クロックムッシュ
スマホのアラームが鳴り始めると同時に覚醒しアラームをOFFにする。
京香は朝に強い。基本的に寝るという行為が好きではないからかもしれないが寝起きが良い。
いつものように顔を洗って歯を磨いて鏡の前で身だしなみを整える。
ガッツリメイクはしない派だが日焼け止めを塗り眉毛に軽くアイブロウパウダーを付けてビューラーを掛けるくらいはしている。
肩の下まである髪はヘアクリームを全体に付けてゆるく1本に束ねて左肩から垂らし、手抜きだとバレないようにあえて後れ毛を出す。
前髪を整えて全体をチェックして終了。
今日は休みなのでバイトに行く私服に着替えエプロンを付ける。
(朝はパン派かご飯派か聞くの忘れちゃってたな…)
後悔しつつとりあえずいつもの自分のご飯と同じでいいかと準備を始める。
6枚きりの食パンが3枚残っていた。
京香は1枚で十分だが圭介は2枚くらい食べられそうだ。
一先ず食パンを2枚並べ市販の個別包装のホワイトソースを塗る。
使い切りのホワイトソースは一人暮らしにはちょうど良い量で余らせることもなく便利だ。
その上にロースハムととろけるチーズを乗せてトースターで焼く。
チーズが溶けてきたら即席クロックムッシュの完成。
残った1枚でも同じ流れでクロックムッシュを作ったがそれだけでは勿体ないかなと半熟の目玉焼きを作って乗せてクロックマダムにしてみた。
圭介がコーヒーを飲むかわからないが自分が飲むのでコーヒーメーカーで作っておく。
(こんなもんか)
スマホを取り出しメッセージを送った。
『おはようございます。朝食出来ました。起きていたら来ていただけますか?』
すぐ既読が付いて返信が届く。
『おはよう。ありがとう!今行きます』
メッセージを読んだところでインターホンが鳴った。
ドアを開けると少し寝ぐせが付いた圭介を笑顔で迎えた。
「おはよう。お邪魔します」
「おはようございます。どうぞ」
「既にいい匂いがする!チーズの匂い?」
「はい。今日はクロックムッシュにしました」
「何そのオシャレな名前!フランス語??」
早速ちゃぶ台に座った圭介が感嘆の声を上げる。
「めっちゃ旨そう!俺のは2枚なの?目玉焼き乗ってる!」
「はい、目玉焼きが乗っている方はクロックマダムです」
「ジョブチェンジしたの!?」
「ジョブチェンジって何ですか」
キッチンに向かいコーヒーを飲むか尋ねると欲しいとのことだったのでマグカップを2個出して注ぐ。
自分のコーヒーには砂糖と牛乳を入れて席に着く。
「先輩も砂糖と牛乳いります?」
「俺はブラックでいいよ」
「大人男子ですね」
「え、ポイントアップした?」
「いや…?」
「せんのかーい」
どうでもいいやり取りに二人で笑う。
待ちきれない様子の圭介が先に手を合わせた。




