可愛い
ドリアが焼き上がり、最後にドリアの中心に乾燥パセリを散らす。
完成したところで圭介が帰ってきた。
「お邪魔します。今日は…チーズの匂いとカレー?」
「はい。残っていたカレーをドリアにしました」
「ドリア!カレーってドリアになるんだ!」
ドリアを前に圭介が目を輝かす。
「チーズぐっつぐつじゃん!うまそ~~~!」
「熱いので気を付けてくださいね」
「はい!では…」
「「いただきます」」
熱いと言うのにほとんど冷まさないまま圭介がドリアを口に入れた。
「あっっっっち!!でもうっっっっま!!!」
「だから言ったのに…」
呆れながらスプーンですくったドリアをふーふーしてから食べる。
ホワイトソースがカレーをマイルドにしてくれていい感じだ。
圭介も美味しそうに食べている。
「そういえば大家さんが母に先輩のこと伝えてくれてたみたいで、さっき母からの電話で聞かされました」
「あ、そうなの?白洲さんからは言ってなかったの?」
「はい、なんかどう説明したものか悩んでいるうちにずるずると…」
「そうだったんだ。でも…娘の口から聞いても普通は反対するよね…」
「はい…だから逆に大家さんから伝えてもらって助かりました。母と大家さん仲が良くて、大家さんに対する信頼感スゴイので」
「そうなんだ。ホントに下手な事できないじゃんそれ」
「何をするつもりなんですか…」
わかってはいるがわざとジト目で非難を送る。
「しないしない!大丈夫!全然そんな気ないから!」
「それはそれで…」
「あ!違う!そういう意味じゃなくて!」
圭介が必死過ぎて面白くなってきた。
少し意地悪をしてみる。
「どうせ私は全然魅力ないですよー」
「いや、だから違うって!白洲さんに変な事するってことじゃなくて、人としての行動っていう意味で…」
「ふふっ…!わかってますよそんなこと。大丈夫です」
やり過ぎたかなと思い、すぐ笑顔を戻した。
「もーーービビらせないでよ!!つーか白洲さんは魅力ないことないし!十分可愛いよ」
「は…?」
からかわれてる?
そうだとしても圭介に言われるとじわじわと嬉しい感情が湧いてきてしまう。
自分が月並みな顔であると自覚している京香は、その気持ちを無理やり抑え込んだ。
と同時に恥ずかしさと腹立たしさで顔が真っ赤になり涙目で圭介を睨んだ。
「え!なんで褒めたら怒るの??やっぱり女子わからん!」
「怒ってるっていうか…私そういうの言われ慣れてないので嘘でもやめてください」
「嘘って……いや、はい。ごめんなさい。もうしません」
明らかに納得のいっていない様子を見せるも圭介は降参したように手を挙げ素直に謝罪した。
「よろしい」
京香からお許しをいただきホッとした圭介だったが
「嘘じゃないっつの…」
聞き取れないくらいの小さな声で悪あがきをした。
京香はご飯を食べることに意識を戻しふーふードリアを冷ましていたので
その言葉に気づかなかった。
その後ドリアを食べながらLHRで作戦通り上手く面倒を回避できたこと、圭介のクラスはまた飲食店になったこと等を話した。
期末も近いので京香は圭介からまた過去問をもらうことになった。
さすがの圭介もテスト期間はバイト量を抑えているとのことだった。
「じゃあ先輩も学校終わったらすぐ家に帰るんですか?」
「ううん。いつも通り図書室に寄ってから帰る」
「試験期間中の図書室混みません?」
圭介と図書室で遭遇した時のことを思い出した。
夏期講習があったとはいえ夏休みの期間であれだけ混雑していたのだ。
試験期間中はもっと恐ろしいことになるだろう。
京香は高校での初試験であった中間考査のときはそれを予想し図書室には近寄らなかった。
「うん、混むけど…帰宅生徒が多い時間に帰ると後付けられるから」
思いもよらぬ理由にギョッとした。
それはもしかしなくてもストーカーではないか。
でも対象が圭介ならあり得なくもない。
「そんなことホントにあるんですね…」
「変なのはおばちゃんがいれば追っ払ってくれるんだけど、出来るだけ人が少ない時間に帰って気配を感じて撒くようにしてる」
「スパイみたいですね」
「勘弁してほしいよホント…」
イケメンの知られざる苦労を聞いてさすがに不憫に感じた。
「それに今は白洲さんもいるから迷惑掛けられないし」
「え?私ですか?」
「俺に関することで困ったことがあったら遠慮なく言ってね。俺関連じゃなくても何かあれば言ってほしいけど」
「あ…はい。ありがとう、ございます」
急に優しいことを言うからこの人は困る。
いや、圭介が自分に優しいのは大家さんに頼まれているからだ。
それ以上の理由はないはずだ。
勘違いしないようにしなければ。
そう思い込むもまた顔が熱くなってきた。
自分の中でこの熱の原因はドリアのせいだということにしてしておいた。




