圭介side-2
思えば京香は最初から礼儀正しい子だった。
こちらが先輩かどうかも知らないはずなのに丁寧語で話してくれたし、メッセージアプリでのやり取りでもいちいち挨拶をしてくれる。
たまに砕けた敬語とちょっと失礼なくらいの正直発言がむしろ心地良かった。
少しの会話でこの子ともっと話したいと思うようになっていた。
そんな時思いがけない展開から自分の過去を話すことになった。
引かれないか不安だったがこうなったら一気に話してしまおうと早口で伝えた。
京香は驚いた顔をしていたものの、最終的には圭介の身体を案じ継続してのご飯の提供を申し出てくれた。
正直ちょっと期待はしていた。
このご飯がまた食べられたら幸せだろうな、と。
でもまさか本当に提案してくれるなどとは思いもよらず、聞いた瞬間固まってしまった。
我に返り土下座で懇願すると晩御飯どころか朝御飯まで作ってくれるという。
(神か)
実は学食もギリギリ食べられるレベルのものでしかないので本当は昼もお願いしたいところだが、弁当を作ってくれとまでは言えない。
食費を出すと願い出るもお金は受け取れないという。
この子はこんなに良い子で大丈夫だろうか。変な男に騙されたりしないだろうか。
自分もかなり変な男であることは棚に上げて心配になる。
とりあえずご飯の御礼に勉強を教えることで話がまとまった。
ご飯は受け取って自分の部屋で食べるつもりでいたが話の流れで京香の部屋で食べることになった。
後輩女子の部屋に上がるとか周りから見たら完全にアウトだろうと気を揉むがそれでも京香ともっと話したいという気持ちが勝り承諾した。
この日久しぶりに過去を含めた自分のことを話しなぜかスッキリした。
小中共に友人と呼べる子はおらず、高校で出会った気の許せる少数の友人だけに話していたことだ。
京香と話していると会話が弾み楽しいからか気が緩んでしまう。
こんなボロアパートで女子高生が一人暮らしをしているなんて普通ではない。
何か理由があるのだろうと確信してはいたが、あえて聞こうとはしなかった。
しかし意外と早い段階で京香がすんなり自分の話をしてくれた。
聞くと京香もなかなかの複雑な事情を持っているようだった。
高1でこんなにしっかりしているのはこういう理由があってのことだったのか。
十分大変だっただろうにそれでも圭介を気遣ってくれるので気を紛らわそうと冗談を言ってからかってみた。
すると京香がショックを受けた様子で俯いてしまった。
まずった。この子は超が付くほど真面目な子なのだ。
完全に圭介の冗談を真に受けている。
訂正するも真っ直ぐな言葉で謝罪を重ねてくる。
(うわあああああぁぁあ…俺のアホーーー!!!)
女子とはあまり会話をしない圭介なのでこういうときどうしたらいいかわからず焦った。
京香は今にも泣きそうだ。
とにかく自分の正直な思いを言葉を選び伝える。
京香は下を向いたまま一生懸命圭介の言葉を理解しようとしてくれているようだった。
そして
「はい。ありがとうございます。私も先輩と話していると楽しいです。」
京香が自分と同じ気持ちでいてくれていることを口にした。
(うっわ…なんだこれ…う れ し い)
こちらを向いた京香と目が合うと身体の熱が一気に上がる。
ヤバい。顔が赤くなっているのがバレている?
適当に誤魔化してその場はしのいだ。
…と思う。




