93 巨体キノコ
「なんじゃありゃあああ!!」
「おっきいキノコだ!!」
「おいおい……こんなん聞いてねぇよ」
「食いごたえありそう!!」
突然辺りに突風が吹き荒れたと思ったら、ショーユ蔵の上空に巨大なキノコの魔物が現れた!!
その大きさと叫び声に俺とソプラ、戦っていたおっさんとターニャさんも唖然と見上げていた。
デカすぎる! 最初に出会ったムートと同じくらいデカイんではないだろうか!?
なんてタイミングで、こんなのが出てくるんだ!? 火事場は大混乱だ!
キノコが叫んだ後、徐々に風がおさまり風に煽られて空中で停止していたその巨体がショーユ蔵の上に落ちてきた!
あんなヤツの下敷きになったら、完全にペシャンコだ!!
「やばい!! あれが落ちてくる!! ソプラ逃げるぞ!!」
ソプラの手を取り、身体強化を使い森に逃げ込む!!
「あっ!? タマリちゃんが!!」
「んえっ!?」
ソプラの手を引いて逃げようとしたが、目の端にへたり込んでしまって、逃げるのを忘れているタマリちゃんとセーユさんが見えた!
何してんですかぁ!? 早く逃げないと2人とも押し潰されちゃうよ!?
「だぁぁあああ! 仕方ねぇ!! ソプラは森へ逃げてて!! 俺がなんとかすーーる!!」
「え? んにぁあああ!? アルトちゃーん!!」
駆け出していたその足を軸に急ブレーキをかけ、その勢いのままソプラを森の方に投げ飛ばした!!
ソプラなら受け身は大丈夫のはずだ!!
投げ飛ばした反動を利用して方向転換! 足に力を込めて一足飛びでタマリちゃんたちの所に向かう!
チラッとキノコを見ると、もうすぐそこまで落ちてきていた!! 着地するまで2秒も無いかも!? 間に合え!!
タマリちゃんもセーユさんも、顔面蒼白で身動きできないようだった!!
「2人とも伏せてぇ!!」
「「!?」」
俺の声に我に返った2人が、互いを庇う様に地面に伏せる!!
今から2人を抱えて潰されない場所まで移動するのは不可能!! ならば!!
「ほいっとぉ!!!!」
ドッドスゥン!!
俺は直径10m程の土玉を2人の目の前に落とした!
これなら玉と地面の隙間にいれば、直接踏み潰される事は無い!
俺もギリギリで土玉の隙間に滑り込んで、土玉が動かない様に身体強化した体を軸にして支える!!
「ふんぬぅ!!」
だいぶ締め固めた土玉だけど、頼む!! 耐えてくれぇい!!
『グモォオオオオオオオオオオ!!』
ボフゥゥウウウウン!!!!
巨大キノコが着地した音と同時に、辺り一面に白い胞子のような粉が舞い散った!
「〜〜〜プハァ!! よし! 潰れてない!! 2人とも逃げるよ!! 立てる!?」
なんとか土玉はキノコの重さに耐えてくれたようだ! 踏ん張っていた力を緩め、2人に問いかける!
「凄い……助かったよアルトちゃん! ありがとう!!」
「助かったけど、こんな大きな土玉を無詠唱で……あの小さいドラゴンといい、あなた何者なの?」
「とりあえず後で説明するから、逃げるよ!!」
2人の手を引き、その場を離れる!!
『グモォオオオオオオオオオオ!!』
再び巨体キノコが叫んだ!
振り返ると、ショーユ蔵はあの巨体キノコが落ちてきたにもかかわらず、その原型を留めており。
巨体キノコは燃え盛っていたショーユ蔵を、優しく包み込むように全体に覆い被さっていた!
しかし、炎の勢いが強いためか、所々から漏れ出ている炎が中と外から巨体キノコをジリジリと焼いていき、苦しそうな悲鳴を上げている!!
「待って!!」
「タマリちゃん!?」
「タマリ!!」
逃げている途中で、手を振りほどいたタマリちゃんが蔵に覆い被さるキノコを見上げる。
「もしかして、あのキノコ……蔵を守ろうとしてるの?」
確かにあの魔物の行動はおかしい……。
魔物がわざわざあんな燃え盛る火の中に落ちれば、すぐに逃げるはずだ……。
でもあのキノコは逃げずに、消えない炎を必死に抑えようとしているようにも見える。
タマリちゃんの発言に俺もセーユさんも、キノコの魔物の認識に疑問を持ち始めていた。
「いやいや、大した召喚獣だよ」
「「「!?」」」
突然声がした方を見ると、さっきファイヤーランスを放ってきたおっさんが肩にターニャさんを担いで歩いてきていた!
