オムライス
買い物を終えて帰宅し圭介に連絡を入れる。
『こんばんは。バイト中だったらごめんなさい。晩御飯作ろうと思うのですが何時くらいに帰宅されますか?』
しばらくして返信が来た。
『こんばんは。バイトもう少しで終わるから19時30分には帰れると思う。』
『わかりました。それくらいに食べられるように作って待ってますね。』
『ありがとう。遅れそうだったら連絡するから先に食べててね』
『了解です』
今は19時前。30分もあれば十分だ。
洋食系も好きだと思うという大家さんの意見を採用しオムライスを作ることにした。
玉葱をみじん切りにしてフライパンにバターを入れて炒める。
しんなりしてきたら賽の目状に切ったロースハムと冷凍野菜ミックスを加える。
冷凍野菜ミックスはブロッコリーとコーンと人参が入った便利冷凍食品だ。
全体に火が通ったらご飯を入れてケチャップで味付けする。
ケチャップライスが出来たらボールに移し卵に生クリームと塩コショウを加え卵液を作り、バターを溶かしたフライパンに流し入れる。
卵の周りがくつくつしてきたら軽く全体に箸で混ぜ固まってきたところでとろけるチーズ、ご飯の順に乗せる。
御飯は全体がちゃんと卵で包まれる量にするのがコツだ。
フライパンを傾け卵を少しずつずらしながら端に寄せ、一気に皿目掛けてひっくり返す。
(うむ。キレイに出来た。)
THEオムライスな形の仕上がりに満足する。ケチャップを掛けて完成だ。
もう一個大きめのオムライスを作りスプーンとお茶を用意してちゃぶ台に運ぶ。
座って一息つくと懐かしい気持ちが湧いてきた。
(あ、この感じ…久しぶりだ…)
仕事から帰ってくる母をご飯と一緒に待つ。それが日常だった。
母がフルタイムで働き出した頃、最初のうちはまだかまだかと母の帰りを待っていた。
ご飯が冷めても夜が深まっても待っていた。
そのうち早く帰ってくることに期待するのを止めた。
母の帰りは大体遅いのだから先に食べてお風呂に入って勉強していた方が効率的だと気付いたからだ。
どうせ朝になれば一緒に朝食を食べられるのだ。
無理して夜待つ必要はない。
慣れてくれば寂しさも湧いてこなかった。
でも本当は寂しかったのだと思う。
そう思わないようにしていただけで。
夜の方が寂しさが増すし母の仕事の愚痴でも何でもいいから話をしたかった。
もっと褒めてほしかった。
思い出したことを振り払うように頭を横に振る。
時間は19時28分。30分と言っていたからまだ帰ってこないだろうになぜか自分が待ち侘びている気持ちになってくる。
(私…楽しみにしているのか)
そんな想いが芽生えたことを認めたくないので、別のことで気を紛らわそうと机に向かい勉強を始めた。
楽しみにするとその分ガッカリが大きくなるのが嫌だ。
19時34分。インターホンが鳴った。
急いで玄関に向かい確認しないままドアを開ける。
「ゴメン!遅くなっちゃった!」
手を合わせて謝罪する圭介が目に飛び込んできた。
今日は眼鏡を掛けている。
「まだ35分ですよ。全然大丈夫です」
「それでも遅刻は遅刻だから…」
「じゃあ早く食べましょう。上がってください。」
「ありがとう。お邪魔します。」
心からホッとした表情で言われた。相変わらず律儀だ。
部屋に上がるなり圭介が声を上げる。
「オムライス!!!!!!めっちゃオムライス!!!」
「めっちゃって…オムソバかもしれませんよ」
「それはそれであり!」
「ふふっオムライスですよ。どうぞ召し上がってください。」
「あ、そうだ。手洗っていい?部屋に寄らずそのまま来たから」
「台所使ってください。」
「ありがとう」
手を洗った圭介が戻ってきたところで
「「いただきます」」
パクっと一口口に入れると卵がふわふわでとろけるチーズとよく合う。
「んま!!!!!え?これチーズ入ってる?めちゃうま!!」
「いつもリアクション芸人並みの食レポですよね」
「いや、ホント美味しい!ありがとう!」
(こんなに嬉しそうに食べる人初めて見たわ)
クスクス笑ってしまう。




