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フリードリヒの戦場【書籍化】  作者: エノキスルメ
第一章 それが運命と知っても尚

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第25話 出撃命令(王国内地図あり)

挿絵(By みてみん)


エーデルシュタイン王国内の簡易的な地図です。要所の位置関係の把握にご参照ください。


・王都ザンクト・ヴァルトルーデ

王国の中枢。位置的にも王国のほぼ中央にある。人口およそ三万。王都を擁する王領全体では人口およそ十五万。


・ベイラル平原

アレリア王国ロワール地方と平地で接する国境の要衝。国境防衛の要としてアルンスベルク要塞が存在し、ヒルデガルド連隊が守っている。この平原に面する一帯は王家の直轄領となっており、人口はおよそ五万。徴集兵を即応で千人ほど動かせる体制が整えられている。


・北方平原

ベイラル平原よりも北にある小規模な平原。安易に進軍を試みればすぐに察知される場所にあるため、接する両国ともに普段は手をつけない空白地帯となっている。

ロワール王国が存在した時代には何度か戦場となった。アレリア王国が隣国となってからも、何度か小競り合いが行われている。

面する一帯は王国西方の大貴族家であるブライトクロイツ伯爵家が領有し、国境の監視を担っている。


・ドーフェン子爵領

国境地帯にあるが、平原や回廊からはやや離れているため平和が保たれてきた田舎領地。フリードリヒとユーリカの育った故郷。


・バッハシュタイン公爵領

王国最大の貴族領。最北の回廊、及びノヴァキア王国との国境を守る。ただし、この数十年は領内での国境防衛戦闘を経験していない。

治めるバッハシュタイン公爵家は王家との血縁関係を維持してきた。公爵領軍は半農の兵士も含めれば千人ほどで、貴族領軍としては最大。

※本格的に登場するのは二章以降です

「初々しいが、賢い若者だな。一見すると頼りなくも見えるが、盗賊討伐の実績を考えると勇気を出すべきときには出せるのだろう……あれがお前の後を継ぐべき男か?」


 フリードリヒが退室した後、クラウディアは椅子に座りながら問いかける。


「まだ分かりません。しかし、そうなる可能性は秘めていると考えます」


 自身も着席しながら、マティアスは答えた。

 使用人が気配を消したまま、二人の前にお茶を置いて後ろに下がる。


「そうか。では、その可能性が開花することを祈ろう……お前はかつて、国のために大きな犠牲を払った。お前のためならば、王家は出来る限りの助力や配慮をする。例えば、あの者をそれなりの役職につけるための後押しなどもできる。必要なことがあれば遠慮なく言ってくれ」

「お気遣いに感謝いたします。ですが、あの者に関して王家よりの御助力や御配慮は不要です」

「……自力で功績を挙げられないようであれば見込みはないということか」


 クラウディアが微苦笑を浮かべて言うと、マティアスも微笑し、頷いた。


「分かった。今の時点では、あの者に関しては何らの手出しをしないでおこう……それでは、今日来てもらった本題だが」


 クラウディアが切り出すと、それだけで場の空気が引き締まる。


「アレリア王国の軍勢が動き出したと、かの国に忍ばせている間諜より報告が届いた。今回は規模が大きい。かの国の王国軍の一個連隊に加え、貴族の手勢も多少動員するものと見られる」


 それを聞いても、マティアスは表情を動かさず、身じろぎもしない。

 国王ジギスムント・エーデルシュタインが考案した連隊という戦術単位は、その有用性を認めた周辺諸国にも取り入れられた。

 東の大国リガルド帝国は一部の即応部隊を連隊単位で再編成し、かつての西の隣国だったロワール王国も、ある程度の規模を維持しつつ柔軟に戦える連隊の構想を取り入れた。七年前にアレリア王国に征服されてからも、旧ロワール王国地域の軍に関してはこの編成が維持されている。

 ロワール王国を取り込んだアレリア王国は、さらに東にあるこのエーデルシュタイン王国に対しても、定期的に小競り合いを仕掛けてくる。

 三年前には一度、一個連隊をもってベイラル平原に迫り、エーデルシュタイン王国軍に本格的な臨戦態勢をとらせたこともある。今回かの国が一個連隊以上の軍勢を動員するとすれば、今までで最大の攻勢ということになる。


