LHR-2
議題が文化祭の出し物の検討へと移る。
「…というのが前年の出展例です。条件さえクリアすれば特に縛りはありません。とりあえず思いつくものを挙げていきましょう。はい、皆川君どうぞ」
四ツ本の提案に対しクラスのお調子者こと皆川泰輔が早速意見を出す。
「出店といえば焼きそば!」
その他の生徒もそれに続く。
「スイーツが良い!クレープ!」
「たこ焼き!」
「劇がいい!青春っぽい!」
「当日楽したいから展示の制作がいい!」
「展示はそれまでが大変じゃねーか!」
「お化け屋敷!」
「当日のメンテナンスがめんどくせーよ!」
様々な案が出る中、京香が希望する映像制作がなかなか出てこない。
ワイワイ教室が騒がしくなってきた今が作戦実行のチャンスかもしれない。
(仕方ない…作戦開始だ)
後ろの席で盛り上がっている和泉凛に軽い感じで話しかけてみる。
和泉は天真爛漫系の美女でクラスの中心にいる明るい生徒だ。
「そういえば去年映像制作で先生巻き込んで格付けチェックしたとこあるんだってね」
「へー!何それ面白そう!」
「映像制作ならドラマでもダンスPVでもいけるから賢いと思った。失敗しても撮り直しや編集で何とかなるし。このクラス動画投稿とかしてる子いないのかな」
圭介と考えた作戦はこうだ。
・クラス全体に向かって気軽に意見を出せるような生徒に話しかける
・動画制作のメリットをこれでもかと挙げていく
・担ぎあげられないようにあくまで自分の意見ではないような言い方に徹する
・そして誰かに実行役を押し付ける
「あ、石松が投稿してた気がする。石松ー」
「あ?」
目論見通り和泉が動画投稿をしているらしい石松に声を掛けてくれた。
確か二人は中学が同じだったはずだ。
「アンタ動画投稿してたよね」
「ああ、ただのゲームプレイ動画だけど」
「マジか!なんてチャンネル?」
他の生徒が食いつく。
「いや、ホントただプレイ動画垂れ流してるだけだから。一応編集もするけど」
(キタ!)
「編集できるの?スゴイね!カッコいい!」
京香がどさくさに紛れて男の自尊心をくすぐるワードを投下する。
これも圭介のアドバイスだ。
実は結構恥ずかしいのだが。
「映像制作になるんだったら別に編集やってもいいけど…」
(さらにキタ!!)
「映像制作かーそれもありだね」
「でも企画最初から考えるのめんどくさくない?」
「ありもののドラマや劇なら脚本いらないよ」
「私衣装係やってみたいと思ってたから劇がいい!」
「演劇部!出番やぞ!」
「部活の方でも劇はやるんですけど…」
話題の中心ががどんどん映像制作の劇に集まっていく。
あとは変な方向に話が進んだときに軌道修正すればいいだけだ。
気配を消しつつ教室の端から監視を続ける。
結局京香のクラスの出し物は映像制作の「美女と野獣」に決まった。
配役は休み時間を挟んだ後のLHRで話し合う。
休み時間中に出たがりグループが勝手に盛り上がって役を取っていってくれるだろう。
京香は小道具狙いだ。小道具なら家でも作業出来る。
小道具が得意などと言っておけばなんとかなるだろう。
こうして校祭の話し合いは無事終わった。
晩御飯のときに報告しよう。




