それぞれの理由
「「いただきます」」
いつもの晩御飯。
「はい!最の高!カレー旨いーー!!」
いつもの大袈裟なくらいの感想。
(ああ、私やっぱりこの時間が好きだ)
失いたくない。
だからちゃんと今日のことの説明をしておかなければと思った。
「今日はホントすみませんでした」
「いやいや、だから気にしてないって」
「気を悪くしたら申し訳ないんですけど、先輩、目立つじゃないですか」
「まーそうかも、ね」
本人も自覚はあるようだ。
「今日たまたま同級生が先輩の話してて、やっぱり有名人なんだって思って」
「良い噂は少ないけどね」
「そ、そんなことはないですけど…私モブキャラ志望なので…」
「モブキャラ志望て!初めて聞いたわ!」
「あの、だから先輩とこういう…なんていうか、関係って知られると女子の反感を買うのでは…と…」
「あーーーーなるほどねーーーー」
食い気味に即答された。妙に理解が早くてビックリする。
こういうことに対しても頭の回転が早いのだろうか。
「男クラになってマシになったけどまだあるんだよな…」
「告白…ですか?」
「そーそ。いや、有難いよ。好きになってもらえて有難いとは思うんだけど喋ったことも会ったこともない人から告白されても正直なんで?としか思わないんだよね」
「そういうものですか…」
告白したこともされたこともない京香にはよくわからない。
「だって俺からしたら初対面なわけだよ。 遠目から見てるだけで好きになるってどういう感情なのって感じじゃない?断ったら断ったでなんで?とか言われるし。いや、だからこっちがなんでだっつーの」
「それでバッサリ断るんですか?」
同級生の話を思い出し、考えもなしに反応してしまった。
「あ、聞いちゃってる?」
「え、あ、はい…ちょっとだけ…」
「勇気出して告白してもらって申し訳ないとは思うけど、はっきり言わないと気があるとか思われてそれはそれで面倒なんだよ…断ったはずなのに逆にグイグイ来るようになっちゃったりとかさ…」
「ああ…」
恋愛にアグレッシブな女子は強い。
友達になった=チャンスありと思ってしまうのかもしれない。
「前酷かったのが2人組で告白してくる子がいて。1人は付き添い?だったんだけど。普通に断ったら『この子良い子なんですよ!そんな言い方で断るなんて酷い!』とか付き添いにキレられてさ。ムカついてそっちに『庇うなんて優しいね。君となら付き合うの考えるけど』って言ってやったら付き添いが『え…』とか言って顔赤くして悩んでやがんの。告白してきた子もはぁ!?みたいな顔してて笑ったわ。もちろんその後両方断ったけど」
「す、すごいですね…色んな意味で」
大半の女子を敵に回してしまうのではないか。
圭介が本来こんなことを平気でするような人ではないとわかっていてもやはり想像以上のエグさで正直引いた。
2人組で来る女子も女子だが。
と、ここでそれまで考えてもいなかったことが頭に浮かんだ。
「あ!」
「ん?」
「先輩、彼女とかっているんですか…?」
彼女がいるのに毎日一緒にご飯を食べるなんてバレた日には修羅場必至だ。
なぜこのレベルのイケメンに彼女がいる想定もせずこんな提案をしてしまったのか。
顔面蒼白になる。
しかし圭介は呆れたような顔で答えた。
「いるわけないじゃん!」
「え?いや、わけないじゃんて、そんなのわかんないですよ!」
「いたらこんなことお願いしてないし!俺そこまで非常識でもないよ!?それにクッソバイトしまくってて時間も金もないし、そもそも俺母親があんなだったから基本的に女が苦手なんだよ」
「あ…そうなんですね…」
圭介の母親についてはさわり程度にしか聞いていないがなんとなく想像はつく。
そういえば最初京香の部屋に上がるのも躊躇していた程だ。
女性慣れしている感じでもなかった。
「もう言っちゃうけど母親顔は綺麗だったから男はとっかえひっかえで家にいる時間も少なかったし、飯はまともに食わせてくれなかったくせに俺の服とか見た目には金使うんだよ。外で一緒にいるときに『カッコいいお子さんですね』って言われるためにね。俺のことも自分のファッションの一部としてしか考えてなかったんだよな。おかげで俺はモテたけど女性不信まっしぐらになったわけ。どうせ好きなんて言っても顔の良い彼氏を連れて歩きたいだけなんだろってね」
(だから一目惚れ女子を斬りまくってるのか)
そんな女性ばかりではないと思うが、そういう女性も一定数いるのは確かだ。
圭介の言うことを否定できない。するつもりもないが。
「話したこともないのに告白してくる女子に『俺の顔が好きなの?』って聞くと『中身も好きです』って言うんだけど具体例は挙げられないんだよ。結局顔じゃねーかっつーの。まぁ中身がクソなのは否定しないけどさ」
「そんなことないですよ!」
諦めたように笑う圭介を見て思わず大きな声が出た。
「先輩はこんなに優しいじゃないですか!ご飯を提供してるだけの子の心配までしてくれて!いただきますを言ってくれるし、美味しそうに食べてくれるし、食器洗ってくれるし、勉強の教え方上手いし、私の失礼な態度も許してくれるし、とにかく律儀だし!」
圭介が興奮する京香の迫力に固まってしまっている。
「だから私先輩のありもしないこと言う同級生にそんなことないって言ってやりたくて!でもゴメンなさい!女子の反感買う勇気はありませんでした!」
「………ぶっ!!アハハハハハハ!!!」
圭介がたまらず噴き出して笑う。
「え、そんなウケるところでした…?」
「ウケるわ!ツボったわ!途中までなんか良いこと言ってくれてたのにオチそれかよ!」
「ご、ごめんなさい…」
「ホント白洲さん面白いよなー…でもありがとう。その気持ちだけで十分嬉しいよ」
穏やかに笑う表情があまりに眩しくて目が泳ぐ。
「いえ。あ、なんでしたっけ。そうだ。とにかく学校ではすみませんでした」
「うん。わかった。じゃあ学校では関係がバレないようにしよう」
「ありがとうございます。助かります」
「というわけでおかわりもらっていい?」
「はい!まだまだ沢山ありますよ!」
お皿を受け取って立ち上がろうとすると圭介が呟くように言った。
「あとさ。『ご飯を提供するだけの子』じゃないよ」
「え?」
「んーなんていうか…一緒にいて楽しいってことは少なくとも友達ではあるよね?」
「……は…い」
顔が熱くなり間違いなく赤くなっているのが自分でもわかる。
急いで立ち上がり台所でおかわりを用意する。
(もー!なんでそんなこと言うの!?だから女子が勘違いするんだと思う!先輩も悪い!)
頭の中で散々悪態をついておいた。




