圭介side-4
京香は自分で手抜き料理しかしないと言っているが簡単そうに見える料理にでもひと手間加えているのがスゴイと圭介は思っている。
卵かけご飯もそうだった。
生卵にただ醤油をかけて終わりではない。
凝り性な性格なのだろうか。
いや、それもあるかもしれないがきっと食べる人のことを考えているのだろうなと思う。
文化祭の話になり京香のテンションが明らかに下がっていた。
真面目な割にめんどくさいことを全力で回避しようとしている。
意外な一面だ。
どうやら勉強以外のことに労力を費やしたくないようだ。
二人で可能な限りサボれる出展の案を練っていると京香が昨年の文化祭でやらされた自分のバリスタ姿を見たいと言った。
実はあまり良い思い出がないのだが、見たいと言われたら断れずスマホの写真を見せた。
「カッコいい…」
少しの間じっと写真を見つめていた京香が呟いた。
「え」
京香が自分のことをそう表現するのを初めて聞いたのでうろたえてしまった。
他の誰に言われてもこんな気持ちになったことはなかったのに。
固まっていると京香も自分が言ったことに驚いたようで急にこちらに顔を向けた。
お互いの吐息がかかりそうな距離に京香の顔があった。
なぜだか自分も京香も見つめ合ったまま目を逸らすことができなかった。
京香の細くて長い睫毛が揺れている。
すっきりと通った鼻に小さな唇。
頬に掛かった髪はふわふわしていて柔らかそうだ。
こんなにまじまじと京香の顔を見たことはなかった。
ああ、女の子なんだなと思った。
京香が我に返り席へと戻る。
ようやく自分も何をしていたのか気づき顔が熱くなる。
にやけてしまっているのではと左手で口を覆った。
心臓が口から出てきそうだった。
京香を女の子であると意識してから彼女の姿がそれまでと違って見えた。
圭介をからかい見せた意地悪そうな笑顔を見て思わず「可愛い」と本音が出てしまった。
一緒に料理をしたとき、初めて見るエプロン姿とポニーテールになぜか緊張した。
完成した料理を差し出してきたときの笑顔があまりに眩しくて固まった。
(なんだこれ。どうした俺)
京香も不思議そうに首を傾げてこちらを見ている。
その仕草すら可愛い。
校祭の出展の話を振ると京香の口からクラスメイトの男子の名前が出てきた。
石松とやらの技術を褒め称えカッコいいとまで言う。
イラっとした。
(誰だよ石松。編集なら俺でも出来るっつの)
突然湧いてきた不快な気持ちが声色に出てしまっていた。
まずい。変に思われてしまう。
すぐに気を取り直して自分のクラスの話に切り替えた。
京香は執事姿の圭介に興味津々の様子だった。
京香の意識が自分に向いて石松に勝ったような気になった。
あんな恥ずかしい姿を人前に晒すなんて苦痛でしかなかったが京香に見せるのはありだなと思った。
…いや、なぜ?
見せてどうするんだ。
京香の反応が見たいのか。
自分は何を期待しているんだ。
ますます自分の気持ちがわからなくなる。
ただ京香のエプロン姿とポニーテールであらわになったうなじを思い出すと
何とも言えない気分になり叫び出したくなるのは確かだった。




