体育祭➀(おにぎり弁当)
体育祭当日。
今朝は圭介の分も含め2人分の弁当を作るためいつもより早く起きて準備を始めた。
お弁当箱の予備がないので圭介には大きめのタッパーで我慢してもらう。
米で量を調節することを考えておにぎり弁当を作ることにした。
おかずはサバの竜田揚げ、ブロッコリーのおかかチーズおひたし、キッシュもどきに人参しりしり。
サバの竜田揚げ以外は冷凍の作り置きだ。
ブロッコリーのおかかチーズおひたしはブロッコリーをさっと茹でて、おかかと小さく刻んだスライスチーズとめんつゆを混ぜただけ。
キッシュもどきは卵、生クリーム、顆粒コンソメを混ぜて作った卵液にハムとアスパラと玉葱を加え、それをマフィン型に流し込みとろけるチーズを乗せてオーブンで焼いただけ。
人参しりしりは専用の千切り器で千切りにした人参とコーンを炒め、醤油とみりんと砂糖で味付けしただけ。
京香はこうやっていろんな種類の作り置きおかずを作り冷凍して何日間かに分けてお弁当のおかずとして使い切っている。
京香のお弁当のおかずはいつも2、3種類なのだが今日は圭介の分も作るということで多めにした。
正直初めてのお弁当で気合も入っている。
多少は。
…いや、結構。
急に作ることになったので作り置きばかりなのが悔しいが。
作り置きのおかずはチンするか自然解凍させればいいので先にサバの竜田揚げに取り掛かる。
サバを湯通しし臭みを取り、ビニール袋に片栗粉と一緒に入れて粉をまんべんなくまぶす。
ちゃんとした揚げ物を作ると後片付けが面倒なので油を少なめにして揚げ焼きにする。
これなら衣が油を吸収して最後に油がなくなり、フライパンをクッキングシートで拭いて洗えば済む。
良い感じの焼き色になったらサバをフライパンから取り出しクッキングシートの上に乗せ余分な油を取り完成。
(おにぎりの具はどうしよっかな…)
具もボリュームがあった方がよさそうなのでから揚げはどうだろうかと思い付く。
しかしから揚げは冷凍食品のものしかない。
そういえば以前親子丼を作った時に冷凍から揚げを使ったが、あの時は問題なかったようなので調理したものであればいいのかもしれない。
アレンジすればインスタントラーメンもいけると大家さんが言っていた。
手作りの線引きがよくわからないが一応手を加えておいた方が安全そうだ。
砂糖と醤油と白煎りごまでタレを作り、チンした冷凍から揚げにからめて味を付けてみた。
それを具にして圭介用の大きめサイズのおにぎりを2個、京香用の小さめサイズ1個を作り、おかずをタッパーに詰めて完了。
約束通り朝食時にお弁当を渡すと神かと拝まれた。
いや、約束したし。
とりあえず圭介が空腹で倒れることはなさそうだ。
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この日は見事な秋晴れで10月にしては気温も高めだった。
体育祭の団は赤、白、黄、青の4色に分けられ、それぞれクラスごとに色が割り当てられる。
京香のクラスは黄団だ。
圭介から聞いていた通り体育祭に対する生徒たちの本気度が凄かった。
それぞれ適当に競技に参加して終わりかと思いきや競技もガチ。応援もガチ。ガチ中のガチ。
点数が加わる度に地鳴りのような絶叫が響き渡る。
京香は完全に圧倒されてしまっていた。
体育祭前はみんなあんなにめんどくさそうにしていたのにこの熱量はなんだ。
進学校の体育祭はもっと和やかなものかと思っていたが全く違った。
なんやかんやお祭り本番となると血が騒ぐのだろうか。
周りの空気に自分もちゃんと参加しなければと思わされる。
次々と午前の競技が進んでいき、京香が出場する障害物競争が始まった。
障害は平均台や網くぐり等の定番以外になぜかクイズ研究部が作成したクイズを解答する障害もあった。
クイズ研究部は某局の高校生クイズ選手権優勝の実績もある強豪かつ伝統ある部だ。
そのクイズ研究部が作るクイズを出題するなんて本気過ぎる。
こんな公衆の面前でクイズを間違えたりしたらそれだけでも大恥なのに余計なものを入れ込んでくれる。
順番を待ちながら簡単な問題が出てくれと祈っていると
後ろの番の神崎に話しかけられた。
「緊張するねー」
「うん。クイズマジやめてほしいんだけど」
当たり障りのない会話をしつつ、神崎がブラコンであることを完全に信じ切れていない京香はどうしても確信が欲しくなりここでお兄さんの話を振ってみることにした。
「そういえばお兄さんのクラス何団なの?」
「それがねーお兄ちゃん白団だから別れちゃったの。思いっきりお兄ちゃんを応援できないよー」
…ん?これは早くも確定ではないだろうか。
「いいんじゃない?ガッツリ応援しても」
「そうかな。まぁ抑えようとしても勝手に声出ちゃうんだけどね」
「ふふ。いいね。私一人っ子だからあんな優しそうなお兄さんいて羨ましいよ」
「そう!?やっぱりそう思う??お兄ちゃん優しいの!」
はい、クロ。
ここから出走の順番が来るまで神崎の兄自慢が続いた。
圭介に気がないことがはっきりわかって安心したものの、それ以上に神崎の兄愛の深さに度肝を抜かれた。
圭介が遠い目をしながら話していた理由がわかる。
神崎家の医院はお兄さんが継ぐ予定なのだが神崎も一緒に実家で医者として働くつもりだと言う。
(兄妹ってこういうものなのかな…)
神崎の話を興味深そうに聞いていたのが良かったのか神崎からもっと仲良くなりたいから連絡先を交換しようと言われた。
昨日の本田に続き京香に新たな“友人”が出来てしまった。
肝心の障害物競走では京香は2着でゴールした。
クイズは県名と県庁所在地名が異なる県を3つ答えるというものだった。
苦手な理系の問題でなくて良かった。
ゴール後次走の神崎を応援した。
普段出さないような大きな声で叫び、クラスメイトと一緒に盛り上がった。
それまで他人の出場する競技や応援に興味はなかったのだが
友達が出ているというだけでこんなにも熱くなれるものなのだと知った。




