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オーランド・バルシュテインの改心  作者: 真川紅美
小編:シャナ・ユベールの奇妙な文通相手
93/146

4、

「僕は……」

「お兄様?」


 髪を洗い終え、着替え終わったシャナがひょっこりと顔をのぞかせた。


「……、この話はあとでだな」

「……ええ。そうですね」


 薄く笑ったセザールは、自分の持ってきた荷物を手にすると、一礼した。


「退院の許可が出ましたので、王城で仕事を片付けることにします。お世話になりましたね。シャナさん」

「え? ああ、そうですか? お大事に……?」

「後日、何かお礼を包ませていただきます。では」


 表情を変えずに踵を返して、何かを詠唱したと思いきや一瞬でその姿が消えた。


「え? なに今の……」


 きょとんとカレンが声をあげて、同じような顔をしているシャナの二人を見て、オーランドは喉の奥で笑った。


「魔術だよ。俺もたまに使うだろうが」


 暗くなった室内に、オーランドは指を滑らせてろうそくに火を入れていく。


「これと同じってこと?」

「起こりは違うが、目に見えない力を使っているという意味では同じだな。俺は、これぐらいしかできないが、バートラムも一応、ああいう瞬間移動というかなんというか、ああいうのを使えるといっていた」

「……なんで?」

「さあ? ……一部の貴族は、こういう力を使える血筋らしいから、あいつらはその中でも高等な血筋なんだろうな」


 肩をすくめてはぐらかしたオーランドに、シャナは、いきなり消えてしまったセザールにそっとため息をついた。


「ま、飯食って、シャナはここにいろな。爺さんのところだと、爺さんまで危険な目に合う」

「あたしはいいの?」

「ここに固まってりゃ俺が守ってやれるっつってんだ」


 そこに剣もあるからな、と、傘立てにさりげなく差さっている自分の剣を刺したオーランドに、カレンが目をむいた。


「いつの間にっ!」

「いつの間にでもいいだろうが。濡れるのは仕方ないが、さびない剣、魔法剣と呼ばれるものだからな。たまに生徒の相手をしているから腕もなまっていない」


 剣を手にした時の陶酔を思い出して、目を潤ませるオーランドに、今度はカレンが咳払いしてオーランドのすねを蹴り上げた。


「余計なこと考えている暇あるなら、とっとと晩御飯作るよ!」

「……っ。お前なあ……」


 蹴られた脛をかばいながらオーランドはカレンの後を追い、思い出したようにシャナを迎えた。


「大丈夫だ」

「……はい」


 うなずいて、オーランドとともに、夕食を作るカレンの手伝いをして、一緒にとる。


 そして、寝静まった夜半過ぎ、窓の隙間から、一枚の紙が、シャナのもとに届けられた。いつもの手紙よりは薄手の質の低い紙。


 それでも、シャナはほっと息を吐いていた。


『……僕が、守ります』


 窓を開け放っても、もうそこには誰もいなかった。


 だが、紙に残ったぬくもりと、かすかな香水の香りは、慣れたものだった。

昨日の更新へなちょこだったから大盤振る舞い(笑)

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