ビーフストロガノフ
期末試験は圭介のおかげもあってまずまずの結果を出すことが出来た。
家で一緒に勉強する機会が増えて内心ちょっと嬉しかったことは内緒だ。
京香の文化祭の小物係としての役割は「美女と野獣」の主役のベルが身に付けるティアラ等のアクセサリー類を用意することだった。
他の小物係メンバーは揃ってショッピングモールに買い出しに行っていたようだが京香はその誘いを断りネットでまとめて購入した。
準備時間は約1時間弱。
義務は果たした。
あとは適度に準備を手伝いつつ、当日接客と客寄せをするだけだ。
これで心置きなく実力テストの勉強に集中出来る。
この日も圭介の過去問を解いていたら夢中になってしまい気付いたら19時5分前になっていた。
(ヤバい…!今日は19時に約束していたのに!)
しかも圭介は事前連絡がない限りほぼ時間通りにやってくる。
何を作ろうかと冷蔵庫を開けたところで圭介が帰って来た。
「こんばんは。あれ…?ご飯の匂いしない」
「こんばんは。ごめんなさい、テスト勉強してたら気づかないままこの時間になってて。これから作るので部屋に戻って待っていてください」
「これからなんだ。あ、じゃあ作るところ見てみたい」
圭介がまたしても予想外のことを口にする。
「え!別に面白くもないですよ!?」
「面白さは求めてないけど…でも見たい。…ダメ?」
ぐぬぅ…。
その上目遣いは反則だ。
せめてもの抵抗としてご飯を一緒に作ることを提案した。
エプロンを付けて髪を高めに一つ結びにする。
昨日半額になっていた牛肉とキノコ類を買っていたので
ビーフストロガノフを作ることにした。
薄切りの牛肉をバターを溶かしたフライパンで焼く。
この作業は圭介にお願いした。
ジュージューと焼ける音と共にバターの匂いが広がる。
「おーいい匂い。もう旨そう」
「まだ作り始めたばっかりですよー」
今にもつまみ食いしそうな圭介を窘める。
その間に玉葱を薄切りにしフライパンに放り込む。
さらに薄切りにしたエリンギと手でほぐした舞茸とカットしめじを加え全体に火が通るように炒める。
米粉をまんべんなく振り入れ、顆粒コンソメと塩コショウで薄めに味付け。
冷蔵庫からケチャップとウスターソースと取り出し目分量で順番に入れて混ぜ合わせる。
最後に牛乳を加えとろみがついてきたら完成。
楕円形のお皿半分にビーフストロガノフをよそって生クリームを垂らす。
残り半分に盛り付けたご飯の上に乾燥パセリを振って
「はい。出来上がりです」
お料理番組の締めのようにニコっと笑顔で圭介の目の前にお皿を差し出す。
「…………」
圭介が固まってしまった。
(あれ。きのこ好きじゃなかったかな)
「…はっ!あ、なんかあまりの手際の良さにビックリしちゃったよ。スゴイね」
我に返ったかのような圭介からお褒めの言葉をいただく。
「そうですかね。みんなこんなもんじゃないでしょうか」
「俺ほとんど何もしてないじゃん」
「そんなことないですよ。ありがとうございました」
京香がふっと笑うとまた圭介が固まった。
今日の圭介はどうしたのだろうか。
お腹も空いたことなので深くは追及せず、ちゃぶ台に座って食べることにした。
「「いただきます」」
「ビーフなんとか旨い!俺が手伝ったとは思えない!」
「ビーフストガノフですよ。誰が作ってもこんな感じですって」
「謙虚!」
圭介の調子が戻ってきたようだ。
「料理を手伝ってもらったことがあまりないので楽しかったです」
「俺も俺も。おばちゃんの作るの見てただけだから。微力ながらまたお力になりたいです」
「ふふ、はい。是非」
圭介の喉がゴクリと鳴る。
「もうすぐ校祭ですね」
それに気づかず京香が話題を変える。
「撮影は順調?」
「はい。編集が大変そうですけど。石松君て子がやってくれてるんですがスゴイですよ。感動しました。なんかキラキラさせるのとか効果音とか入れてくれてて。ああいうのサラッと出来ちゃうのカッコいいですよね」
「……ふーん…。そうなんだ」
圭介の声がいつもより低く感じた。
(あれ?まただ。今度は怒ってる?わけではなさそうだけど今日の先輩変だな…)
明らかに圭介の様子がおかしい。
何か自分が圭介の琴線に触れるようなことを言ったのだろうか。
「うちもどら焼きの試作品が完成したからあとは本番かな」
不安になっていると圭介が自分のクラスの話を切り出した。
今度はトーンが平常通りだった。
気のせいだったようだ。
「結局どら焼きにメニューが決まったんですね」
「うん。俺はもっとガッツリ系が良かったのに女子を呼びたいとか言い出しやがって…」
「先輩また客寄せパンダですか」
「ご明察。今回は執事の恰好らしい。なんでどら焼きで執事なんだよ。アホか」
「執事!絶対似合いますよ!見たい!」
「え、めっちゃ食いつくじゃん。執事よりドラえもんの方が客来ると思うけど」
「それはそれで見たいです」
二人で笑いながらビーフストロガノフを完食した。
圭介に食器の片付けをお願いして京香はちゃぶ台を拭いて勉強を教えてもらう準備を始めた。
台所で食器を洗いながら圭介が思い出したように一人呟く。
「ポニーテールにエプロンとかヤバいだろ…」




