将来の展望
「今日はもうバイト終わりですか?」
「うん。終わらせてきた。良ければ勉強見るよ」
「ありがとうございます。お願いしたいです」
「じゃあ食べたらやろう」
「この時間まで家庭教師のバイトだったんですか?」
「ううん。カテキョは昼御飯まででその後はシステム開発のバイト」
「は…?しすてむかいはつ…?」
意外なワードが出て来て頭が追い付かない。
高校生男子のバイトといえば定番のコンビニや飲食店だと思っていた。
「うん。俺エンジニアになるつもりだから」
「え!!そうなんですか?」
思わず大きな声が出てしまった。
「そんな驚くとこ??」
「だって…そんなに頭良かったら医者とか目指してるのかって…」
「あーそれよく言われるけどさ、医者なんて全然儲かんないじゃん。絶対無理。やだ」
「やだって…」
医者になりたくてもなれない人はたくさんいるのに。
「だって医学部は6年も通わなきゃだし研修医はバイトする必要があるほど月収少ないし、あんな忙しくて大変な仕事なのに開業医にでもならなきゃ高給取りにはなれないんだよ?俺さっさと稼ぎたいんだよ。
大学は授業料も奨学金になるから学費返すのにどんだけかかるのって話だし。あと母親の病気で使い切ったからマジで金ないんだ。エンジニアだったら在学中でもガッツリ稼げるしそのまま就職しちゃえば一石二鳥でしょ?」
捲し立てるように言われ京香はポカーンと口を開けたまま固まってしまった。
確かに圭介の生い立ちを考えると奨学金は必須かもしれない。
さらに今は自分で生活費を稼いでいると言っていた。
大家さんの性格からして生活費は出してくれそうな気もするが圭介が断ったのだろう。
京香は母から贅沢はさせてあげられないけど学費と仕送りだけは出すと言われているので
バイトも生活費の補助的なものに過ぎない。
高校は公立で授業料は実質無償だが、大学は国公立に行ってもかかる費用は安いものではなく、
圭介はさらに生活費まで稼がないといけないのだ。
(やっぱり私なんかよりずっと大変だ)
「あと俺教育格差をなくしたいんだ」
脳内処理が完了しないまま、またもや想像もしない発言が出てきた。
「俺ガキの頃あんま友達もいなくてさ。まー母親あんなだからみんな親から遊ぶなって言われてたってのもあるんだろうけど。んでクソ貧乏で何もない家だったからゲームもおもちゃも本もなくて暇で
教科書読んで時間潰すしかなかったんだよ。教科書何度も何度も読み返してたら自然と頭に入ってくるでしょ?そうすると理解も早いから授業も楽しくて。だから何気に勉強は出来たんだ。でもさ、俺はたまたまそうだったけど、普通貧乏な家の子は教育をまともに受けることすらできないじゃん。そういう子たちにもっと教育機会を与えたい。そのためにIT技術で教育現場を変えていきたいと思ってるんだ。」
あまりに崇高な夢を語られ京香は言葉が出てこなかった。
この人は本当にさっきまでオムライスにはしゃいでいた人なのだろうか。
勉強が出来れば当然医者や弁護士になるんだろうという安易な考えを持っていたことが恥ずかしくなった。
実際京香の高校で医者を目指す生徒は多い。
理系クラスの半数近くは医学部志望だという学年もある。
受験の面接試験のときも同じ中学の同級生たちは将来の夢という質問に対し医者や弁護士と答えていた。
今思えば本人たちも本当にそうなりたいのかと言われればそうでもなかったのではないだろうか。
でも圭介は未来を見据え自分の目指すものを語っている。
非常に単純だが感動してしまった。




