LHR-1
昼休み明けの5限目。
勝負のロングホームルームが始まった。
学級委員の四ツ本慎太郎が教卓に立ち校祭の説明をする。
「…と、この3日間で校祭が行われる予定です。文化祭の出し物を決めるのには時間がかかりそうなのでまずは体育祭の競技選定から処理していきましょう」
サクサク話し合いが進む。
(さすが四ツ本君。無駄がないわ…)
四ツ本は地元印刷会社の御曹司だ。
たかだか地方の一企業の跡取りというだけに過ぎず、御曹司と言う程の資産があるかどうかは知らないが
入学当初から慶應の商学部志望なのも御曹司っぽさを感じさせる。
そのためかリーダーシップがあり当然頭も良いので効率よくこのクラスをまとめてくれている。
担任も四ツ本に完全にお任せでニヤニヤしているだけだ。
「部活の得意分野で競技を割り振りましょうか。…はい、異議がないようなのでまずはリレーですね…リレーは陸上部にお願いしたいですが、水木君は走高跳専門なのでサッカー部の渡部君はどうでしょうか。体育測定で50メートル走が6秒台前半だったのは渡部君だけです」
(追い込むよね~~~)
なんて抜かりのない戦略。事前の情報収集も完璧だ。
そこまで言われたら断れないだろうと渡部紘斗を不憫に思うがむしろ本人はやる気満々だったようだ。
「サイドバックの申し子渡部にお任せあれ!」
「おおおお!!よ!渡部!」
「ぶっちぎれよ!」
打ち合わせしたかのような口上と共に快諾していた。
ちょっとウザいが本人が良いならみんな幸せだ。
さらに女子のリレー選手、棒倒し、騎馬戦等のメンバーが決まっていく。
「…というわけで団体競技は決まったのであとは男女に分かれてその他の個人参加競技を決めてください。時間は20分です。はい、開始してください」
団体競技に参加する体育会系部活組以外の女子が集まって参加競技を話し合う。
京香が狙っているのは障害物競走だ。
借り物競争は誰かに声を掛けなければならないし、5人6脚は男女3人ずつの参加なので隣の男子と身体が密着する。
想像しただけで悍ましい。
どうやって障害物を勝ち取ろうか考えていると
「私5人6脚がいい~」
「私も~一緒に組もうよ~」
以前窓際で圭介の噂話をしていた佐藤琴乃と南田志保の二人組が手を挙げた。
(はい、出ました恋愛脳コンビ)
例の一件以来この二人へのイメージがストップ安な京香は密かに毒づく。
二人が男子との交流目当てで参加表明をしていることは明らかだが周りも京香と同じことを思っているらしく勝手にやってくれという目をしている。
「じゃあ私障害物で」
そんな空気の中、神崎梓がしれっと入り込む。
「あ、私も。意外と体幹あるよ」
適当な理由をつけて京香も飛び込んだ。
こういうことは大概早い者勝ちだ。
躊躇していては損をする。
特に反対意見も出ないまま制限時間前に全ての競技の参加者が決まった。
そして話は応援団員選出へと進む。
「応援委員以外にクラスから男女1人ずつ出す必要があります。まずは希望者はいますか?」
応援委員とは応援委員会に所属する委員であり、図書委員や美化委員等と同じ位置づけのものだ。
体育祭の応援団とは別物で、主な活動は体育祭の応援団の中心的役割と野球部その他部活動の試合の応援である。
正直京香は応援委員に対して暑苦しいイメージしか持っていなかったが、夏休み前に全校集会で行われた夏の地方大会に向けての激励会の応援姿は格好良かった。
それでも特に応援委員に関わりたいとは思わないが。
少しの沈黙の後
「俺やるよ」
圭介から聞いていた通り剣道部の栗林が手を挙げた。
大人しめの男子たちがあからさまにホッとしている。
(本田さん、来い!頼む!)
「はい、私も」
祈りが通じたのか、やはり剣道部女子の本田も名乗り出た。
予想はしていたものの感謝で胸がいっぱいになっていると意外なところから声が上がった。
「私もやるー」
「私も」
恋愛脳コンビこと佐藤と南田だった。
なぜ…?と疑問が先に湧くがあの二人の目的を考えてみればわかることだ。
京香のクラスの応援団員は成瀬涼真。
学年でも一二を争う美形男子なのだ。
(お近づきになりたいのね…頑張れ…)
本田で枠が埋まることは確定していたがクラスで男女各1名“以上”なので二人が入ることに問題はない。
理由が理由だけに心から応援は出来ないが面倒なことを引き受けてくれるという点では一応二人にも感謝した京香だった。




