゃないの?」


「うん。そうなんだけどうちお金ないからいつまでも資格浪人出来ないし、とりあえず卒業後は就職してお金貯めてじっくり勉強したいの」


「なるほど!ちゃんとしてるね!偉いじゃん」


「え?」


そんな反応が返ってくるとは思わずかなり驚いた。

『ふーん、で?』くらい適当な返事があると思っていたのに将来の展望がはっきりしててスゴイとまで言われた。


「いやいや、葵の方が全然スゴイでしょ」


「そうかなー浪人覚悟してる時点でどうかと思うけど。やっぱり医学部入れなくて看護や薬学に進む人多いから自分がそうならないとは限らないし。でも後悔しないように出来るだけのことはしないとね。何浪しようが合格した者勝ちなわけだし」


葵との進路話はとても刺激になった。

よく周りからしっかりしていると言われる京香も葵の大人な考えに自分の幼さを実感した。

他のみんなの進路はどうなのだろう。


「他の剣道部の子たちはもう進路決めてるの?」


「うーん。大体ね。私の同期は色々。弁護士目指して法学部とか薬の研究者になりたい子とか。

 政治学を学びたいって子もいるよ。先輩は医学部が多いかな。地元大学の推薦狙いだったりね」


「へー剣道部偏差値高いな…あと結構みんな1年の時点で既に決めてるんだね」


「もうすぐ文理選択の時期だしね。そういえば剣道部じゃないけど合唱部の大宮君ているじゃん」


隣りのクラスでピアノが抜群に上手い男子だ。

合唱部のピアノ演奏を担当をしていてとても穏やかで大人しい。


「あの子も教育学部らしいよ」


「え!?この前なんかの全国コンクールで賞獲ってたよね!?てっきり藝大とか行くものだと…」


大宮のピアノは全国レベルのもので、そのコンクールでは作曲部門で最優秀賞を受賞し全校集会で表彰されていた。


「そうなんだよービックリだよね。音楽の先生になりたいんだって」


「へえ…あれだけ上手くてもプロになるわけじゃないんだ…」


自分の素人考えに恥ずかしくなる。

その後も防衛大や自治医大を目指している子、留学準備をしている子、数学を究めて学者になると決めている子…

聞いたこともない大学や学部の名前も出てきた。


様々な進路や志望動機を聞いてとても勉強になった。

そして葵の情報通っぷりにも驚かされた。

葵には2歳上のお兄さんがいて進路の相談をしているという理由もあるようだが明るくて誰とでも打ち解ける子なので色んな人の話を聞いているのだろう。

京香自身も葵と話していると心を開いてしまっている気がしている。

葵は誰のことも否定しないから安心できるのだ。


もっと葵のことも知りたいし、自分のことも話したいと思った。

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