「分かったのは動きがあったことだけで、攻勢地点についてはまだ不明だ。ベイラル平原に迫ってくるようであればおそらくまた威嚇だろうが、北方平原に迫るようであれば本格的な戦闘になるかもしれない」


 エーデルシュタイン王国とアレリア王国の領土はユディト山脈という天然の要害に隔てられ、この山脈がそのまま国境を成している。しかし、山脈にはいくつかの回廊や山道がある他、完全に途切れて平地になっている部分が二か所あり、南の大きな方はベイラル平原、北の小さな方はそのまま北方平原と呼ばれている。

 このうちベイラル平原にはヒルデガルト連隊が控え、徴集兵も直ちに動員できる。国境防衛の要たるアルンスベルク要塞もある。千数百人程度の軍勢で攻略することはできない。もしアレリア王国の軍勢がそちらに近づいてくるようであれば、本格的な攻勢に移るとは考え難い。それがクラウディアの考えだった。


「ホーゼンフェルト卿。お前はどう見る?」

「……威嚇に終わるのであれば、それに越したことはないでしょう。ですが、アレリア王国は二年前にミュレー王国の征服を終えました。そして現段階では、山脈を超えて北を狙うことも、海を越えて西や南を狙うことも考え難い。そうなると、いよいよエーデルシュタイン王国に野心の目を向けてくることも考えられます。今回の動きが、最初の攻勢の予兆である可能性は大いにあります」


 淡々と、マティアスは見解を述べた。

 アレリア王家は先王の時代より周辺地域への領土的野心を示し始めたが、当代国王に代替わりしてその動きは加速した。若さ故か先代アレリア王以上に野心的で、悪いことに戦上手である当代アレリア王は、周辺の小国を次々に征服し、併合してきた。

 代替わりして間もない十年ほど前に西の小国二つを、七年前にはロワール王国を、二年前には北のミュレー王国を併合。先王が成した侵略も合わせると、もともと総人口が百万に満たない中堅国家だったアレリア王国は、今では二百五十万もの民を抱える大国へと成長した。

 さらに悪いことに、当代アレリア王の占領政策は巧みだった。

 併合した国の王族や大貴族のうち、大人しく下った者には一定の財産や利益を安堵して懐柔し、その子女をアレリア王家に近しい貴族家に嫁入りあるいは婿入りさせて人質を確保し、一方で民には重税を課してアレリア王国中央へと富や物資を集める。そうすることで、併合した地域を早期に掌握しつつ、王国中央の強靭化を成してきた。

 現在、アレリア王国の北には巨大山脈が、西と南には海があり、山脈の向こうにある寒冷な地域や海の先にある島国にはいかな当代アレリア王とて容易に侵攻できない。

 そうなると、かの国が次に狙うのはほぼ間違いなく、東に残るエーデルシュタイン王国やノヴァキア王国。野心旺盛なアレリア王ならば、旧ミュレー王国の掌握も半ばであるこの時期から、あえてこちらへの侵攻にとりかかることもあり得る。それがマティアスの考えだった。


「加えて、先の盗賊騒ぎの件もあります。あの盗賊たちはアレリア王が意図的にけしかけたものでした。あれ自体は攻勢とも言えない規模でしたが、アレリアが国としてあのような工作をはたらいてくるということは、本格的な攻勢開始が近いと考えることもできます」


 マティアスの見解を無言で聞いていたクラウディアは、そこで頷く。


「私もそう思う。我が父や官僚たちも同意見だ……ヒルデガルト連隊はベイラル平原から動かせないが、アレリアの軍勢が北方平原に迫るようであれば同規模の軍勢で迎え撃つ必要がある。ここはお前たちフェルディナント連隊に出撃してもらう。これは我が父、ジギスムント・エーデルシュタイン国王陛下の名における正式な命令だ」


 ヒルデガルト連隊は最重要地帯の防衛の要。アルブレヒト連隊は領土内を守る最後の砦。そしてフェルディナント連隊は、国境の各所で必要に応じて機動防御をなす即応部隊。

 その真価を発揮するよう命じるクラウディアに、マティアスは即座に頷いた。


「お任せください。王国軍人としての務めを果たし、必ずや王国領土を守ってご覧に入れます」

「任せた。頼りにしているぞ。王国の生ける英雄よ」

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