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そして、カレンが用意してくれた楽な格好に袖を通して、セザールの部屋に入ると、オーランドとセザールが深刻そうな顔をして話し込んでいた。
「……」
何も言わずに部屋を出て、一階にある給湯室でお茶の用意をしてから、中に入って、二人にお茶を出す。
オーランドの好みの紅茶をいれて、オーランドの隣に座るシャナは、セザールの紅茶だけコーディアルを垂らして出していた。すぐにそれに気づいたセザールがふっと寄っていた眉根を解いて笑みを深める。
「どうした?」
「いえ、なんでもありません。それで? 進捗は?」
「あんたが持ってきた情報をもとにバートラムが報告書をまとめている。影のほうも重畳。でも、まだ決定的なとっちめるネタはない。臭いんだがものは見つかってない。まあ、ここまでくせえわけだから、とッ捕まえて吐かせりゃ終わるだろうな。どうせ、雑魚だし」
「雑魚だからこそ散らばっているんですよ。餌に群がった雑魚たちを一網打尽にしなければ、また面倒になる」
「無駄働きが増えるな」
「だから慎重に。あらかたの毒を切除したい」
「そうだな。複数回手術するのもあれだが、するこっちも大変だからなあ」
「そういうことです」
紅茶を一つ口に含んで、ふう、とため息をついたセザールは、ちらりとシャナを見た。
「仕事の話を聞いていてもつまらないでしょう?」
「え? いえ、別に……」
「セザール、言ってねえのか?」
「ええ。彼女は関係ないでしょう?」
首をかしげるセザールにオーランドは深くため息をついて、頭をかいた。
「シャナ」
「はい」
「出て行ってなさい。終わったら呼ぶ」
「……わかりました」
お湯をいっぱい入れたポットを置いて、シャナは自分のカップを手に部屋の外に出た。
「あ、シャナちゃん」
「仕事の話だからって言われちゃいました」
「あ、そう。まあ、物騒な話を聞いても、あまり愉快ではないものね。そうだ、ちょっとお使い頼める?」
「お使いですか? なんですか?」
「夕飯なんだけどね、スープの具がなくて、シャナちゃんが選んできていいから、スープの具、頼める?」
「……ええ。わかりました」
カレンからお金を預かって、身支度を整えて市場へ向かう。
適当な野菜のきれっぱしを売る八百屋で野菜を買って、それから、安く干し肉を買う。
最後に卵でも買おうか、と残りの金額を確認すると、頭に衝撃が走った。
「いっ」
痛みはないが、軽くて硬いものが当たり、ぬるりと冷たいものがかかった。
「……え」
手をやって、手についた黄色に顔をこわばらせて振り返ると、一人の女が振りかぶった格好でにやりと笑った。地味な服装をしているが、豊かな金色の髪を巻いているところから、そこら辺の町娘ではないことがよくわかった。
「おや、お嬢さんどうしたんだい! 誰にされた?」
「あそこの……!」
すぐに指さすが、人ごみの中に隠れてしまった。
「あ……」
「とにかくその恰好じゃひどい、うちに寄ってきな」
肉屋の店主にタオルと借りて、卵をふき取って、汚れた服を隠すようにチュニックを借りて、すぐにカレンの医院に帰る。




