101 借金取り
突然の物音に、俺たちは緊張を高める!
「なんだ!? 礼拝堂の方からか!?」
「ソプラ! 子供達を奥に!」
「うん!」
「くそっ! またアイツらか!?」
「みんな! こっちに隠れて!!」
俺とミーシャとラーラさんは礼拝堂へ、キーキさんとソプラはピアノ部屋で子供達をかくまった。
俺が先に礼拝堂に着くと、ガラの悪そうな男が三人で椅子や机を蹴り倒していた。
「おい! やめろお前ら!!」
「ああん? いつものシスターじゃねぇな?」
「やめろぉ? ただの挨拶じゃねぇかよ」
「へへへ、出迎えくらいしろってんだ……よ!」
そう言って男が更に椅子を蹴り上げた。
「お前ら教会でこんな事やって、ただですむ……モガァ!?」
「あんた達何しにきたんだ!? 支払い期限はまだ先のはずだよ!?」
俺が男どもに殴りかかろうとしたら、追いついたラーラさんが俺の顔面を片手で押しのけて前に出た。
「おー、いやがったなラーラ。事情が変わってなぁ、支払い期限は今日になったんだよ……さっさと支払って貰おうか?」
「なっ!?」
男の1人がニヤつきながら契約書みたいな紙をペラペラとかざしている。
「そんな理不尽な事あるかよ!! あたい達に今、そんなお金無いよ!!」
「そりゃそうだ……そんなの俺達はよぉ〜く知ってるさぁ……だから金の代わりに奥のピアノを貰っていくぜ!!」
「えっ!? 何言って!?」
「お前ら、行ってこい!」
「「へい!!」」
男が顎で合図すると、取り巻きの男達が奥の扉に向かって歩き出す。
「やめろ!! 借金のカタにはピアノは含めない、って言ったじゃないか!!」
「わりいな……まぁ、事情が変わるってことはよくある事だ……大人しくしてな!!」
バチンッ!!
「キャア!?」
ラーラさんが奥に行こうとする男の前に立ちふさがるが、男に平手打ちをくらいその場に倒れこんだ。
プチッ。
あー、そう言う事しちゃう奴らなのね……ふーん。
「おい、ちょっとまてよ……」
俺はそんな2人の前に、仁王立ちで立ちふさがった。
男達から見たら小さい修道服の女の子が、睨み上げているように映るだろう……。
だがな……俺の前で女性に手を出すとどうなるか……わからせてやろう!
「なんだ? このガキ?」
「オラ!どいてな!」
「ふん!!」
「イデデデデデデデテ!?」
「何しやがる! このクソガ……グハァ!?」
掴みかかろうとしてきた1人の腕を捻りあげ、更に襲いかかってきたやつには腹パン一発かましたら呆気なく気絶した。
クソ弱ぇ……こんな手ごたえがないんじゃ、アルトちゃんの激おこが治らないよ?
ギリギリギリ……。
「んぎゃぁぁぁああ!?」
腕を決められた男が、情け無い悲鳴をあげる。
「え? え? え? ア……アルトちゃん?」
ラーラさんはそんな俺の行動に、目を丸くして俺と男達を交互に見てる。
そりゃ、見た目は可愛い美少女シスターアルトちゃんが、いきなりこんな立ち回りを見せたら驚くよね。
でもごめんねラーラさん。うちの教会、少〇寺も裸足で逃げ出すくらいの、ゴリゴリの武闘派なんです。
ミーシャを筆頭に、俺もソプラもアホ程鍛えられていて、暴漢くらいなら1人でも10人くらいは楽勝なの。
おかげで、周りの信徒さん達に「バトルシスターズ」と言う異名までもらってんだよ。
まぁ、それはいいとして教会がボロボロになっていたのはコイツらの仕業か?
捻りあげる手に怒りと力を込めながら、指示を出した男を睨みつける。
「な……なんだこのチビは!?」
残り1人になった男は後方へ身じろぎ、俺を睨んでくるけど……もう遅い。
「へぇ……大層な契約書みたいねぇ?」
「は? イデデデェ!? 腕が!! 腕がぁ!!」
後ろに回り込んでいたミーシャが、主犯格の男の腕を捻り、契約書を取り上げた。
いいぞミーシャ!! やっちまってくだせぇ!!
