表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/81

ホットケーキエッグベネディクト風

朝の光が瞼の隙間に差し込む。

京香が横になったままうっすら目を開けるとベッドにもたれかかり床に座っている圭介の後ろ姿が目に入った。


(あれ…私寝ちゃったのか…)


どうやら昨晩圭介に抱きかかえられたまま眠ってしまったらしい。

思い出すと恥ずかしいというよりもじんわりと温かい気持ちになる。


よく見ると圭介がくるまっている毛布は京香のものではない。

自分の部屋に取りに帰ったようだ。


(ずっと傍にいてくれたんだ)


ベッドから降りて圭介の正面にしゃがみ込む。

圭介は立てた膝の上に腕を置いて枕にしながらすやすや眠っている。


そっと圭介の前髪を掻き分け顔を覗く。

昨夜あんなに頼もしかった圭介だが寝顔は少年のように幼い。


『女子じゃなきゃ可愛いとか言わないし!』


あれはどういう意味なのだろう。

妹的な“可愛い”なのだとは思うが圭介の真っ直ぐな眼差しが頭から離れない。


期待してしまいそうになるが日に日に大きくなるこの気持ちを絶対に口にすることは出来ない。

もう圭介のいない生活など考えられないのだ。

絶対に失いたくない。

たとえ圭介が自分を僅かでも特別と思ってくれていたとしても。


これまで真剣に恋をしたことのない京香は恋愛で得られることよりも何かを失ってしまうことに怯えている。

失ったときの絶望感を思うだけで身がすくんでしまうのだ。


一緒にいられるのはあと2ヶ月。

このままの関係を壊さないことに力を注ごうと決意し京香は立ち上がった。



朝の準備を済ませた後台所に立ち、髪をポニーテールに縛ってエプロンを付ける。


今日は日曜日で既に9時近くになっていたことからブランチっぽくホットケーキをメニューに選んだ。

さらに普通のホットケーキでは面白くないのでエッグベネディクト風の食事ホットケーキにすることにした。


ボールに卵を割り入れ泡立て器でかき混ぜる。

牛乳を加え混ぜ合わせてホットケーキミックスを入れる。

粉が飛び散ってしまわないようにゆっくり混ぜ生地の準備完了。

フライパンは一度コンロで熱したあと濡れ布巾に底を付けて冷却する。

ジュウ~という音と共に熱が下がったら再度コンロの火にかけ生地を落とす。

このひと手間でホットケーキがふっくらし綺麗な焼き色に仕上がる。


続いて耐熱皿に割り入れた卵にかぶるくらいの水を注ぐ。

竹串で卵黄に数か所穴を開けてレンジで加熱する。

1分ほどで簡易版ポーチドエッグになる。

ホットケーキの上にカリカリに焼いたベーコン、ポーチドエッグを順に乗せマヨネーズとケチャップとレモン汁を混ぜ合わせた、なんちゃってオランデーズソースを掛けて完成。

最後にサラダミックスのレタスとプチトマトで彩を添える。


京香だけのご飯だった時は彩を気にすることはなかった。

これまでは食べてしまえば同じだと思っていたが一緒に食べる人に少しでも美味しく食べてもらうために

レタスやプチトマトを用意するくらいのことは面倒などではないと感じるようになった。

これも圭介効果の一つなのだろう。

圭介との出会いでどんどん変わっていく自分に戸惑いつつ、これからの変化を楽しみにしている自分もいる。



コーヒーメーカーをセットしたところで後ろを振り返ると圭介が目を開けてぼんやり京香を眺めていた。


「おはようございます」


「…ん、おはよ…」


まだ寝ぼけているようで圭介の反応が鈍い。


「ご飯出来ましたけどすぐ食べますか?」


「うん…顔洗ってくる…歯も…」


圭介があくびをしながらのっそり立ち上がり毛布を抱えて自分の部屋に向かう。

その間に京香はちゃぶ台の上を片付け配膳する。

数分後圭介が戻って来た。

まだ少し寝ぼけているようで目をこすりムニャムニャしている。

動物のようで可愛い。

席に着いて


「いただきます」


「いただきます…」


珍しく声が揃わなかった。

こんなに眠そうな圭介を見るのは初めてで

京香は昨晩のことが原因に違いないと心配になった。


「昨日ありがとうございました。ご迷惑をお掛けしました」


「ううん…全然……あ、白洲さんが寝た後自分の部屋に戻ろうと思ったんだけど、鍵をどうしたらいいかわからなくてこっちで寝ただけだからね…」


もちろんそれも理由の一つだろうが

自分の傍を離れないようにしてくれていたのだろう。

京香にもそれはわかっていた。


「はい。先輩のお陰で安心して眠れました。ありがとうございます」


「うん…寝顔…可愛かった………てかこれめっちゃ旨ーーーーい!」


京香にとっての肝心な言葉が『旨ーーーーい』で掻き消された。

ご飯を食べて脳が働き始めたようだ。


「これなんて料理?」


「エッグベネディクトです」


「誰!?」


「人の名前じゃないですよ」


徐々にいつもの調子に戻ってきた。

昨日のことがなかったかのようだ。

京香はホッとしつつも少し残念な気もしていた。



朝食後、圭介が昼過ぎまで部屋でバイトのシステム点検作業をすると言って帰って行った。

京香も一人で勉強に打ち込むことにして机に向かった。


こんなに長い時間一緒にいたのは初めてだったので京香は独りが当たり前の部屋を少し広く感じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