涙
数分後汗だくの圭介が帰って来た。
「た、ただいま…」
「おかえりなさい…」
圭介は肩で息をしながら部屋に上がる。
「か、カレーの匂いだ…旨そう…その前に、手を、洗わせてください…」
「はい、汗拭くタオルもこれ、どうぞ…」
圭介が手を洗い汗を拭いてちゃぶ台前に座る。
京香は台所から2人分のカレーを運んだ。
「はー…あっつ!久しぶりにこんなに走った…」
「お疲れ様です…そんなに急がなくても…」
「あんな声聞いたら急ぐでしょ。どうしたの?何かあった?」
京香の沈んだ声を聞いただけでこんなに走って来てくれたのか。
心配してくれていたのだ。
そう思うとまた胸が詰まる。
「あ、あの…えと…」
「うん」
「あの…今日、先輩に中校舎で会ったとき…私無視したみたいになっちゃって…」
「…」
「ゴメンなさい…避けるつもりじゃなかったんですけど…あの……」
先が続かない。たくさん考えた言い訳も出てこない。
「……ん?それで凹んでたってこと?」
「え…?あ、凹んでたっていうか…早く謝らなきゃって…」
「謝る?なんで?」
「え、怒ってないんですか…?」
「怒る?怒るとこだっけ?」
なぜか会話が噛み合わない。なんと返せばいいのか。
「……」
「んーあの時白洲さんがいきなり走り出したのは何か理由があったんでしょ?別にわざわざ学校で挨拶してくれなくてもいいよ。だって毎日挨拶してるじゃん。」
この人はいつも予想外の回答をしてくる。
「いいんですか…?学校で挨拶しなくても」
「うん。別にどっちでもいいよ。部活の先輩後輩でもないわけだし。白洲さんがそういうのちゃんとする人だって知ってるから今日のことも何か理由があったんだろうってわかるよ」
なんでそんなことを言ってくれるんだ。
驚きと安心で感情がぐちゃぐちゃになってしまう。
もうダメだと思った瞬間、涙が零れた。
「うえ!?どうしたの???」
「ご、ごめ…んな…さい…安心したら…ぅ…」
「ちょちょちょちょ…!!!タンマタンマ!」
圭介が焦って身を乗り出してくる。
その時
グゥ~~~~……
結構な音量で圭介の腹の虫が鳴った。
「「……」」
「ゴメン…カレーの匂いがそそるから…食べて良い?」
「はい…」
あまりに間抜けなタイミングに涙も止まった。




