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圭介side-1

今回から圭介sideの話が少し続きます。

前半の振り返りのようなものです。

最初の出会いは圭介にとってかなりカッコ悪いものだった。

圭介は幼い頃のトラウマから手作り以外のものが食べられないという特殊な体質を持っている。

いつも手料理を振舞ってくれる大家のおばちゃんが家をしばらく空けているためその日も食べられるものがなくほとんど断食状態だった。

夜アパートに帰り階段を上り切ったところで我慢の限界を迎えぶっ倒れた。

圭介にとって貧血は珍しいことではない。

来る瞬間がわかる。

目の前が暗くなり意識が遠のく。


(あーーやってもたーーー……)


そのまま意識を失い時間が経つ。


「もしもーし。生きてますかー?大丈夫ですかー?」


誰かが呼んでいる。

身体を揺すられ意識が戻っていく。


「…う…」


「!大丈夫ですか!?どうしたんですか?救急車呼びます??」


大声が頭に響く。

どこかで聞いたことのある声な気がした。

しかし身体を起こして見た顔に覚えはない。

どうやら相手もこちらが何者かわかっていないようだったが水をくれたり事情を聞いてくれたりとても親切な女の子だった。


女嫌いの性分からこれ以上関わりたくないという気持ちもあり、介抱してくれた御礼を言ってさっさと部屋に戻ろうとしたが

なぜか彼女が食事を作ろうかと提案してくれた。


またこの顔で釣ってしまったか?と初対面の相手に対して失礼なことを思ったがそんなに顔色が悪かったのだろうか。心配そうにこちらを見ている。

話してみると本気でこちらの身体を気遣ってくれているようだった。

申し訳ないが空腹には勝てず図々しくもお願いしてしまった。


作って来てくれたご飯はよだれが出てきそうなくらい見た目も匂いも美味しそうなものだった。

向こうも警戒しているのか食べたら皿をドアの前に置いてくれればいいと必要最低限の会話の後すぐ帰って行った。

女子にグイグイ来られることの多い圭介は逆に距離を置こうとする京香に対して好感が持てた。


「いただきます」


一人手を合わせまずはゆっくり一口いただく。


(うんま…!!なにこれ!甘辛な味付けが溜まらん!!旨い!)


あまりの美味しさにすぐに完食してしまった。

大家のおばちゃん以外の人の料理でこんなに美味しいと思えるものは初めてだった。

あと二杯はおかわりしたいくらいだ。


「ご馳走様でした。美味しかった…」


ご飯の余韻に浸りながら食器を洗い風呂に入る気力もなくそのままベッドにダイブした。


(そういえばちゃんと挨拶してなかったな…あれがおばちゃんの言っていた白洲さんか…)


そのまま眠りにつき次の日の朝。

洗った食器と買い置きのペットボトルのお茶に御礼のメモを添えて京香の部屋の前に置いた。

ちゃんと御礼をしなければ。圭介は早朝の学校へと向かった。


―――これが京香との出会いだった。



御礼をすると決めたのにも関わらず再会した図書室で

女子である京香に対し「よだれがついている」等と失礼なことを言ってしまった。

寝ぼけていた上に慌てていたということもあるが、あれはない。

後から思い出して激しく後悔した。

御礼に加え謝罪も必要になってしまった。

駅前のスイーツ店にケーキを買いに走ったがその日既に狙っていたケーキは売り切れ、クッキーくらいしか残っていなかった。

がっくりと肩を落とし仕方なくクッキーを購入してアパートへ帰った。


京香の部屋のインターホンを押し、しばらくして出てきた京香の顔を見てホッとする。

居留守を使われたりしたら立ち直れなかった。

まず謝罪を口にするが京香は気にしていない様子だった。

むしろ御礼を言われた。

こちらを気を遣ってくれていることが伝わり、いたたまれなくなる。

とりあえず御礼と謝罪の気持ちを込めてクッキーを渡すと京香が嬉しそうに笑ってくれた。

その顔を見て安心すると力が抜け座り込んでしまった。

そして再度立とうとしたところでまた貧血がやってきてふらついた。


(ここでかよ…)


またしても情けない姿を見せてしまいばつが悪い。

御礼も済ませたしとっとと帰ってしまおうと思っていると、京香が


「昨日の残りで良ければ食べますか?」


と想像もしない一言を告げた。


「え!!!!いいの???」


あんなに美味しかったご飯がまた食べられるなんて。

圭介の辞書から遠慮という二文字は消え去ってしまっていた。


数分後戻って来た京香が手にしていたご飯には目玉焼きが乗っていた。


(パワーアップしとる!)


「え、卵お嫌いですか?」


「好き!大好き!絶対合う!」


感動で声が大きくなってしまう。

と、ここで重要なことを思い出した。

大分前に大家のおばちゃんに京香の世話を頼まれていたのだ。


『4月から入居する白洲さんて子、圭介の高校の後輩になるから仲良くしてねーあんた先輩なんだから困ってることがあったら助けてあげるのよー』


相手が女子ということで正直気は乗らなかったが

言葉では尽くせないほどの恩人であるおばちゃんの頼みを断れるわけがない。

これまでまともに生きてこれたのはおばちゃんのお陰なのだ。


4月になり、すぐ隣の部屋だったため音で京香が入居してきたことは確認できたが圭介はバイト等で部屋を空けることが多く、なかなか出会う機会がなかった。

確実に会える早朝か深夜にいきなり挨拶に行くのも気が引けるし、相手も不信に思うだろうと勝手に理由を付けて敬遠していたら8月になってしまっていた。


言うならここがチャンスだ。

しかしおばちゃんとの約束を伝えようと思うものの、この子に困っていることなどあるのだろうか。

見た感じとてもしっかりしていて自分の手助けなんて必要なさそうだが。

何か出来ることがないか思案したが、自分の特技は勉強くらいしかない。

あまり言いたくはないがこれでも学校での成績は学年一位だ。

京香にこのご飯の御礼にと勉強を含めた学校関連の情報提供を申し出ると意外なくらいに京香が食いついてきた。


(良かった…役に立てそうだ)


喜んでくれて嬉しいと思うと共に

大人びた京香から急に幼い顔が出て来て微笑ましくなった。

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