「ターニャさん!!」
俺はすぐさま魔力を全身に張り巡らせる!!
戦闘だけならA級と言われていたターニャさんを倒すなんて……このおっさん油断できない!!
「おうおう、待て待て、殺しちゃいねぇよ。コイツは今回の依頼にゃ入ってねぇからな……ほらよ」
「んなっ!?」
おっさんは担いでいたターニャさんを俺の方に放り投げてきた!
俺はとっさに両手でターニャさんを受け止め、安否を確認する!
「ターニャさん! 大丈……夫……ん?」
ターニャさんを見ると、それは幸せそうにだらし無く口元を緩ませて気絶させられていた。とても戦っていたようには思えない……。
まさかと思いながら、チラリとおっさんを見る……。
「はぁ……戦ってる最中、焼きキノコに目を奪われて、よだれ垂らす奴なんか初めて見たよ……おかげでやる気も、うせちまった」
ショートソードで肩をトントンと叩き、首を軽く降るおっさん。
このアホがぁぁああああ!! 何やっとるんじゃぁぁああああ!!
護衛だろうがぁ!! 戦闘中に食欲に負けてんじゃねぇええ!!!!
「へびゅ! ……ZZZ」
呆れたので、アホを両手から地面に落とし、おっさんに改めて目線を送る。
身体強化を維持して、おっさんに質問を投げかける。じつは最初の言葉に、気になる文言があったからだ。
「運んでくれてありがとう、ちなみにさっき『召喚獣』って言ってたけどどう言う事?」
そう、このおっさんは俺たちの前に出てきた時、あのキノコを召喚獣と言ったのだ。
「ん? あの巨体キノコは、そこの小さいエルフの召喚獣だろ?」
おっさんがタマリちゃんを指差しながら、召喚獣の主だと言った。
「え? わたしの?」
タマリちゃんは自覚がないのか、おっさんの指摘に驚いているようだ。
「なぁ、あれどかしてくれないかな?このままじゃ炎が消えちまう。蔵を燃やすのが今回の依頼なんでね……」
ゾワァ!!
肌を刺すような威圧を感じ、咄嗟に後ろに跳びのき、タマリちゃんとセーユさんをかばうように両手を広げた!
なんださっきの!? 全身から汗が吹き出してくる!! 身の毛が逆立つような悪寒!? 殺気!? とにかく、身の危険を感じて臨戦態勢を取った!!
「……ックックック。いいねぇ……そこに寝込んでる食いしん坊より、余程やりがいがありそうだ……」
おっさんはショートソードを持った腕をダラリと下げ、片方の手で顔を覆い指の隙間からこちらを観察するように見ていた。
「……そこのでけぇ土玉を瞬時に出せる魔量、殺気に対する反応の速さ、体中に満遍なく行き届いている魔力……ただの村娘じゃねぇな。師は誰だ? オレと少し遊ぼうぜ?」
「遊び相手は間に合ってるよ……それに、遊ぶには俺はちょっと年下すぎやしないかい?」
低くどもるような声なのに、やけに頭に響いてくる。言葉1つ1つが鋭利な刃物を、喉元にあてがわれているかのような錯覚を受ける。
こんな奴の誘いに乗ってはいけない。2人を連れて早く逃げなきゃ……。
「……ックックック。本当、面白い嬢ちゃんだ。オレを前にそんな返事が返ってきたのは……久しぶりだ!!」
おっさんの表情が歪み不気味な笑みを浮かべた、と思った次の瞬間、ショートソードをふりかざして襲いかかってきた!
早い!! 防御が間に合わ……!?
ギィイイイイン!!!!
おっさんがショートソードを袈裟懸けに振り抜いた!
だが、ショートソードが俺に届くことはなく。硬質の何かに弾かれたショートソードは折れ、宙を舞った。
『我が寝ている間に、面白そうな事しているではないか、アルトよ』
「起きてくんのが遅えよ! バカムート!!」
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