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ご飯を食べない理由とギブアンドテイク

京香の部屋のちゃぶ台でご飯を食べながら話すことになった。


「では…いただきます!」


「どうぞおあがりください」


保育園のときの給食の挨拶が出てしまった。

圭介は気にせず親子丼を掻き込む。


「うまいいいいいいい!!!!」


「そんな大袈裟な…」


「白洲さんのご飯絶妙な味付けで旨いんだよ!」


「味付けって言ってもめんつゆですけどね」


「めんつゆこんな旨いんだ!すげえ!」


(小学生みたいな人だな…)


でもこんなに嬉しそうに食べてもらえると悪い気はしない。

むしろなんだかムズムズする。


「あ、食べながらで悪いけど話すね。」


ようやく本題に入った。


「俺さ、手作りの料理じゃないと食えないんだよ」


「は…あ…?」


意味がわからない。好き嫌いの話だろうか。コンビニ飯が不味いとかそういう。


「俺生まれた時から母子家庭で母親がキャバ嬢だったんだけど、まともな飯食わせてもらったことあんまなくて」


「え…」


いきなり重い話が出てきた。


「生活力ゼロの母親だったからご飯はカップラーメンかマックかみたいな感じでね。祖父母もいなくてなんとか給食で食いつないだんだけど小学生のときにこのアパート引っ越してきて大家のおばちゃんに出会って。おばちゃんめっちゃ面倒見いいじゃん。当時俺がガリッガリだったから心配して母親のいないとき飯食わせてくれてさ。母親が勝手に食わしてんじゃねーよってキレるからコソコソしなきゃなんなかったんだけどね。」


もぐもぐ食べながら淡々と語る圭介には悲壮感は見えない。

それでも話す内容は壮絶だ。


「おばちゃんの味に慣れちゃったのと、トラウマ…なのかな。ジャンキーな飯が食えない上に手作りの料理じゃないと食う気が起きなくなっちゃったんだよね。さらに金はないし自分で料理する暇はないし。あ、母親は俺が中学の時乳がんで死んでるから」


さらりと母親の不幸をぶっこんでくる。


「んでおばちゃんが身寄りのなくなった俺の後見人になってくれて飯も食わせてくれてたの。生活費は自分で稼がなきゃだからバイト掛け持ちでやりくりしてるんだけど…実は8月中旬からおばちゃん娘さんが出産するってことで家空けてんだよね。」


「え、そうだったんですか」


そういえば最近見ない気がしていた。


「うん。おじちゃんはいるから何かあった時はおじちゃん頼ればいいよ。ただ、おばちゃんは当分帰ってこないみたい。娘さん2人目の出産らしくておばちゃんが上の子の面倒も見なきゃなんだって。女の人って出産したら1ヶ月は家から出られなくて赤ちゃんの1ヶ月健診のときにようやく外に出られるって知ってた?さらに2~3ヶ月は母体が元に戻らないらしくて落ち着くまで娘さんの手伝いするんだってさ」


「ということは大家さんが帰ってくるまでまともに食べないつもりだったってことですか?」


「食べようと思えば食べれるよ!死ぬし!でも…口に入れても栄養になってる気がしないというか…」


「倒れるまでは我慢してたってことですね」


「はい…」


これは由々しき事態だ。数ヶ月この生活を続けるつもりだったのか。



はぁー…



聞いてしまった。聞いてしまったからには仕方ないじゃないか。

ご飯を食べない理由も自分の作った料理に目を輝かせる理由も家にあまりいない理由もわかった。

これを聞いて『ああ、そうですか頑張ってください』と言えるほど薄情でもない。

少なくとも実力テストの過去問というテイクはもらってしまっている。

しかもお釣りが出るくらいの。


「大家さんが帰ってくるまで私が作りましょうか」


「……」


(え、ここで黙る?!)


意外な反応に驚いていると圭介がおもむろに箸を置き少しちゃぶ台から下がって正座に座り直した。



「宜しくお願いします!!!!!」



(土下座!)



圭介が三つ指を立てて床に突っ伏した。

生土下座を初めて見た京香は驚きのあまり声が出なかった。

反応がないのに不安になったのか圭介はそろりと顔を上げて心配そうに京香を見つめる。

子犬のようだ。

我に返ってようやく返事をする。


「はい。では晩御飯と…お昼は大丈夫ですか?朝も食べます?」



パアアアァァ…



という効果音が聞こえてきそうな笑顔で圭介が答える。


「朝と夜お願いしたいです!昼は学食で食べられます!」


なるほど。学食は手作りに入るらしい。安いから毎日食べても懐のダメージは小さい。

ということは定食屋もいけるのだろうか。

近所に定食屋らしきものはあるが少しお高めではある。


「わかりました。では朝と夜用意します」


「ありがとうございます!御礼はなんでもします!食費も出します!」


「え、お金はちょっと…もらいづらいです」


「じゃあ勉強教えるのは?俺正直それくらいしか出来ることがない…」


苦笑いしつつ遠慮がちに言うが京香にとっては僥倖そのものだ。


「私は是非それでお願いしたいです」


「良かった!それじゃあ決まりだね。ご飯を作ってもらった御礼に勉強を教える。

 それ以外にも何かできることがあったら言ってね。あ、ご飯食べなきゃ!」

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