「くそっ!! 用心棒か!? 言っとくが、その契約書を破っても無駄だからな!! そんな事したら、ここのシスターが1人死ぬ事になるんだぞ!!」
「はぁ!? なんだって!? ミーシャ! その契約書って本物!?」
そんな契約書には覚えがある、俺とムートが国と交わした時のような……でもあれ、貴重なもんじゃないのか?
「そうね、たしかに魔法付与された血の契約書だわ。
燃やしたり破いたり契約破棄すると契約内容に準じて、契約者に罰則がかせられるものね……署名の名義人は、キーキね」
「え!?」
隣のラーラさんを見ると、苦虫を噛み潰したような顔で男を睨みつけていた。
何があったんだろう、後で聞いてみよう。
「でも、なんでこんな高価な契約書をわざわざ教会の借金の契約なんかに使うのかしら? 平民でも豪商同士の大きな契約くらいしか使われないのよ?」
「知るかよ!! おい!! おかま野郎!! いいがげん腕を離し……」
「黙ってろ」
「んぎゃー!!!!」
ミーシャの重く低い声と共に、男の腕が更に締め上げられる……。
うっわぁ……あれ、自分の体重も強制的にかかるからめっちゃ痛いんだよなぁ……。
主犯格の男は結構な体格してるけど、ミーシャの方が更に頭一つでかいんだよね。
そんな様子を見て、俺にねじ伏せられている男は青ざめた表情で、ラーラさんにいたってはドン引きである。
「ふむ、酷い契約書ね、こんな契約するなんて何考えてんのかしら……。
でも、期限を見るには2カ月も先みたいだけど? なんでこんな事するのか話してくれない?」
契約書の内容を読んだ青筋笑顔のミーシャが、更に男の腕を捻りあげる。
「うぎゃぁぁぁぁあー!! 折れる! 肩外れ……言いましゅ! 言いますからぁ!!」
なんか男が可哀想に思えてきた……もう顔面は涙と鼻水とよだれでぐちゃぐちゃになってる。
「ボスからの命令なんだ!! おっ俺もよくしらねぇんだよ!! 今度の祭典に急にピアノが必要になったから、とかなんとかで……」
「ピアノが? なんでそんな急に?」
「うぅ……なんでも今日、中央広場のピアノを馬鹿みたいに光らせた奏者がいたらしくて、そいつのスカウトの為にピアノが必要だって……」
ミーシャがこっちをジト目で見ている。
俺は目を合わさないように、全力で目をそらした。こっち見ないで!!
そんな『お前のせいか』っと言う目つきで見つめるのはやめてください!! そんな事できる人が、多分他にもいたんだと思いますよ!!
確定じゃないよう!? 俺、頭殴られる前後記憶が曖昧だから何にも知らないよぉ? 本当だよぉ?
「そう言う事ね……なら、ここのピアノは諦めるのね。
その奏者はあんたらのスカウトなんかには着いていかないし、ピアノを奪おうとしたら私が容赦しないとボスに伝えておくのね」
「え? いや、でも……」
「ぁあ?」
ミシリ……。
「うがぁぁぁあああ!! わかりました! わかりましたぁ!! 伝えます!! 伝えますからぁぁぁぁあ!!」
そうして、ミーシャと俺から解放された男どもは、気を失った男と契約書を持って一目散に逃げて行った。
「あ、あんた達強いんだな……あたい、びっくりしたよ……」
扉を閉めたあとに、恐る恐る振り返るラーラさんが、まるで化け物を見るような目で俺たちを見てくる。
言いたいことはわかるけど、そんな怯えないで……なんもしないよぉ。
俺が苦笑いを浮かべていると、ミーシャがラーラさんに真剣な表情で話しかけた。
「ラーラ……さっきのやつらの事と契約書の事に関して、少し聞きたいことがあるの。話してくれるわよね?」
「……はい」
ラーラさんは、肩を落とし小さく返事をした。
実はソプラも相当強いんです、一応ね。
あと、もうすぐブクマ1000なんだ……。
(*´꒳`*)楽しみだなぁ
いつもブクマ、評価、感想、誤字報告ありがとうございます!




