4、
「僕は……」
「お兄様?」
髪を洗い終え、着替え終わったシャナがひょっこりと顔をのぞかせた。
「……、この話はあとでだな」
「……ええ。そうですね」
薄く笑ったセザールは、自分の持ってきた荷物を手にすると、一礼した。
「退院の許可が出ましたので、王城で仕事を片付けることにします。お世話になりましたね。シャナさん」
「え? ああ、そうですか? お大事に……?」
「後日、何かお礼を包ませていただきます。では」
表情を変えずに踵を返して、何かを詠唱したと思いきや一瞬でその姿が消えた。
「え? なに今の……」
きょとんとカレンが声をあげて、同じような顔をしているシャナの二人を見て、オーランドは喉の奥で笑った。
「魔術だよ。俺もたまに使うだろうが」
暗くなった室内に、オーランドは指を滑らせてろうそくに火を入れていく。
「これと同じってこと?」
「起こりは違うが、目に見えない力を使っているという意味では同じだな。俺は、これぐらいしかできないが、バートラムも一応、ああいう瞬間移動というかなんというか、ああいうのを使えるといっていた」
「……なんで?」
「さあ? ……一部の貴族は、こういう力を使える血筋らしいから、あいつらはその中でも高等な血筋なんだろうな」
肩をすくめてはぐらかしたオーランドに、シャナは、いきなり消えてしまったセザールにそっとため息をついた。
「ま、飯食って、シャナはここにいろな。爺さんのところだと、爺さんまで危険な目に合う」
「あたしはいいの?」
「ここに固まってりゃ俺が守ってやれるっつってんだ」
そこに剣もあるからな、と、傘立てにさりげなく差さっている自分の剣を刺したオーランドに、カレンが目をむいた。
「いつの間にっ!」
「いつの間にでもいいだろうが。濡れるのは仕方ないが、さびない剣、魔法剣と呼ばれるものだからな。たまに生徒の相手をしているから腕もなまっていない」
剣を手にした時の陶酔を思い出して、目を潤ませるオーランドに、今度はカレンが咳払いしてオーランドのすねを蹴り上げた。
「余計なこと考えている暇あるなら、とっとと晩御飯作るよ!」
「……っ。お前なあ……」
蹴られた脛をかばいながらオーランドはカレンの後を追い、思い出したようにシャナを迎えた。
「大丈夫だ」
「……はい」
うなずいて、オーランドとともに、夕食を作るカレンの手伝いをして、一緒にとる。
そして、寝静まった夜半過ぎ、窓の隙間から、一枚の紙が、シャナのもとに届けられた。いつもの手紙よりは薄手の質の低い紙。
それでも、シャナはほっと息を吐いていた。
『……僕が、守ります』
窓を開け放っても、もうそこには誰もいなかった。
だが、紙に残ったぬくもりと、かすかな香水の香りは、慣れたものだった。
昨日の更新へなちょこだったから大盤振る舞い(笑)




